はい、もう決めてますっ! 1/4
「ちなみぃ。部活、何にするか決めた?」
放課後、クラスメイトで幼なじみ、そして私と同じ吸血鬼の宵野 美赤ちゃんに声を掛けられる。
彼女とは小学校6年間、ずっと同じクラスだったけど、中学生になっても同じクラスで、しかも今は私の後ろの席だ。
それだけ聞いたら腐れ縁って言われそうだけど、私と美赤ちゃんはそんな関係ではない。
人間に比べて絶対数の少ない吸血鬼同士って事もあって、それこそ姉妹みたいな関係に近いと思ってる。ま、お互い一人っ子だから正確には兄弟姉妹の関係なんて、どんなのかは知らないんだけど。
ちなみに私としては小学1年の頃、同級生の男子に見た目の違いで虐められていたところを助けられた事もあり、美赤ちゃんの事は恩人のように思ってるんだけどね。
見た目も、行動も活発な彼女はそのサイドポニーテールにした黒髪の先をピコピコと揺らしながら、彼女より少し低めの位置にある私の顔を、さらに身を低くし、「ふふっ、今日も相変わらずきれいな色っ!」って言って、その大きなくりっくりの目でのぞき込んでくる。
「あはは、まだ決めてない……。美赤ちゃんは?」
ああ、もう、毎度ながら美赤ちゃんってかわいいなぁ。
もし私が男子だったらこの仕草だけで恋をしちゃいそうになるよ。
そんな事を考えつつ、私は美赤ちゃんの質問に答え、そして逆に質問する。
「うん、私、囲碁将棋部に決めた!最初だけ出て以降は幽霊部員になる予定」
もう、美赤ちゃん、最初からそう決めてたとは言え正直過ぎ。
でも昔から美赤ちゃんを見てるけど、あまり真面目に部活に出るってイメージはない。
要領が良くて、勉強も運動も得意なんだけど、何に対しても程々。物事に一生懸命取り組むタイプではない。
それにしても何で囲碁将棋部?……まああまり深くは考えないでおこう。
「ちーちゃん、みーちゃん。私は美術部にしたよ?」
いきなりひょこっと少女が現れる。
この子は保美 桃花ちゃん。通称モモちゃん。入学して私の前の席になった、独特の雰囲気を纏ったちょっと不思議な女の子。
すごく人懐っこい彼女は、その小さな体型も相まって、早くもクラスのマスコットみたいな存在になっている。
彼女は何故か私のこの緑色をした瞳がお気に入りのようで、黙って私の顔をジッと見てくる事が多い。
でもあんまりジッと見つめられると、こっちがはずかしくなってくるから程々にして欲しいんだけどなぁ。
これは数日前に本人に聞いた話なんだけど、彼女はきれいなものが好きみたいで、私の瞳は大・大・大好きって言ってくれた。
それだけで今まであまり好きではなかったこの瞳も、もしかしたら良いものなのかも?なんて思えてくるから不思議。
ふーん、モモちゃんは美術部に行くんだ。
ちなみに私達が通うこの中学校では、生徒はどこかのクラブに所属しなきゃいけない決まりになっていて、実は明日までにそれを決めなければならない。
だけど私は運動が苦手だし、何が好きかって言われても特にしたい事もない。
そんなだから入る部活を決めかねてるんだけど……。
いっそ美赤ちゃんみたいに適当な部活に入って幽霊部員に……なんて思った事もあったけど、何だかそれも悪い気がするし……。
私も美赤ちゃんみたいな捌けた性格だったらそういう事も出来たんだろうな。
だけどせっかく中学生になったんだし、何か打ち込めるものを探してみたいって気持ちもあったりする。
でも明日が期限なんだから、実質的に今日が部活を決める最終日。
一応候補は2つまで絞ってある。
それは吹奏楽部と演劇部。
私は虐められてた経験から、いまだに男子の事がちょっと苦手なんだけど、その2つとも部員は女子ばかり。
そしてどちらも舞台での発表があるから、もしかしたら内向的な自分を変えるきっかけになるんじゃないか?って思って、この2つに候補を絞った。
それにしても2人とも、しっかりと中学生活の方針を決めてて偉いなぁ……。って言っても美赤ちゃんは相変わらず中学生になっても遊び倒すつもり満々っぽいけど。
私も負けてらんない!
そう思った私は帰り支度をしつつ、2人に声を掛ける。
「じゃあ私、部活の見学に行ってくるね!」
そして2人に手を振りつつ急いで教室を後にしたのだった。