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prologue

挿絵ははとしろ(眞城白歌)様(@Hatori_kakuyomu)から頂いたFAです。

挿絵(By みてみん)



「はぁ……」


 吐き出した息が白く消えていく。

 空はまるで冬らしさを表現したかのような、どんよりとした灰色。

 手袋越しでも伝わってくるその冷たさを少しでも和らげようと、私は手の平に息を吐きかける。

 一瞬温かくなった手も、結局は焼け石に水、いや、何だか焼け石って暖かそうだし、だからってあまり適切な表現が見当たらないんだけど、結局少しだけ温かくなったこの手も、冷たい空気に晒されて一瞬で冷たくなってしまった。

 そんな私はもう一度その手を温めようと、手を口に持っていこうとする。


 すると突然右手を掴まれてしまい、私はついついその手をビクつかせてしまった。

 そして私は右側を歩く先輩を見上げる。

 寒さのせいか、それとも照れているのか、先輩は真っ赤な顔で真っ直ぐ前を見ている。

 伝わってくるのはその手の温かさだけではない。

 私の奥の方から湧き上がる感情から来る温もりと、そして緊張して力が入りすぎているのか、少し震えるような感触。


 スッゴく勇気を振り絞ったんだろうな。

 先輩のあまり余裕の無さそうな表情を見ていると、私も自然と顔が熱くなってきて、さっきまで感じていた寒さはどこか遠くへ吹っ飛んでいってしまう。

 ああ、ダメだ。

 先輩もそうなんだけど、私も顔が真っ赤になっている事だろう。


 いつも思うけど、先輩って思い切った時の行動がとても大胆だ。

 そう、あの時もそうだし、あの時だって……。


「どうかした?八剣(やつるぎ)さん」


 私が考え事をしている表情を先輩は見逃さない。

 もう……先輩、前から名前で呼んでって言ってるのに……。


「あの、先輩。私の事は名前で呼んでくださいって、前にも言いましたよ?」


 実際はそれほど不満でもない。いや、むしろ今のこの先輩とのやり取りが楽しくて仕方ないんだけど、わざわざ不機嫌そうな表情を作り、私は先輩を見上げる。


「え、えっと……ち、血波(ちなみ)……さん」


 ああ、予想してたけどヘタレてしまった。『さん』なんていらないって言ってるのに……。

 先輩っていざって時は信じられないほどの行動力を発揮するってのに、普段はあまりにもヘタレ過ぎる。


「ふふっ」


 でも自然と口元が緩んできちゃうのは、私の名前を呼ぶときのその先輩の表情を見てしまったからなんだろう。


 私と先輩。出会ってから、嬉しかった事、悲しかった事、様々な事が起こった。

 今ではこうやって先輩をからかうまでになったんだけど、出会った頃なんて、それこそ先輩と話をするだけで浮かれたり、緊張して訳わかんない事言ったり、それに……目が赤くなっちゃったり……。


「って八剣さん!赤くなってる!」


 もう、先輩、焦ってるのかも知れないけど、呼び方がもう元に戻ってるし。

 最近は私も飢餓状態になっちゃうスイッチが何なのかがある程度わかってきたけど、やっぱりこの赤く変化した目を見られるのは、まるで私が食いしん坊だと思われそうでちょっと恥ずかしい……。

 でも多分私が先輩と一緒にいる限り、この唐突に目が赤くなる現象は避けられないんだろうな……なんて考えつつ、私は鞄の中、ポーチにいつも入れている赤い色をした飴玉を口に入れた。


「んっ……!」


 するとその飴玉に入った成分が快感と共に体中に行き渡るのを感じる。


「あ、あの、どうですか?」


 普段、1人でいる時の私はコンパクトミラーで確認するんだけど、先輩といる時は直接私の目を見てもらうようにする。

 すると先輩は決まってこう言うんだ。


「うん、いつも通り、きれいな緑色に戻ってる」


 自分でそう言わせてるくせに、私は顔が熱くなってくるのを感じる。

 先輩にそう言ってもらえる度に、私のこの独特な瞳の色がどんどんと好きになってくるから不思議だ。

 以前はすごく嫌いだったのにね、この瞳。


 普段の私はエメラルドのような緑色の瞳。それが飢餓状態になるとルビーのように赤くなる。

 それは私達吸血鬼と呼ばれる種族の中にあって、稀に生まれてくる先祖返りと呼ばれる者の宿命みたいなもの。

 私達先祖返りは飢餓状態でしばらく放っておくと、灰になって死んでしまうらしい。

 ま、私はその先祖返りの中でもさらに特殊なんだけど……それは後々語っていくとしよう。


「さ……えっと……血波さん。帰ろうか」


「はいっ、(あかり)さん!」


 名前を呼んでくれて嬉しくなった私は先輩の名前を呼んでみる。

 あはは、先輩、また顔を赤くしてるよ。

 多分私の顔も先輩と変わらないんだろうけど。


 そう、私は吸血鬼。

 だけどこうして私は人間として……いや、私だけではない。

 吸血鬼の殆どが、既に吸血鬼としての姿や本能、能力を失い、普通の人間と共に、普通の人間と変わらない生活を送っている世界。


 これはそんな世界で吸血鬼、それも先祖返りとして生きている私、八剣(やつるぎ) 血波(ちなみ)の少し不思議な物語。

 ここまで読んでくれてありがとうございます!


 皆様、ご無沙汰&初めまして!

 小糸こいと 味醂みりんと申します!


 この物語は吸血鬼という存在が普通に人間として暮らす世界を、吸血鬼、それも人間の血液が必要な『先祖返り』の少女の視点を通してお楽しみいただこうというコンセプトのもとに作り上げました、完結済みの作品です。

感想(ノベルアッププラスでは主人公、ちなみちゃんへの応援やキャラクターへの声援が多かったです)や評価、ブックマーク、レビューなどいただいたら作者は天にも昇る気持ちになりますので、よろしくお願いいたします!


 それでは『吸血女子 八剣血波は青春する。』スタートです♪

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