マシロの力、俺のカ ツゼツ
「あーあ、航ちゃんが言う『魔鉄』って、やっぱりドロップしないねえ」
徹さんでも初め手こずっていた、毒ムカデをぶった切り消滅させると、魔石とドロップした硬い殻を俺に渡しながらため息をついた。
鍛冶師見習い、アマゾネスゆん。恐るべし…。
レベルは9に上がり、『一振入魂』と言う新しいスキルを覚えていた。木こりなどが取得しやすいらしい。
「鉱山地帯の階しかないらしいからなあ。ゆん、帰りの時間大丈夫?」
「今2時でしょ? 後3時間くらい平気。でも、帰りたくないなあ」
デート中に聞けば耳に甘い言葉、ダンジョンで聞けば耳を疑う言葉だね…。
「ねえ、航ちゃんが魔物倒しても、私に少し経験値…あ、魔力譲渡があるじゃない?」
「どっちでもいいよ、言いやすい方で」
そう言いながら頷く。
「ピーちゃんやマシロちゃんはどうなの?」
ああ、なるほどね。気になるところか。
「Pちゃんにはレベルが存在しない。マシロは魔物……」
……あ。マシロは出会った時、レベル1だった。
「キュイ?」
丸窓からマシロが顔を出す。可愛い魔物です。
「どれどれ…っと。……マジか…レベルが14になってる」
生命力や魔力は分からないが、光魔法、土魔法共に1だったのが2に上がっていた。
確かに常に一緒にいたからな…。
「キュイ?」
つぶらな瞳で俺を見上げる。
「うん、凄いねマシロ。強くなってるよ」
褒められているのがわかったのか、マシロが頭を撫でて欲しそうに、窓から更に頭を出す。笑いながら撫でると満足したように、顔を引っ込めた。
「そうだ。ゆん、俺ちょっと魔力丸…転移玉もらってくるから、ここで待ってて。一応テントに入って」
「もらって来るって、誰に?」
「うん? ああ、マシロの親戚みたいな子たちがいるんだよ」
「ええ!? あたしも行きたい!」
「駄目。強制転移があるから、どこに飛ばされるか分からないんだ」
そういえばマシロは、強制転移の他に任意転移も持っていた。
「まさかマシロ、任意転移出来たりして?」
「キュ?」
呼んだ? とういうように、また丸窓から顔を出した。
「俺たち全員をマシロが転移出来たら、楽になるなってね」
「キュイ!」
マシロがまた、ズボッと窓から頭を出して来る。
なんだもっと撫でて欲しいのか? しょうがないなあ。
マシロの頭を撫でながら、ゆんに話しかける。
「まあダンジョン中走ってー」
「キュ!」
ゆんは疲れただろうから、待ってて…と言おうとした時、
「キュキュキュー」
あれ?
マシロの体の中で唯一茶色い三角耳が、パタリと閉じた。
「なに? どうしたの?」
ゆんが近寄って来る。
「ピ!? こうへー」
隣の丸窓からマシロを見たPちゃんが声を上げる。
「キーキュッ!」
マシロの白い毛が、一瞬銀色に輝いた。
目の前にいたゆんが歯を食いしばり、目つむったまま消える。直後に胃が浮く、あの感覚が襲って来た。
任意転移!?
それは喜ぶべき事だろう。でも気になる事があるんだよー!
マシロ! ちゃんと1階だよな!?
嫌な予感が頭をよぎりつつ、ゆんに続いて俺も転移したのだった。
「で、ここはどこかな? マシロさん」
「キュイ?」
足元は岩場、遠くに岩山、高低の差はあれど、岩ばかりの風景…。
死の土地の9階? いや、あの階よりは明るいようだ。かと言って火山の12階ほど暑くはない。
とにかく1階じゃない事だけは確かだ。
「ちょっと、航ちゃんここどこ?」
青い顔をしたゆんが、腕にしがみついて来た。左腕にこの世の優しさを形にしたような、柔らかなものが当たる。
「……天国?」
「航平! ここは地下18階、鉱山地帯ですピ!」
丸窓からPちゃんが顔を出した。
「…はっ! なんだって!? マシロの任意かと思ったら、強制転移だったのか!?」
「キュ!」
マシロが違うと言うように、ガシガシと俺の手を甘噛みしてくる。
「ピ、航平が望んだ階に来たみたいですピ」
「俺が? 何階なんて言ってないぞ? 転移出来ると楽になるくらいしか…」
『まあダンジョン中走ってー、ダンジョンジュウハシッテー…』
Pちゃんが俺の声を録音したような声を出す。
ん?
「マシロは航平に、ダンジョン18行ってと言われたと思ったようですピ」
「キュイッ」
Pちゃんがため息混じりに言うと、マシロが嬉しそうに噛んでいた俺の手に、おでこを押し付けて来た。
「あははー。そら耳ってやつね…?」
マシロを良し良ししながら半笑いしている俺の腕を、今度はゆんが突然引っ張った。
「航ちゃん! 大変! 鑑定に『魔鉄』って出た!」
なんだってええ!?
「どこ!?」
「あそこ! あの岩」
岩石系:魔鉄喰い Lv43
攻撃パターン:噛みつき、すり潰し、岩弾
好物の魔鉄塊を噛み砕く強靭な口。動きは遅いが
岩石を飛ばし敵を撃つ。
弱点:雷魔法、口蓋垂への物理攻撃
分厚い二枚貝のような、巨大な岩がそこにあった。
「イエーイ、航ちゃんより先に魔鉄見つけちゃった! でも『魔鉄』ってとこ以外は、文字化けして見えないんだよねー」
ゆんが首を傾げた時、二枚貝が微かに開いた。
ヤバいっ!
「ゆん! あいつは魔物だ! 逃げろ!!」
「え?」
ゆんが振り返った途端、二枚貝、魔鉄喰いが口を大きく開けた。臼歯のような物がびっしり並んでいる。前歯は死神の大鎌にように鋭く尖っていた。
「口だけお化け…」
ゆんが恐怖からか、そこから動こうとしない。ゆんの腹を抱きかかえ高く跳ぶ。口から高速の岩石が撃たれ、ガガガッと岩場の地面がえぐれた。
「ひっ」
空中でゆんが首にしがみついて来る。
当たってます当たってます! 優しさが!
「大丈夫!」
少し離れた岩場に着地すると、そのままゆんを抱え走り出した。逃げるが勝ちだ!
「どこに行くの!?」
「逃げる! アイツ俺と同じレベルだった! 倒せない事はないけど、ゆんを危険に晒すことになる!」
更に強く、ゆんが俺にしがみついて来た。柔らかさで前が見えません!
空間把握と気配探知だけで、前が見えなくても移動出来る事を知れたのは、良かったと思う。
読んでくれてありがとうm(_ _)m 早く魔鉄を手に入れてくれー




