【ただいま】②
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「おっかえりぃー!」
ドドドドッ!!
佐倉がドアを開けるや否や、決して広くはない廊下の奥から十歳くらいの女の子が勢いよく走ってきて……そのまま佐倉に飛びついた。
「うわっ!? あははっ、ただいまっ」
「おかえり、お姉ちゃん!」
物凄い勢いで飛びつかれたが、佐倉は難なく受け止めた。さっき鍛えてるって言ってたけど本当みたいだな。
全く線が崩れなかった。
お姉ちゃんって言ったけど、もしかして妹か?
てっきり一人暮らしかと思ってたけど、俺の早とちりだったみたいだ。
内心ホッとしたような、そうじゃないような……。
そんな事を考えていると、佐倉の胸に顔を埋めていた女の子が俺に気づいて小首をかしげた。
「あ、この人がありま?」
「ん、あぁそうそう、今日から一緒に暮らすのよ」
こらこらいきなり呼び捨てか。てか訂正しろよお姉ちゃん。
「宿が見つかるまでな」
「ふうん? よろしくっ!」
「お、おお……」
多分、よく分かってはいないんだろうけど、にぱぁと佐倉妹は俺に笑いかけてきた。ていうか、純粋な笑顔が眩しいっ! さっきまでお前の姉ちゃんをやらしい目で見てしまっていた! すまん!
というか姉ちゃんに似たのか、人見知りはしないみたいだ。屈託のない笑顔がなんとも可愛らしい。
「おかえり、莉子」
「あ、母さん。ただいま」
声の方に顔を向けると、エプロン姿の女性が立っていた。
佐倉のお母さんだろう、俺はペコリと頭を下げた。
「あ、こ、こんちは……」
成り行きとはいえいきなり押しかけてしまった気まずさもあり、中途半端な挨拶になってしまった。
そして逆に佐倉のお母さんは折目正しく一礼して、俺に言った。
「貴方が有馬さんですかっ……もう、なんとお礼を言ったらいいか……本当にありがとうございましたっ」
その声は震え、感情の昂りから声が上ずっている。
突然の感謝に俺はあたふたとしてしまい、どうしたらいいかわからなくなって、あうあうとしか言えなくなってしまった。
「え、あ、そ、そんな、なんです、いきなり……」
「貴方がうちの娘を救ってくれたんでしょう、本当にありがとうございました」
突然の言葉に俺は手を振って否定した。
「救っただなんてっ。俺は自分が助かるために操縦したに過ぎませんからっ」
「それでも娘を救って下さった事に変わりはありません」
佐倉のお母さんは頭を下げたまま、そう言ってくれた。
結果的にそうなったかも知れないが、あの時の俺は、自分が助かる為に必死だった。
確かに懸命に戦おうとする佐倉の姿が多少胸を打ったのは確かだけど、それはほんのキッカケに過ぎない。
すると俺の横にいた佐倉が、ずいと前に来て言った。
「私からも。ありがとう、有馬くん。あの時、キミが操縦桿を握ってくれなかったら私は……」
「……」
二回目の感謝の言葉を口にした佐倉はそこで言葉を詰まらせた。
俺が操縦桿を握ったからと言う訳じゃないだろうが、あそこでもし【ヴォルガー】にやられていたら、こうしてこの家に帰ってくる事は出来なかったかも知れない。
当然俺には子供なんかいないから、お母さんの気持ちなんて分かるわけないんだけど、【パトリオット】の操縦者という仕事に就く娘を毎日どんな気持ちで送り出しているのかを考えると胸が痛んだ。
そんな空気を感じてかそうでないのか、佐倉の腕に抱かれた妹が首を傾げ、さらに空腹を訴えた。
「……? ねぇねぇ、私お腹すいた!」
その一言でどことなく沈んでいた空気がガラリと変わり、お母さんも目尻に浮かんだ涙を指で掬うと
笑顔で言った。
「あ、あははっ。そうね、お腹すいたわねっ。今支度してるから、もう少し待っててくださいね。さ、狭い所だけど上がって下さい」
「すみません、じゃあ失礼します」
佐倉のお母さんがスリッパを出してくれたので、俺は靴を脱ぎ、それに履き替えた。
「こっちだよー」と、佐倉妹がパタパタと走り、俺を追い抜いていく。
本当に元気で明るい子だな。見ていて気持ちがいい。
「……? どうした?」
俺の後ろで靴を履いたま佇む佐倉に目をやった。
佐倉は足元ばかりを見て動く様子は無い。
「……」
そこで俺は再び踵を返し、佐倉妹の後を追った。
佐倉の長い前髪で顔は見る事は出来なかったが、彼女の肩は震えていた。
いつもと変わらない家族に、何も変わらず無事に対面出来た喜び。そんな感情が心に広がっているのかも知れない。
わざわざ声をかける事はない。
今は一人にしてやろう。
俺は佐倉に構わず、リビングのドアを開けた。
するとキッチンからは食欲をそそる香り、カレーの香りが漂ってきた。
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続きは今日の夜更新。
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