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幸運200MAXの使い方


「…ありがとう、田所航平。お陰でレベル10だ。新しいスキルは防具作製に役立つ」


 つぐみさんが玄関で登山靴を履き直してから、坊主頭を下げる。


「いや、全てはつぐみさんの努力ですよ」


「私にも礼を言わせてくれ。せっかくの日曜日に押しかけて悪かったね」


 先に玄関から出ていた徹さんが、つぐみさんの巨体の影から顔を出した。


「こっちこそ、また夕飯もらっちゃって。お昼の残りまでもらっちゃってすいません。食費が浮いて助かります」


 さっき澤井さんがまた夕飯にと、三好さんが作った食事を俺に差し入れてくれていた。ホント有り難いったらない。


「……ちょっとごめん」


 俺が満面の笑みでお礼を言うと、つぐみさんと入れ替わり、徹さんが玄関に入って来た。


「田所くん、失礼を承知で聞くが、生活が苦しいのかい?」


 直球だな。


「ああ、まあ、はい」


 隠してもしょうがないので、素直に頷く。


「確か田所くん、幸運200でMAXと言っていたよね?」


「ええ、そうですね。こうして生きていられるのも、そのお陰かなと」


「父さんは鑑定したら幸運99だった。今の財産と地位を築けたのは、無論それだけじゃないが、かなり運の部分も占めていると思う」


「はあ…」


 俺がぼんやりしていたからか、徹さんがツイッと俺に近付き耳元で囁いた。


「どうして幸運MAXを利用しない? 例えば宝くじ」


「……!?」


「じゃあ田所くん、また。魔鉄を採掘するのに人手が必要なら、いつでも呼んでくれ」


「俺も時間作って、付き合う」


 澤井さんが黒塗りの車の後部座席を開けて待っている。


 二人は一度俺の方に手を上げて、車に乗り込んだ。俺も慌てて手を上げる。車が走り去った後も、ぼんやり眺めていた。



「航平、どうしましたか? ピ?」

「キュイ?」


 ようやく我に返って部屋に戻ると、ガラステーブルの上でPちゃんとマシロが、不思議そうに俺を見上げた。


「…Pちゃん、俺はなんとか魔石を売れるように、色々頑張ってきたよな?」


「ピ? ええ、まあそれなりに…ピ?」


「俺は、幸運MAX…宝くじ……良いのか? そんな事しても…?」 


 狭い部屋の中をウロウロ歩く。


「航平、動物園のクマみたいですピ」


「キュイ?」


「ピ、良いですかマシロ、クマとは食肉目クマ科の北アメリカからー」


「…よし決めた! やってやる! ふたりともバッグに集合!!」


「ピ!?」

「キュ!」


 ふたりが慌ててバッグに入り込む。そのバッグと財布を掴んで、俺は外に飛び出した。


 確か駅前に宝くじ売り場があったはず! 


 駿足のレベルを落とし、商店街を駆け抜ける。それでも短距離アスリート並みの速さだ。眼調整のおかげで行き交う人たちが止まって見える。その間をすり抜けながら駅前へ急いだ。


(Pちゃん今何時!?)


(18時21分30秒になりますピ!)


(よしっ! 確か6時30分までのはず)


 俺が仕事から定時で帰った時、丁度カーテンを閉めるところに出くわす事があった。


 走っている割にバッグが揺れていない。さすがつぐみさん製だ。


「良かった…まだやってる」



 18時23分、セーフだ。


「はい。どれにしますか?」


 アクリル板の向こうで、髪を結んだ薄化粧のおばさんが、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべる。


 福耳だった。


(航平、ここは何屋ですピ?)


(…お金屋だ。上手く行けば大金が手に入るかもしれない…)


(ピ!?)


「あの、宝くじ買うの初めてで…」


「あら、今ジャンボ宝くじやってますよ。1枚300円」


 高っ!


「えっと、今すぐ分かるのって、ロロでしたっけ?」


「ロトはすぐ分かりません。分かるのはスクラッチ、200円と300円のものがー」


 間違いを何でもないようにスルー。さすがプロ。


「あ、じゃあそれを。200円1枚…」


 清水の舞台から飛び降りるとは、この事か…。


「この中から選んで」


 10枚くらいのカードを、おばさんがトランプのように広げる。俺はそれをじっと見つめた。


(…Pちゃんどうしよう)


(ピ?)


(全然分からない! どれも同じ…ん?)


 1枚だけ、妙に自己主張するようなスクラッチカードが目に止まる。


 どうする? 信じるか? …信じるさ! 幸運200MAXを!


 シュサッとその1枚を抜き取る。


 銀色のマスが9個、タテヨコナナメにどれでも同じ図柄が並べば当たりらしい。


 深呼吸をひとつしてから、縁起を十分担いで、10円玉で銀色部分を削る。


1個2個…3個とガシガシ削るとー


(おおマジか…やった! Pちゃん! 図柄が揃った!!)


(ピイ! 大金ですピ!?)


(ああ、図柄が揃ったんだ! Pちゃんにもマシロにも、好きなモンいっぱい食わしてやれる!)


「揃ったの?」


「は、はい!」


「換金しますか?」


「お、おねがいしましゅ…」


 噛んだ事も華麗にスルーして、おばさんがスクラッチを受け取り、機械に通した。


「おめでとうございます」


 青いプラスチックの受け皿に、白い紙と1000円札が置かれる。


「あの…」


「何か、他に買われます?」


「え? あ、じゃあ…ジャンボ宝くじ、1枚下さい」


 もらった1000円で払う。ジャンボ宝くじ1枚と700円のお釣り…。


「ありがとうございましたー。幸運が訪れますように」


 おばさんが笑顔で、カーテンを閉めた。


 幸運は、MAXあったんだけどね? いや、でも差し引き500円のプラス…。



(航平! 航平! 私とマシロはチョコケーキが食べたいですピ! あとチョコボール!)


 Pチャンネルの声が嬉しそうに弾んでいる。


(…あー、Pちゃん好きだもんね…。マシロもチョコボール、カリカリするの、好きそうね…)


 結局帰りにチョコケーキ2つ、チョコボール2袋を買い、マイナス300円。


 走って、噛んで、マイナス300円。


 財布さん、激おこです。



 後日徹さんからどうだったか聞かれ、事の顛末を話すと、


「最初におばさんが選んだ10枚に、当たりがなかっただけじゃない?」


 と冷静に分析された。そして、


「その中から1000円の当たりを引いたんだから、田所くんの幸運は凄いね」


 と優しい言葉を頂いた。


 ……もう二度と買わねっ! 初志貫徹! 魔石で稼いでやるわっ!


 そう俺は、決意を新たにするのだった。







 


読んでくれてありがとうm(_ _)m航平には無理だったようで。

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― 新着の感想 ―
[一言] ジャンボ宝くじが後から一騒動起こしそう ってかそろそろ書籍化とか打診されてそうだと思うのは俺だけかな もし書籍化発表の時期が来たら(当たり前だけど)告知してよなー みんなで祝ってやる! マ…
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