18日目ー1 7月30日(金)
休止中に大幅な改変を行いました。以下の追加エピソードを除いて内容は変更前と大きく変わりませんので、これからもよろしくお願いいたします。
6日目、11日目、16日目、17日目
また、この18日目を区切りにルート分岐を行います。
今日はテスト最終日であり、一学期の最終日でもある。午前中はテストを受け、午後からは終業式だ。
テストはここ二日と同様に現在の力を出し切ったという点では満足のいく出来だったと思う。ただし、その現在の力とやらがどれほどのレベルかといえば、決して高くないと言える。具体的には、補習を免れるか怪しい程度だ。
心の中の小学生に従い、終わったことは気にしないとばかりに伸びをして、昼食後体育館に向かう。
「おっと、すまん一ノ瀬」
「いや。気にすんなよ」
ただでさえ暑いというのに、人が密集するせいで更に暑苦しい体育館。その暑さのせいでぼーっとしていた俺の胸に、前の男子の背中が当たる。座るための間隔調整をしていて後方確認が疎かになったらしい。胸に付いた校章が押し付けられ、軽い痛みがやってくるも、気を荒立てるほどでは無い。というか、そんなことをするエネルギーが勿体ない。
「なんでこんなクソ暑い中、体育館に押し込められないといけないんだろうな」
「ほんっとそれな」
振り返った男子は、俺の愚痴に律儀に反応してくれた。そこからこそこそと世間話をしつつ、余りの暑さに起きたままうなされそうになりながら終業式を乗り切った。もう少し続いていたらストレスでのたうち回りそうなくらいだ。
「ちょっと一ノ瀬」
「はい?」
終業式が終わると、皆が各自の教室に帰る中、俺だけが担任に呼び止められた。
「校章、ちゃんとつけろよ」
「え?」
見てみると、校章がなくなっていた。どこかで落としたのだろう。
「すいません」
校章をしない生徒の存在など日常茶飯事なので、担任もそう口うるさく言うわけではない。しかし、暑さで気が立っている俺は憮然として体育館を出ていった。お世辞にもあまり良い態度とは言えないわけだが、落としたものを咎められるのは腹が立つのだ。
「それでは、また二学期に」
エアコンのついた教室で涼み、ストレスレベルが下がりきったときにはもうホームルームも終わり。担任はそう言って教室を出ていった。
「ちゅうもーく!」
そこで俺が代わりに教壇に立ち、何事かと俺を見る生徒たちに声をかける。
「人生最後の一学期の終わりに、皆で集合写真でも撮らないか?」
普通ではありえない提案に首を傾げる生徒たちを少々強引に集めて並ばせ、廊下を通りがかった他クラスの生徒に写真を撮らせた。
「ありがとう! 俺はこのクラスに入って良かった!」
終始一方的な展開で進んだ撮影だったが、俺の様子がおかしいのはもうそういうものだと割り切ったらしく、撮った写真には皆笑顔で写っていた。
「良かったね、翔君」
「ああ!」
これだけ馬鹿なことをしていた方が、皆の記憶にも残るだろう。俺にとっても皆にとっても、良い手向けになったのではないだろうか。
さて、今日やるべきことは、美川のミッションである。律儀に従う必要はないと言えばない。しかし、出されたミッションをクリアしないでは、自称精神年齢小学生の名が廃るというものだ。
ただ、美川が出した条件を現実にするのも難しいのは確かだ。結局のところ、ミッションの可否は運任せなのである。
はてさていったい、どこへ向かうべきか。
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選択肢
1、屋上
2、体育館
3、自宅
4、第二体育倉庫
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やはり、定番の告白スポットといえば屋上である。この時期の屋上はコンクリート造りということもあって焼かれるほど暑いので、二人きりになるには絶好のスポットと言える。
その灼熱地獄で待つこと数時間。俺は最も肝心なことを考えていなかった。俺の作戦が余りに杜撰だったことを身をもって体験したのだ。
「あづぃー」
灼熱地獄に一人。確かに、ここには誰も来ない。俺以外には誰も。俺のミスとは無論、共に来る女性が誰もいなかったことである。二人きりになるのなら、誰かが来るのを待つのではなく、誰か誘ってから来るべきだったのだ。
そうはいっても、この炎天下、屋上に誘って来てくれる人なんているはずもない。結局、屋上へ行こうという選択自体が間違いだったのだ。
「やべぇ、頭が」
だんだん赤くなる空を眺めていると、暑さで頭がやられてしまったようで、思考に靄がかかり始めた。これはまずいと思い、フラフラと屋内を目指して前進する。
そうしてどうにか扉を開け、どこか冷やかな空気の漂う廊下へ座り込んだ。
苦しさを呼吸で表現するかのように、荒い呼吸を繰り返す。朧気な意識で考えることは、このまま死ぬのではないかということ。
昨日神様は言った。選択を誤らなければ道は開けると。それは裏を返せば、選択を誤れば道は閉ざされたままということだ。まさか翌日の選択ミスで死ぬ羽目になるとは思ってもいなかった。
死にたくない、とは言わない。ただ、せめて遺言くらいは遺したいものだった。
そう思いながら、意識を手放した。
「起きて」
「ん」
どれくらい意識を失っていただろうか。ものの数秒だったような気もするし、下手をすれば数十分であったような気もする。何はともあれ、扉についた磨りガラスの色を見るに、時間単位での経過はなかったようだ。
そして、ぶっ倒れた俺を起こしたのが誰かといえば、なんと死神である。神様の意思で俺が死のうものなら諸手を挙げて喜びそうな立場のはずだが、どのような考えなのか、その手には水筒があった。
「飲んで」
「ああ、ありがとう」
手渡された水筒を呷る。乾ききった体に水分が染み渡っていく感覚がここまで鮮明であったことなど、今まであっただろうか。
「ぷはぁっ。はぁ、はぁ。これ、取りに行ってくれたのか」
コクリと死神は頷いた。一息に水筒の中身を飲み干した後で息を整える。ふぅ、と最後に落ち着いて、改めて死神の顔を見る。
「ありがとう。死ぬところだった」
俺の誠意の篭ったお礼に、死神はいつも通りの無表情を崩すことはなかった。その代わりと言わんばかりに、小首を傾げ、その口を開く。
「馬鹿?」
「ぐはぁっ」
よもや死神の口からもその言葉を聞くことになるとは思わなかった。確かに、来るはずのない人を待ち続ける俺の姿は死神にとって意味不明だったろうし、滑稽だったはずだ。自分でさえ、どうしてこんな時間まで馬鹿馬鹿しくも待っていたのかと思っている。
「それはその通りだよ、全くもって。それはそうと、なんで水筒を取りに? 俺があのまま死んでも構わないだろう?」
「あなたが死ぬのは33日後」
「そうかい」
自分の予言を否定する結果になるから、というわけだろう。律儀というか、死神は約束事には厳格でなければならないのかもしれない。
「それと」
「それと?」
「あなたが死ぬことは、悪いイメージだった」
そう言って、死神は姿を消した。
水筒と共に廊下に取り残された俺はよろよろと立ち上がり、教室への道を歩み始めた。
そうして考えることは、死神が誰にも見つかっていないかということ。それから、死神の言葉がどんな感情によるものかということ。
前者に関しては、最早見つかっていても、あの死神が学校に来ることはおそらくないのだから考えたところで詮無いことと言える。俺の思考は、専ら後者の事柄に占領されるのだった。
死神ルートに続きます




