【二人乗りのパトリオット。その名も……】
「……で、これがお前達が乗る機体だ。それを仕上げてたからな。明日の決戦には何とか間に合いそうだ」
「あれ? なんかもう完璧っぽいすけど、違うんすか?」
見たところあの【パトリオット】は人型に組み上がってるように見える。
整備クルーも機体の周りにはまばらで、素人目に見ても組み立て作業は終わっているように思えた。
「まぁ『ガワ』はな。けどこっから【魔導力変換装置】の調整に入らなきゃならねぇ。それがまあまあ大変なんだよ」
「……ああっ」
サラッと聞き慣れない単語が出てきた俺は混乱しそうになったが、単語の意味を思い出してポンと手を打った。
【魔導力変換装置】は【パトリオット】のエンジンのような機関(もちろんゲームの知識)。
簡単に言うとその調整がまだ残ってるって、そういう事みたいだ。
「その前にこの機体の説明だ、明日はこれに乗ってもらうんだからな。しっかりと理解してなきゃ乗せらんねーからな」
話がズンズン進んで行ってしまうので、俺はおずおずと小さく挙手した。
「えっと、佐倉……大尉の方の」
「おう、そうか呼ぶのがややこしければ『お父さん』と呼べ」
「お父さん」
半分悪ノリでそう呼んでみたが、佐倉大尉の方が顔をしかめた。
「……違和感が半端ねぇ」
「自分で言ったんだろうがっ……じゃあ『オヤジさん』」
「おうっ、なんか粋でいいなっ!」
そんな野郎のやりとりを佐倉は少し呆れた様子で肩を竦めた。
多分『整備長とか役職で呼べばいいんじゃ……』とでも思ってんだろう。けど社会とは非情なのだ。
オヤジさんがいつ整備長から引き摺り落とされるか分からない。そう、社会は厳しいんだぞ、佐倉。
オヤジさんという呼び方が気に入ったのか、佐倉のオヤジさんは腰に手を当てて俺の言葉を待っている。
俺は挙手した理由、質問をオヤジさんに投げかけた。
「あの、やっぱりこれに乗るのは俺なんすか?」
「そりゃそうだろ、この機体には優介と莉子に乗ってもらう事になってる。何のためにめんどくせー複座なんぞにしたと思ってんだ」
俺の質問に当たり前だと言わんばかりに佐倉大尉、もといオヤジさんは言った。
確かゲーム【パトリオット・オンライン】だと【パトリオット】は単座式。要するに一人乗りだ。
プレイヤーはパイロット、即ち“魔女”を一人選び、選択可能な機体に乗り込んでゲームを進める。
つまり【パトリオット】のパイロットは必ず女性という事になる。
この世界の【パトリオット】も魔力で動くという事は昨日佐倉に確認済みだ。
という事は、『魔力で動く機動兵器』である以上、魔女以前に男の俺一人乗ったところで動かせない。
「その為の複座式、『デュアル・パイロット・システム』なんだよ。昨日の“ワルキューレ”にも同じシステムが搭載されてたでしょ」
「ほ、ほぅ……」
首を傾げる俺に佐倉が諭すようにそう言った。
な、何となくだけど事情がわかってきたぞ。
俺は曖昧な返事をする他無かった。
ゲームの“ワルキューレ”も一人乗り。
けど昨日俺が乗った時は確かに二人乗りだったな。
複座式以外のコクピットの作りがあまりにも同じだったから気づけたけど。
デュアル何ちゃらというのはよく分かんないけど、要するに佐倉の魔力で【パトリオット】を起動し、俺が操縦する。つまりは分業って訳か。
「男の【パトリオット乗り】なんざ聞いた事がないが、まぁ昨日のデータを見せつけられたら何にも言えないわな」
オヤジさんはタブレット端末をスラスラと操作すると、肩を竦めた。
やっぱりこの世界では……というか、【パトリオット】は女性が乗る物だという事が常識みたいだ。
魔力を持つ女性、つまり魔女しか動かせないから当然か。
【パトリオット】が二人乗り、しかも男が操縦するということは非常識なのだという事が窺い知れた。
「私も見てびっくり。あんなデータ見た事ないよっ」
「ああ。あの数値ならあの【ジャンヌダルク】を圧倒出来るかも知れねえ」
“ジャンヌダルク”
昨日俺たちを襲い、去っていった【パトリオット】の名前……。
その時俺はハッとした。
初めて〝ジャンヌダルク〟を見た時、そして目の前の機体を見た時に覚えた既視感。
喉から出かかって出なかったものの正体。
そして俺はさっきから、いや、昨日から感じていた違和感の正体を知る事になる。
「この機体の名前はな……」
オヤジさんの口がこの機体の名前を言おうと動く。
それと同時に俺もこの機体の名前を呟いていた。
「……“ワルキューレ・ブレイズ”」
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続きは明日の朝更新。
少しだけストックが有りますので、しばらくは毎日複数話更新の予定です。
主人公機は“ワルキューレ・ブレイズ”に決めさせていただきました。
Twitterにて多数の案を頂きまして本当にありがとうございました。
この場を借りて、お礼申し上げます。