全ては1から
「やったですピ!」
「キュキュイッ」
バッグのスイッチを押し、天板が自動で開くと同時に、ふたりが飛び出して来た。
地下10階の平野まで降りて来て最初にする事、そう昼飯だ。
「こらこら、マシロ走り回らない。Pちゃんも飛ばない。スカイランナーに襲われたらどうする。今テント出すから」
空間把握と気配探知に魔物の気配が近くにない事を確認し『光のテント』を張る。
光魔法5になって光の膜が少し厚くなり、持続時間も3時間、広さは男3人が車座になってご飯を食べても、問題ないスペースを確保出来るようになっていた。
「Pさんとマシロちゃんが大食漢である事は分かったから、今日は三好に10人分作ってもらったよ」
徹さんから預かっていた荷物を、空間庫から取り出す。
「三好さん大変だったんじゃないですか?」
「そんな大勢でハイキングですかって驚いていたけど、快く引き受けてくれた」
三好さん、いつもありがとうございます! 俺が用意してたら、米びつ覗き込んで、むせび泣く所でした!
テント内の草の上に重箱5つと皿を並べる。
「ピィ…航平、綺麗なお弁当ですピ」
「キュッ」
重箱の蓋を開けていく度に、ふたりから感嘆の声が漏れる。中身が分からないお弁当って、蓋を開ける瞬間が楽しいよね。
茶巾ずし、いなり寿司、ごま塩おにぎり、ネギ入り卵焼き、塩と醤油2種類の唐揚げ、照り焼きと溢れんばかりの野菜が包まれた生春巻きにー。もうこれでもかってくらいの種類と量だった。
「じゃあつぐみさんが無事、眼調整2を取れた事を祝して」
冷たいお茶の入ったコップを掲げる。
「…ありがとう田所航平。かなり無様だったが。あの転がる水晶ハリネズミも、マカス(弱)も怖かった」
「それで恐怖耐性取れたんだから、良かったじゃないか」
徹さんがぺしぺしとつぐみさんに肩を叩く。徹さんとも随分距離が縮まったような感じだ。叩かれて、つぐみさんがちょっと嬉しそうだった。
俺たちがレベルアップやスキルの事を話しているのにしびれを切らし、Pちゃんとマシロが皿に置かれた弁当を食べ出した。
「ピイー…幸せとはこの事ですピ」
「キュイー…」
海老のボイルが乗った茶巾ずしをもぐもぐ食べながら、嬉しそうに体を傾ける。そんなふたりをつぐみさんと徹さんが更に嬉しそうに目を細めて見ていた。
これは、愛でているな。まあうちの子たちが写真集出したら、初版1億冊、更に2億冊増刷だろう。
「そうだつぐみさん、これを見てもらって良いですか?」
唐揚げを食べながら、以前倒した雷竜の渋い黄色い革を空間庫から取り出す。
「…これは?」
「魔物のドロップ品です。どうです? 防具作れそうですか?」
「…格好良い革だな。作れると思うが…」
雷竜の革を引っ張ったり、丸めたりしていたつぐみさんが渋い顔をした。
「これは、切れるのか?」
「え?」
「裁ちばさみで。革加工用のノミや針は? 糸もよほど丈夫な物を使用しないといけない」
「…そうだった」
デビルフィッシュの鱗もキラーアントの牙では切れないと、Pちゃんに言われていた。更に高レベルな雷竜の革が、裁ちばさみで切れるとは思えない。
「丈夫な糸はなんとかなるよ。私が持っている。ただハサミや針となると…」
徹さんが考え込む。
「接着はどんな素材もくっつける、ビッグスラグという魔物の接着剤とリムーバーがあります。ハサミは…ありません。あ、そうだ」
俺は曲剣『雷光』を取出し、つぐみさんに渡した。
「雷光で切れますか? 雷竜の革は鋼でも傷付かないんで、この剣なら」
雷光を受け取ったつぐみさんが革の端に刃を当て押した。
「ああ、これなら少し切れるが、裁断に時間が掛かる。それに田所航平の武器だろう。やはりハサミが欲しい」
そう首を振り、雷光を返して来た。
「確かにこれからも防具を作ってもらうなら、つぐみさん専用のハサミが必要だね」
徹さんが困ったようにお茶を一口飲む。
「ピ、失われた世界では魔力が練り込まれた魔鉄を加工して、魔物の素材を製品にしていましたピ」
Pちゃんが珍しく参考にならない事を言う。
そもそも魔鉄ってなんだ?
「魔鉄かあ、良いね。ファンタジーっぽい」
「ああ、言葉だけでワクワクするな」
二人が目をキラキラさせ食いつく。どうやらそれを知っているようだった。
だが現実を告げねばなるまい…。
「Pちゃんここは地球、魔鉄なんてないよ。今まで倒した魔物からもドロップした事はない」
「地球にもありますピ」
はぐはぐと肉団子を両羽根で持って食べながら、Pちゃんがさらりと言い放った。
「どこに!?」
俺も含め一斉にPちゃんを見る。
「鉄の地層にありますピ。ただ一般的な鉱山にはありませんピ」
「…ダンジョン内か?」
ドロップ品じゃなく、ダンジョンにあったのか。
「ピ、地殻変動時、魔力が混ざり合ってダンジョンが出来ましたピ。地中には銅、鉄、アルミニウム、銀、金、白金、当然魔力が練り込みますピ。8階の水晶も12階の熱岩にも、魔力が練られてますピ。それが鉄鉱石かそうじゃないかの違いだけですピ」
「このダンジョンにもあると?」
徹さんがPちゃんに詰め寄った。
「どこにあるんだ? Pちゃん」
「このダンジョンでは18階から20階まで、鉱山地帯ですピ」
「…マジで? 鉱山って他にダンジョンが出現した時も、あるのかな?」
「多くて1割、ない所がほとんどですピ。そうそう鉱脈のある所に魔力が溜まって、ダンジョン内にそのまま出現しませんピ」
「あまり魔力を含んだ鉱石が取れないとなると、7月28日のダンジョン出現後、ここは重要なダンジョンになるよ…」
徹さんがふぅっと息を吐き出す。
「じゃあ18階から20階で魔鉄採掘して、ハサミとかを色々作れば、つぐみさんに防具を…」
あれ? そもそもどうやってハサミって作るんだ?
「誰が?」
つぐみさんが太い首を傾げる。
「それはー、ハサミ工場?」
つぐみさんの質問に答えたら、徹さんがため息をついた。
こんなイケメンにため息つかれるのって、波動砲並みの精神破壊力なんだね…。
「頼めないよ。ハサミは刃物と一緒だから、頼むなら個人で鉄を打ってる職人…あっ」
「ああ…」
二人が思い付いたように、声を上げた。
「どうしたんですか?」
「いや、いたなあと思って」
「…ああ」
「何が?」
「ハサミを作れる人」
「徹の刀を作った人」
「…おお! 『精鋭イレブン』の!?」
それは願ったり叶ったりだ。ダンジョンにも詳しいはずだし。
「でも、ここから遠いしね」
「ああ、呼べないな」
「魔鉄も見つけた訳じゃないし」
「ああ、頼めないな」
なぜか二人が息ぴったりのやり取りで、呼べません残念と、終演に向かって行く。
「ええー、話だけでも聞いてもらって…」
「うーん、良いけど。86才だからここまで出てこれるかなあ」
「はい?」
「インスタライブでの打ち込みも早いし、語り口調も若々しいが。86才だからな」
…ライブ参加できる86才って違う意味で凄いな。
「まあとりあえず、魔鉄を手に入れたら、また考えよう」
徹さんが笑顔で、幕を下ろした。
読んでくれてありがとうm(_ _)m 人と人が繋がるねえ




