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あれ、入れ替わってるー を一番使いこなせない男  栗原哲也

作者: 先端がP

――実は僕、超能力者なんだ。このことは皆には言わないでくれよ。東雲 


――わ、分かったわ。栗原君て格好良いね 


 学校に行く途中、入学してから頭の中で何度も救った彼女の照れた顔を思い浮かべる。今日は特に気分が良い。僕を高揚とさせているのは昨日起きたイベントによるものだろう。天国か地獄、またの名をデッドオアアライブと書く学校の行事。


席替え。


察しの良い方ならもうお気づきだろう。僕の隣に降臨されたのは東雲葉月。痩せてはいるが、華奢ではない、笑顔も可愛いし、明るい性格。そして僕の鼓膜を弄ぶしっとりとした可愛い音色。男女ともに大人気絶賛の彼女が僕の右隣に来たのだ。


「ふんふ~ん♪」


鼻歌まで出ちまっている。もう僕を誰も止められない。

学校まであともう少し、僕は直線を加速する。


「うわ」


「きゃっ」


加速して走ったことで、視野が狭くなったのが原因だろう。何者かとぶつかった僕は対象を確認する。


「えーーーー」


僕の口から天使のような音色が出る。でもそんなことよりも視覚に起きたエラーの方が重要だ。

僕の確認した先には、僕がいた。


「え?」


自分の顔をした何かが困惑の一声を表する。


「まさか……」


普段から妄想の海水浴をしている僕は察した。恐らくだが、僕はぶつかった所為で何者かと肉体のトレードを行ったわけだ。そして、さらに察しの良い僕は下手に自らの体を触れないようにする。先ほど僕の口からは確かに男性ではない声が聞こえた。対象は女性だ。しかもこの時間にここを通ることから、同じ学校に通う学生だ。


「あの……すみません。僕は栗原哲也です。君の名前は?」


やはり女性の声が耳に浸透する。


「……栗原君?……その、私は東雲葉月」


わーーーーお!わーおですよこれは。ファンタスティックアンビリーバボー!さっきから良い匂いがプンプンすると思ったぜ。


「……し、東雲さん」


「そう、東雲さんよ」


僕の顔をした東雲さんが自信満々に言う。他の人が見たらただの変態である。


「と、とりあえず学校に行かないと。ぼ、僕が先に行くよ。ちょうど隣の席だし、そこで今後のことを考えよう」


僕がそう東雲さんに伝えると僕の顔をした東雲さんは強く頷く。


「と、とりあえず……えっと、僕じゃなくて私だよね?」


「そうだよ!栗原君は……僕でいいのかな?」


東雲さんは首をかしげて聞いてくる。えっとね。僕の顔でそれを見るとめちゃくちゃ気持ち悪いし需要がない。それにね東雲さん。


「大丈夫だよ。はは、僕は机に突っ伏しているだけでほとんど問題ないからね……さ、先行くね」


僕は学校東雲さんを背にして学校へと向かった。自分で言って悲しくなるとは思わなかった。



学校に着くと最初の難関が差し迫った。玄関で靴箱を開けるとそこには僕の人生で一切無縁の紙が入っていた。


「これは古の書物ラブレター……」


僕はすかさずポケットに入れる。東雲さんは普段からこんな刺激的な毎日を送っているのか。

僕は平静を装って教室へと向かう。第二の障害はすぐに来た。


「葉月―!おはよ!」


おっと、恐らくいつも東雲さんと一緒にいる東雲さんの友人だ。やばいよやばいよ。下の名前分からないよ。


「あ、お、おはよ」


初めて女子に挨拶をしたかもしれない。


「え?葉月どしたん?調子悪め?」


友人は心配そうにギャル用語を使いこなす。ここは私もギャル用語を使わないと怪しまれる。


「そうなんやで。私もつらたんなよね」


「え?本当にどしたん?」


本気で心配そうな顔をする友人。これはやらかしたかもしれない。


「調子悪いかも」


僕は頭を抑えながら言う。


「そっか、辛かったら保健室行くんだよ?私今から職員室に用事があるからさ」


そう言って友人は職員室の方へと向かっていった。教室に着くまでに嵐が二回も来た。波乱万丈な人生を送っている東雲さんに敬意を表そう。


私は階段を上がり、教室の戸を開ける。


「おはよう!東雲さん」


「おはー、葉月」


教室中から声を浴びせられる。てっきり、僕が何か偉業を成し遂げたのかと勘違いを起こしてしまった。


「おはよー」


とりあえず無難に返す。

そして、僕は自分の席に着く。


「葉月!そこあいつ!栗宮の席じゃね?」


東雲と仲の良い男子として僕の記憶にある男、三島が指摘をする。

あ、そうだ。僕は東雲葉月だった。無意識に自分の机に着陸してしまった。

そして、三島君。僕の名前は栗原だ!人の名前を間違えるとは失礼な。しかし、ここで反応をするのはおかしいだろう。僕は感情を内に秘める。


「あ、そうだった、ありがと!」


僕は笑顔を三島に向ける。三島はなんか照れ臭そうに「おう」とか言って恰好をつける。

東雲さんつえー。


数分後、僕の肉体をもった東雲さんが教室に入ってきた。入ってきた僕の顔をした東雲さんはおはようと言いかけるが、思い出したように口を紡ぐ。少し寂しそうな顔をしていた。僕の寂しそうな顔はあんな感じなんだ。ブサイクだな。


僕の顔をした東雲さんは足早に席につく。


東雲さんの顔をした僕が喋りかけるわけにもいかないので僕は東雲さんに手紙を送る。


“話したいので昼休み屋上に来てください。”


僕が送った手紙を確認すると東雲さんはこくりと頷く。

 

 それから昼休みまでに至るまで僕らは障害を乗り越えた。トイレのやり方はお互いに共有した。抵抗はあったが漏らすよりましという何とも言えない状況だった。

 

授業中は僕の成績があまり良くないこともあり、僕の顔をした東雲さんから答えを教えてもらった。東雲さんは頭脳の方の出来も良かった。


そして、昼休み。購買で買ったパンを片手に僕の顔をした東雲さんと対峙する。僕の顔をした東雲さんは何故か少し赤くなっているのが分かる。


「ど、どうしたの。東雲さん?」


「……見た?」


僕の顔をした東雲さんが俯きながら聞く。あー僕の顔だから気持ちが悪い。


「見てないよ。見ないで感覚だけで――」


僕がそういうと東雲さんの手刀が僕の首筋に向けられる。


「分かった。それ以上は言わなくていい。あと記憶から消してね」


僕の顔をしているのに僕がしないような表情を僕に向けてくる。


「……は、はい」


「素直でよろしい」


僕も今度からあの表情を練習しよう。


「それで、話ってなにかな?」


「今朝、靴箱にラブレターが入っていたんだ」


僕はそう言って、東雲さんにそれを渡す。

すると、東雲さんはその内容を確認してすぐに青ざめた表情になる。


「栗原君、ここはまずい」


東雲さんは僕の顔で慌てた表情を演出する。そして、僕の手を引く。


「え?何が――」


「あ、東雲さん!……と君は誰?」


屋上の戸から隣のクラスのイケメンサッカー部、立川海斗が姿を表した。

……ま、まさか。


「まさか」


「そのまさかだよ。ラブレターの差出人がそこの立川君で手紙の内容は昼休みに屋上に来てくれという内容だったわ。なんで早く内容確認しないのよ」


小声で僕の顔をした東雲は言う。え?だってラブレターを勝手に見るのはまずいだろうよ。

 

「まあ、いいわ。とりあえず私に話を合わせてくれる?」

 

僕の顔をした東雲さんは言う。まあ、僕に案も何もない。

 

「分かった」

 


 「おい、僕は東雲さんに用があるんだ。席を外してくれないか?」

 

 ごもっともである。

 

「それは無理な話だ。先に用事を入れたのは僕だからね。君の方が待っていてくれないかな?」


「そ、そうだったのか。それでお前の用事は何だよ」

 

立川海斗は聞く。なるほどね。用事があると言って席を外させて時間を稼ぐ東雲さんはやはり賢いな。

 

「男女が二人で屋上にいるんだぞ?告白中に決まっているだろ。無礼な奴だ」


 東雲さん?それはまずいのでは?

 

「な、へ、返事は?」

 

「今、聞いているところだよ。東雲さん、僕と付き合ってくれ!」

 

自分に告白されるなんて一生に一度あるかないかだろ、いやないだろ。


「東雲さんそんな奴と付き合うわけないよな?俺は前から東雲さんのことが好きだったんだ。俺と付き合ってくれ」


えーー、これどうするのが正解なんだろう?


僕が困惑していると東雲さんがなにやら唇を動かしている。


わ た し と つ き あ え


これはまさか悲願が叶ってしまうのではないのか?


「栗原君お願いします!」


僕は自分の告白を了承する。その一言でサッカー部のイケメンが崩れ落ちる。


「ど、どうして……そんな奴よりも僕の方が」


こいつめちゃくちゃ自意識過剰やな。虫唾の走るナルシズムだ。


「そ、そんな奴とかいう人はごめんなさい」


僕はイケメンに言う。その言葉でイケメンは立ち上がりとぼとぼと屋上から姿を消した。

 

さてと

 

「大丈夫なの?僕たち付き合ったことになっちゃったけど?」


う、嬉しいが複雑だ。僕は東雲さんを好きになったわけで別に自分の事を好きじゃない。


「いつ戻るかも分からないし、こっちの方が好都合だよ」

 

東雲さんはさも当たり前のように言う。僕より全然男らしい。

 

「だからさ、これからよろしく」

 

東雲さんは手を差し出す。それに呼応するように僕も手を出す。

 

「こちらこそよろしく」

 

偶然、目が合ってしまってお互いに目を背ける。

 

「じゃあ、帰りも一緒に帰る?」

 

東雲さんは僕を下校のお供に誘う。美女はイケメン。

 

「そうだね。まあ、家なんて分からないしね」

 

「じゃあ、授業が終わったら一緒に帰ろ!」

 

満面の笑みを見せる東雲。僕の顔だから気持ちが悪い。

 

「分かった。じゃあ先に教室に戻る」

 

僕はそう言って一歩踏み出した。その時、僕は一歩目で自分の靴紐を踏んづけた。そして、僕の視界はどんどんと目の前の東雲イン自分に近づいていく。しかも、押し倒した勢いが強く、僕の唇は僕の唇へとホールインワン。

 

 最悪な体験だ。


僕は目を開く。最悪だと思われたが、最高な体験にもなった。


僕と東雲さんは入れ替わっていた。


「ふ、ファーストキスが……」


東雲さんは僕の体からバッと起き上がり嘆く。そんなに嫌がられると悲しい。


「ご、ごめん」


「うう……まあ事故だし、仕方ないわね。それにこうして体も戻れたし」


少し、涙目になりながらも自分を納得させる東雲さん。強い子だな。


「ということは、恋人関係解消ということで」


「そうなるね」


東雲さんはピシャリと言う。悲報、初めての彼女と付き合った時間、1分。


「わ、分かった。じゃあ、クラスではやっぱりふられたってことでいいかな?」


「いえ、それだと少し私が精神異常者みたいな感じになってしまうよね。友達になったということにしましょう」


不幸中の幸いである!祝、女友達ができました。


「分かった!」


「そういった意味ではまたよろしくだね、栗原君」


そう言って東雲さんは手をだしてくる。今度は僕のごつごつの手じゃなくて可愛らしい女性の手だ。僕も手を差し出す。ふわぇーやーらけー。


最高の思い出となった。




今日も天気は快晴。僕はここ最近ずっと気分がいい。理由は隣にいる友達の所為だ。


あれからどうなったのかと言われれば、東雲さんの思惑通り、付き合ったという情報はイケメンがショックすぎて勘違いしたということになった。普通にイケメン君は可哀想だ。

東雲さんとはどうなったのかというと皆さんの想像通りだ。友達になったとは言え、彼女はクラスの人気者。結局、何も変わることはなかった。人生ってそう簡単に変わるかものじゃないね。仕方ないね。


だから今日も僕は妄想で東雲を感じる。


――栗原君、本当は私あなたのことが好き。

――ぼ、僕もずっと東雲さんのことが――


「きゃー」


強い衝撃と鈍い音で妄想が終わる。


おい、誰だよ!僕の朝の楽しみを邪魔する奴は!


僕はそいつを肉眼でとらえる。


そいつはさっき家の鏡で見たそいつだった。


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