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ちーがーうー! 2/4

「じゃあね、ちーちゃん、みーちゃん。あ、あと、メガネ先輩」


「へ……?」


 颯爽と登場した割にモモちゃんはそのまま帰ってしまった。

 って、メガネ先輩ってさすがに失礼なんじゃ……。


「うん、バイバーイ、モモぉ!」


 モモちゃんに向かって元気に手を振る美赤ちゃん。


「えっと、美赤ちゃん?」


「え?だって、モモは帰る方向違うじゃん」


 私が訳も分からないまま美赤ちゃんを呼ぶと、何も聞いていないのに彼女が説明してくれる。

 うん、私が聞きたかったのはなんで美赤ちゃん達がここにいるのか?であって、モモちゃんが帰っていった理由じゃないんだけどね。


「あの……八剣さん?えっと、友達?」


「ああっ、すっ、すいません、先輩!」


 私が慌てて先輩に謝ると、美赤ちゃんは先輩の真ん前に立って先輩を見上げる。


「よしっ、見た目は合格!」


 え??合格なの?私的には先輩の長い前髪は不合格なんだけど……って、違う!


「み、美赤ちゃん、何言ってんの!?すっ、すいません、先輩!」


 さっきから私、先輩に謝ってばっかだし!って言うか……。


「美赤ちゃん。どうしたの?こんなとこで……。先に帰ったんじゃないの?」


「あー、うん、ちなみが入ったクラブの先輩が、どんな人なのか見極めたくて」


 美赤ちゃんはしれっとそんな事を言う。いや、さすがに先輩に対して失礼じゃない?


「って事でさ、3人で帰ろうよ!」


「えぇ────………?」


 そんな美赤ちゃんの言動に呆気に取られてる私をよそに、先輩はあまり物事を深く考えて無いのか、「うん、良いよ」と、快く答えるのだった。




「へぇ、先輩、私らの家の近くに住んでるんだ!あ、でも小学校の時、先輩みたいな人っていたかな?」


「ああ、僕は去年の4月、入学に合わせて引っ越して来たからね」


「なるほど!だから見たこと無い顔だなって思ったのかぁ」


 さっきから先輩、美赤ちゃんとばっかり話してる。

 今日も先輩が読んだ本の感想を聞きたかったのにな。


「先輩って物腰も柔らかいし、優しそう。うん、合格!」


 だから合格って何の合格なんだろう?

 言われた方の先輩も愛想笑いを浮かべつつも、不思議そうな顔してるし。


 そうこうしているうちに先輩とお別れする交差点に来てしまった。

 ああ、今日はあまり先輩とお話出来なかったなぁ……。


「じゃあね、八剣さん、宵野さん」


「あ、今日もありがとうございました」


「じゃあね、先輩。バイバーイ!」


 先輩は帰って行った。


「えっと、美赤ちゃん?」


「ああ、ちなみの言いたい事はわかるよ?『先輩と2人っきりでラブラブいちゃつきながら帰りたかった』、だよね?」


「ちーがーうー!」


 もう、美赤ちゃんってば完全に勘違いしちゃってるよ。

 私と先輩はそんなんじゃない……よね?


「でもさ、良い感じの先輩じゃん?ちなみにはああいった感じのちょっと頼りないけど、優しい感じの人が良いと思うよ?」


「だから違うよぉ」


 結局私は弄られる立場なのか。

 それに美赤ちゃんはずっと誤解したまま。

 ……えっと、誤解……だよね?きっと。





 翌日はさすがに美赤ちゃんもモモちゃんも現れなかった。

 ま、昨日のモモちゃんはどうせ美赤ちゃんに付き合わされただけなんだろうけど。


「昨日読んだ本は僕的には今イチだったんだけど、今日のは本当にお勧め。最後の最後まで伏線が回収されないんじゃないか?って不安になりそうだったけど、その不安感も含めて作者の意図だったんじゃないかな?って思えたんだよね」


 先輩の特徴の1つ。本の話を始めると、普段の物静かな雰囲気が一転、一気に饒舌になる。

 本当に読書が好きなんだな、先輩って。

 私も読書は好きだけど、どちらかって言うともっと表面的な部分、物語や登場するキャラクターをそのまま楽しむ感じ。

 読書の楽しみ方としてはどちらも正解なんだろうけど、おそらく先輩と私とでは、本に対する視点そのものが違うんだろう。


 そんな先輩との楽しい下校時間ももうすぐ終わり、そこに見える駅の高架をくぐった先の交差点でお別れだ。

 ちょっと寂しいな、もうちょっとお話ししてたかったって思いながら歩いていると、先輩はその高架の下に設置されているプライズゲームのたくさん置いてあるスペースを見る。


「あれ?あの子、えっと、確か宵野さんだったかな?」


 あ、確かに。

 美赤ちゃんがゲームしてる。何だかその脇にはすごい数の景品……って言うか、美赤ちゃん、相変わらず景品取るの上手いな。

 あれじゃまた入店禁止食らっちゃうんじゃ……って、あれ?美赤ちゃん、誰か男の人に絡まれてない?


「あっ、八剣さんっ!?」


 先輩の私を呼び止める声も聞かず、私は美赤ちゃんの元へ駆け出す。

 何だかんだで私を弄るのが大好きな美赤ちゃんだけど、小学生の頃、瞳の色がみんなとは違うってだけで虐められていた私を助けてくれた恩人なんだ。

 だから私は美赤ちゃんが何か困ってたら、必ず助けようって決めていた。

 それが今なのかどうかはわからないけど……。


「ああ……?やつるぎだぁ?」


 男が先輩の声に反応する。

 うわぁ、お酒でも飲んでるんだろうか?

 その男は顔が真っ赤だった。

 とても美赤ちゃんの知り合いとは思えない。


「あ、ちなみ、やっほぅ」


「やっほぅじゃないって!大丈夫?美赤ちゃん」


 度胸が座ってるのか呑気なのか、いつもとあまり変わらない美赤ちゃんの態度に、ちょっと拍子抜けしそうになる。


「いやぁ。さっきからこの酒臭いおっさんが「学生の癖にゲームばかりするな」って絡んできてさぁ。ウザイし、集中出来ないしで困ってたんだよね」


 それだけ景品取っておいてよく言うよって、ツッコミを飲み込みつつ、私は美赤ちゃんに絡んでいた男性に向き直る。


 うわっ、お酒臭っ……。

 しかもよれよれの恰好をしてて、無精髭。

 普通に不審者っぽく見える。

 って言うか、めちゃくちゃ怖い。

 だけど私が助けないと……。


「あ、あの、私の友人に何かご用でしょうか?」


 私は男の顔を睨み付けるように見据え、震える声でそう尋ねたのだった。

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