【トウヤ基地格納庫】
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次の日、俺は佐倉に連れられて再び基地に来ていた。
その日の目覚めは、いつになく快適なものだった。
いきなり押しかけた他人の家で眠れるか心配だったけど、なんて事はない。布団に入って目を瞑ったら、もう朝だったほど。
自分が思うよりずっと疲れていたんだな。
一晩空けて明日、あの『王冠の【パトリオット】』がこの街、『トウヤ市』を占拠しようとやってくる。
聞くところによると【ルゴール王国】の軍は、必ず攻撃する日時を報告してから仕掛けてくるらしい。
理由はよく分からないらしいが、今までの戦闘も全てそうらしいので今回もまぁ間違いないとの事だ。
騎士道ってやつか? 知らんけど。
度重なる襲来で防衛線は徐々に後退。
いよいよトウヤ基地ギリギリまで押し上げられ、次回が最終決戦というわけだ。
ちなみに居住区に住む非戦闘員は今日の早朝から避難が始まっている。今日の午後には完了する予定らしい。
「……で、毎回敵が来るのが分かってるのに何で勝てないんだよ?」
「うぐっ!?」
俺の言葉に佐倉が見えない矢が心臓を貫いたかのように胸を押さえた。
そして顔をしかめて俺を見る。
「い、痛いところを突くね、キミは」
「軍隊の事情とか全然詳しくないからわかんないけど、なんて言うか、物資? とか苦労してなさそうというか」
この『トウヤ基地』の中を佐倉に連れられて歩いているわけだけど、何となくそんな事を思っていた。
何が入っているか分からないけど、敷地内にいくつも赤茶けたコンテナが積まれていて、重機を使ってそれを運搬していたりするのを見た。
【帝国】側の財政とか全く分からないけど、ジリ貧で戦っているようには見えなかった。
「そ、そうね。ありがたい事に補給は十分行き届いてる。弾薬から何から割と潤沢に」
「じゃあなんで勝てないんだよ?」
「あ、有馬くん……? その、わかって言ってない?」
「え? 何が?」
その問いに俺は首を傾げるしかなかった。
ただ単に思った事を聞いただけなんだけどなぁ……。
「ま、まぁいいわ……さ、ここよ」
ちょうど良かったと言わんばかりに、佐倉は塗装の剥げた鉄製の扉の前で立ち止まった。
何回も塗り直したであろうその扉は、引き分け式の吊り戸で、佐倉は両手で引き手を持ち、思い切り体重をかけて開けようとする。
しかし扉は少ししか開かず、難儀しているようだったので俺も手を貸し、ようやく耳障りな金属音をたてて開いた。
扉の向こうの光景を目にした俺は思わずため息に近い歓声を上げた。
「……おお……」
どこに連れて行かれるか分からなかったけど、なるほど、格納庫か。
天井が高い非常に開けた空間、むき出しの鉄柱、白銀灯の灯り。
コンクリート打ちっぱなしの壁、グリーンに塗装された床には何かの目印なのか、白線等が描かれている。
そこに佇む鉄の巨人に俺の目は釘付けだった。
大小様々なケーブルの先には、移動式の足場に囲まれた純白色の【パトリオット】がいた。
昨日の“ワルキューレ”とは違う機種。
純白の装甲に身を包んだその華奢なボディは【パトリオット】の典型とも言える細身のシルエットだ。
細身と言えど、その風格に頼り無さは一切ない。
機体の所々に朱色のマーキングやラインが引かれており、非常に色鮮やかな印象を受けた。
胸には【帝国軍】のシンボルだと言う、桜の紋章。頭部には特徴的な一本角。鋭いツインアイが遠くを刺すように睨んでいた。
やはりその大きさには言葉にならない存在感があった。
確か大体のパトリオットの全高は八メートル前後だし、昨日の“ワルキューレ”と同じくらいだから、大きさは一般的なんだろうけど。
何回見てもすごい威圧感だ。俺はその【パトリオット】をただ無言で見上げていた。
なんだか……。
俺の中にはなんとも言えない感覚が広がっていた。
「……すごい、もう組み上がってるっ!」
俺が出どころの分からない違和感に首を傾げていると、隣の佐倉が感激したように声を弾ませた。
口ぶりからすると、佐倉もこの機体を初めて見たのかも知れない。
「おう、来たな」
男性の声に振り向くと、そこにはオレンジ色のツナギを着た中年の男性が立っていた。
白髪が混じった頭髪は短く刈り込んであり、同じく白髪が混じった無精髭。
四十代後半くらいかと思われるが、しかし整った顔立ち。オレンジ色のツナギを黒々と機械油で汚している。
一目で整備兵の人だとわかったが、そのちょいワルオヤジっぽい人相は、街のバイク屋で趣味全開の愛馬をバリバリにカスタムしていそうな風貌だった。
「どうだ、すげぇだろ? 工期を丸一日早めでやったぜ? まぁ小僧どもは死にそうになっちまったがな、なはははっ!」
そういうとその男性は、手に持っていた大きなスパナで肩を叩きながら豪快に笑った。
小僧どもと言ったのは他の整備クルーの事だろうか、後ろで作業しているクルー数人が男性を睨んだ。
しかし彼らの視線に敵意や恨みなどは見受けられない。
普段からコミュニケーションをよく取っているのか、現場環境は悪くはなさそうだ。
「うん、すごいっ! まさか組み上がってるとは思わなかった」
「まぁ一から組み上げた訳じゃねぇからなぁ。流石にデュアル・パイロット・システムの調整には骨が折れたが、昨日の“ワルキューレ”のデータが役に立ったぞ……って、この子かい? 異世界から来た勇者様っつーのは」
佐倉と仲良さげに話すその男性が佐倉の後ろにいた俺に気づき、にっと笑った。
どうやら俺の存在は周知の事実らしいな。
その視線に続き佐倉が俺に向き直って、その人に俺を紹介した。
「そうそう、彼が勇者さま」
「いやいや勇者はダサいだろ。それになんだかマヌケだ」
「そ、そうかな?」
カッコいいのに……と残念そうにぶつぶつと言いながら、佐倉は改めて俺を指して言った。
「有馬優介くん。とりあえず明日までは居てくれるって」
「どうもっす」
「おう! よろしくな、優介っ!」
そう言って彼は俺の背中をバシバシと叩いた。
いきなりファーストネームを呼び捨てとかコミュ力最強かよっ。
俺には絶対真似できない。苗字の呼び捨てくらいがせいぜいだ。早速人見知りが発動している俺はなんとか一言だけ返した。
「う、うす」
「俺は整備班班長の佐倉大尉だ。パイロットとは深い付き合いになるだろうから……って、なんだ青い顔して、お?」
「さ、佐倉って……」
その名前を聞いた俺は驚き声を上げた。
そう言えば昨日の夜、佐倉の家族でそんなような話をしていたのを思い出した。
まさか整備兵のリーダーだったのか。
「そう、私のお父さんっ」
佐倉はそんな佐倉大尉の腕を掴んで嬉しそうに言った。
そして佐倉大尉はそれに応えるように白い歯を見せて、豪快に笑った。
「そうだ、俺がお父さんだっ! はははっ……けど優介、お前はまだお父さんと呼ぶんじゃねぇぞっ!? なっはっはっは!」
「呼ばねぇよ!」
俺はたまらず突っ込んだ。
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続きは今日の夜更新。
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