【“ワルキューレ・ブレイズ”】
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「……“ワルキューレ・ブレイズ”」
新型機の名前を聞いた佐倉が機体名を噛み締めるように反芻した。
「ブレイズ……勇敢って意味? すごく良い名前だね、有馬くんっ」
「あ、ああ、うん。そうだな」
佐倉にとっては初めて聞くのだろう、その名前がすごく気に入ったようなはしゃぎ様だった。
それに俺は気の抜けた相槌を返すしか無かった。
この機体を見た時の既視感、喉に何か詰まったような違和感の正体が分かった。
俺はこの機体を知っている。
知識の出どころは【パトリオット・オンライン】。
この世界に“ワルキューレ”があるのだから、その上位機種“ワルキューレ・ブレイズ”も存在していてもおかしくない。
けど、実際に目にすると現実とゲームの世界がごっちゃになって混乱してしまった。
「でだ、簡単だがコイツの説明するぞー」
オヤジさんは傍に置いてあったキャスター付きのモニターを引き寄せると、自身が手にしていたタブレット端末をケーブルで繋いだ。
モニターには“ワルキューレ・ブレイズ”が3Dで表示されており、機体型式や武装等が示されていた。
「まず、コイツは“ワルキューレ・ブレイズ”だ。さっきも言ったがな。我が軍の新型だ」
ふふんと鼻を鳴らし得意げに話すオヤジさん。
それを佐倉は目を輝かせて頷きながら、熱心に聞いていた。
共同とは言え自身の専用機というわけなんだし、やっぱ嬉しいものなのかな?
モニターを指し、熱のこもった解説をしていくオヤジさんと、それを真剣に聞く佐倉。時折、「おお!」だの「すごい!」だのと感嘆の声を上げていた。
俺はその様子を腕を組んで見ていた。
どれもこれも【パトリオット・オンライン】の設定資料集で見たことばかりだ。
「固定武装は一二.七mmチェーンガンが二門。胸部に有線式電気銃が二門。これは電流のオンオフも出来るから上手く使うといい」
「チェーンガンは今まで通りの仕様なの?」
「いや、今までのは頭に付いてただろ? だからパトリオットの視線の方向だけにしか発砲出来なかったはずだが、コイツのは肩、人間で言うと鎖骨の所に移設した。独立した照準が出来る様になってる」
ほほう、とまた目を輝かせる佐倉。
やたらと目がギラギラしているように見える……さてはコイツ、ロボマニアか……?
「一人でこれの制御までするのは骨だけどな、これは二人乗りだ。そこら辺は分担してやるこった」
「うん、わかった。それでそれでっ」
「んでもって、大型SVS【ヴァリスセイバー】。それと七十六mmの弾丸を発射出来るロングバレルキャノンだな」
とんでもない大口径なんだと理解した佐倉は顔を引き攣らせた。
「な、七十六mm……? 砲口が二つあるみたいだけど、これは?」
モニターに表示されているロングバレルキャノンは確かに大きさが異なる銃口が二つある。
それを観た佐倉が首を傾げる。
「上からは徹甲弾、下からはライフル弾が発射されるんだ。破壊力は申し分無いが反動もすげぇぞ。使い所をよく考えてな。なんて言っても徹甲弾の方は百二十mmだ。考え無しで撃ちまくってたら機体が保たねえ」
「ひゃ、ひゃくにじゅうミリ!? 戦車の大砲と同じじゃない!」
七十六mmだと聞いた時以上の驚きを見せる佐倉は、驚きのあまり目を白黒させた。
正面からでは見えにくいが、機体の背面を覗くと確かに背中にそれらしい武器が装着されているみたいだ。
右後ろにロングバレルキャノン、その反対の左側には身の丈の三分の二程もある大剣ヴァリスセイバーが装着されている。
ロングバレルキャノンは使用時には可動してきて、右脇に挟むように装備する。
徹甲弾は滑腔砲なので照準は難しそうだな。
七十六mmの方はライフル弾ってことは、狙撃にも使えそうだ。
「ロングバレルキャノンの砲身は伸縮式になってる。弾丸は状況や射程に応じて使い分けるんだな」
その二つの武器は背面のハードポイントにそれぞれ装着されており、使用時には可動してくる仕様になってる。
量産型パトリオットの中でも比較的高性能機である“ワルキューレ”のさらに上位機種に当たるのがこの“ワルキューレ・ブレイズ”だ。
エンジン出力や基本固定武装などに大きな変更点は無いが、やや重装甲な“ワルキューレ”に比べ、“ワルキューレ・ブレイズ”の外観はより洗練され、シャープになっている。
上位機種とはいえ、大幅な外観変更で“ワルキューレ”と“ワルキューレ・ブレイズ”は似ても似つかない。
耐久性を捨て軽装になった分、機動性が上がり、より近接戦闘向きに改造された機体。
詰まるところ、“ワルキューレ・ブレイズ”は新型とは言え、無印の“ワルキューレ”と性能的には大差ない。
想定される戦闘の間合いが中距離から近中距離に変更された程度の性能差だ。
……けど、“ワルキューレ・ブレイズ”には大きな特徴が一つあった。
「それでお父さん、あの翼みたいなのは何?」
ちょうど佐倉も疑問に思ったのか、それを指差して聞いていた。
それと言うのは、機体の背面スラスターの上に取り付けられた機関の事だ。佐倉の言う通り、翼に見えなくもない。
“ワルキューレ・ブレイズ”の背面の双肩、人間で言うところの肩甲骨の上辺に取り付けられた翼のような機関。
「おおう、そうだ。コイツがこの“ワルキューレ・ブレイズ”の最大の特徴なんだ」
まるで自分が開発したんだと言わんばかりの様子で、オヤジさんは胸を張って熱弁した。
オヤジさんの説明はこんな内容だった。
その翼のような機関には片方四枚、計八枚のSVSが格納されている。
それを理屈は分からないが、佐倉の魔力で浮遊させ、佐倉のコントロールで敵機に飛ばし、攻撃するのだと言う。
そういえば、あの『王冠の【パトリオット】』、“ジャンヌダルク”が使ってたよな?
多分昨日の戦闘で佐倉がバリアを張る原因になったやつだ。
ゲームにも、登場する武器なんだけどその軌道は自動だったのでプレイヤーは操作する事が出来ない。
その超能力じみた操作方法を聞いた俺は眉の端を上げた。
「八枚のSVSを一度に制御するの……? そんな事出来るかな……」
その事がどれだけ難しいのか想像するしかない俺だったけど、やはり高度な事なのだろう。佐倉は不安そうにそう呟いた。
それを聞いたオヤジさんは、あっさりと言った。
「まぁ無理だろな。だから今は左右一枚ずつしか発射出来ないようにロックしてある。お前は確かに〝魔女〟だが魔力の制御に関しちゃ素人だ。下手すりゃあ戦闘中に【魔導力変換装置】のブレーカーが落ちかねねぇ」
そうなったら困るだろ? とオヤジさんは言った。
魔女の魔力を動力に変換する【パトリオット】のエンジンとも言える機関、【魔導力変換装置】の制御はどうやら難しいらしかった。
「ブレーカーが落ちたらどうなるんすか?」
「そこが戦場だったとしたら、的になるだけよ。相手に捕まり捕虜になるか、はたまた三途の川を渡るか」
「ヒェッ……」
こっわ……!
捕虜ならまだしも、三途の川なんて渡りたくない。
いや、既に一回渡ってはいるんだけど。
いや、捕虜も十分嫌だけど!
「だからよ、この武装はなるべく使わねえこった」
「それで、お父さん。その武装の名前はっ? ジョウゴ?」
「いや、コイツは“クレステッド・アイビス”。いつか自分の思い通りに飛ばせるようになるといいな」
「うん、そうだね。……“クレステッド・アイビス”か」
“クレステッド・アイビス”、つまりは朱鷺だ。
確かに“クレステッド・アイビス”を展開させた“ワルキューレ・ブレイズ”の姿は翼を広げた鳥の姿に見えなくもない。
“クレステッド・アイビス”の刀身は朱鷺のように朱白のコントラスト。その色合いが名前の由来だ。と設定資料集に書いてあった。
佐倉はいつか来るであろう、自在に鉄の翼を操る日に思いを馳せた。
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続きは今日の夜更新。
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