ちーがーうー! 1/4
「ちなみぃ。どう?その例の『読書クラブ』!」
私が読書クラブに入った翌週の月曜日。
美赤ちゃんがいきなりそんな事を尋ねてくる
「ど、どうって?」
「聞いたら読書クラブって、男しかいないって噂じゃん?いやぁ、すごいところに入ったなぁって思ってさ」
男しかいないって……。まあ先輩1人だけの部活だし、間違ってはいないけど……。
「別に……普通に本を読んで、感想を言いながら帰るだけだよ?」
「え?感想を言いながら帰るって……」
あ、しまった!
「ちなみ、いきなり男子と一緒に帰ってんの!?」
「み、美赤ちゃん!声、大きい!」
美赤ちゃんの大きな声に皆が何事かと私達を見る。
だけど詳しい話の内容まではわからなかったのか、すぐにみんな雑談に戻っていった。
ホッと胸を撫で下ろした私は、私の顔を心配そうな表情で見ている美赤ちゃんに、内緒話をするかのように顔を近付ける。
さっきみたいに大きな声を出されたらたまんないもんね。
「あのね、美赤ちゃん。たまたま。たまたま帰る方向が一緒だったってだけ」
「ふーん、私ゃ男嫌いのちなみにもついに好きな人でも出来たんじゃないかって、期待してたのになぁ」
「なっ……!」
私はかなり驚いた表情をしたんだろう。
美赤ちゃんがニヤニヤした表情で私を見ている。
「そ、そんなんじゃないんじゃないかなぁ……?」
そんな私は戸惑いながらも努めて冷静を心掛けつつ否定すると、美赤ちゃんはその顔をさらにニヤニヤさせる。
「ふーん、でもさ、ちなみって嘘吐くとき、目を逸らすよねぇ」
あれ?私、今、目、逸らしてた?
「えっ!?嘘っ!?」
すると美赤ちゃんはいきなりそんな私に軽くデコピンをしてくる。
「嘘だよっ!もう、ちなみの方が声大きいじゃん!」
私はパッと周りを見る。
すると先ほどと同じように、いつの間にかみんなの視線を集めていた。
「も、もう、美赤ちゃん!そんな事ばっかり言ってるからみんな見ちゃってんじゃん!」
視線に晒されてすごく恥ずかしかったけど、私はどうにかこうにか何事もなかったかのように振る舞うと、みんなも少し気にしたような素振りを見せつつも、雑談に戻ってくれた。
「あはは。でもそれなりに楽しんでるっぽいじゃん!私、ちなみがちゃんとやれるか心配してたんだよ」
「もうっ、嘘ばっかり」
「実はそれが全く嘘って訳でもない」
私をからかう美赤ちゃんの態度にふてくされていると、いきなりモモちゃんが寄ってきて、スマホの画面を見せる。
「これ、金曜日のみーちゃんとのチャット」
画面には見慣れた美赤ちゃんの元気そうな顔写真のアイコン。
見てみると私を心配する書き込みばかりしている。
「実はこう見えてちーちゃんの事を一番心配してたのはみーちゃんだったりする」
「ちょっ、モモっ!?そ、それ、反則でしょ!」
「へぇ、美赤ちゃん、本当に私の事、心配してたんだ……」
あはは、美赤ちゃん、恥ずかしいのか真っ赤になって慌ててるし。
ダメだ。何だか可笑しくて頬が緩んでしまう。
「みーちゃん、ちょー過保護」
もうっ、美赤ちゃんも素直じゃないなぁ。
「なんて面白い友達がいまして」
「あはは……良い友達じゃないか」
早速今日の事を先輩に話してみた。
先輩はくだらない話でもちゃんと聞いてくれる。
結構丁寧な性格みたい。
話が途切れたところで先輩は、本を読み始めた。
私もカウンターの隣で読み始めるんだけど、どうも集中できない。
「男嫌いのちなみにもついに好きな人でも出来たんじゃないかって……」
今朝の美赤ちゃんの言葉を思い出し、私はカウンターの右隣、先輩の方を見る。
身長は160ちょっとぐらいかな?
あまり背が高い方じゃない。
そして下から覗きこんでやっと表情が見えるぐらいの長い前髪。
普通に考えてパッと見で好きになるなんて有り得ない見た目。
って言うか、私は男子が苦手なんであって、別に男嫌いではない。
アイドルとか普通に好きだし……。
もちろん先輩の事は嫌いでは無い。
優しくて、かなりレアだけど笑顔が素敵で……。
うん、私はこの先輩に興味があるのだ。それは間違いない!
そんな事を考えながら読書をしていたら下校時間になった。
私と先輩は先週の金曜日と同様に帰りの準備をし、図書室の鍵を職員室に持って行くと、2人並んで校門に差し掛かる。
「よっ、ちなみ。偶然だねっ!」
「ちーちゃん、本当に偶然」
いや、こんなわざとらしい偶然、是非遠慮したかった。
校門に立つ私より少し背の高い人影と、私より少し背の低い人影。
その人影……美赤ちゃんとモモちゃんは、私と先輩を見てニヤリと微笑むのだった。