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マッチョのレベル上げは波乱の幕開け


 1階の石の通路を男3人、横並びで歩きながら気配探知と空間把握を放つ。


 よし、テレポに飛ばされた魔物もいない。


 うーん、それにしても…。


「…はっ! …おっ!? …ひゃんっ」


 ひゃんっ? 


 野太い短い悲鳴を上げながら、つぐみさんのヘッドライトの明かりが、通路内をヒュンヒュンと動き回っていた。


 その明かりを、腹側にしたバッグの丸窓から顔を出したマシロが、右左と頭ごと追っている。


「つぐみさん、大丈夫です。近くに魔物はいませんよ」


「…すまない」


 大きな体を縮め、斧を持っていない手で徹さんの肩を掴んでいる。


「いや、俺もスキルがなかったら、こんな暗い穴、不安しかありませんよ」


「航平、やはりここは、眼調整短期取得コースが良いと思われますピ」


 もう片方の丸窓から、Pちゃんが顔を出し見上げて来た。モグラ叩きゲームの穴から、ひょっこり出てきた感じで可愛い。


「田所くん、私もPさんの意見に賛成だよ。このままじゃマシロちゃんが酔ってしまう」


「…短期取得コースを受ければ、暗闇から解放されるのか?」


「ああ、もちろん。これでつぐみさんも闇に怯えることはない」


 『魅了5』全開の笑みを浮かべ、徹さんが少し高めの位置の、つぐみさんの両肩を掴む。


 何かのセミナー勧誘のようだな…徹さんなら営業トップ確実だろ。


「じゃあ一度、明るい階に行きます。徹さん、そのままつぐみさんの肩を掴んでいて下さい」


 魔力丸を取出し、徹さんの腕を掴みながら口に入れる。


 6階なら普通に戦えるだろう。美波や徹さんと同じコースだ。


「ピ! こうへー…」 


 Pちゃんの声が聞こえたと同時に、胃が浮く感覚に襲われ、俺たちは6階へ転移した。




 目の裏に太陽光のような明るさと、暖かさを感じ目を開ける。


「転移完了…と。徹さんもつぐみさんも問題なく…」


「問題ありですピ!」


 Pちゃんが丸窓から顔を出した。


「田所くん。つぐみさんがいない」


 徹さんが掴んでいたはずの、つぐみさんが見当たらない。


「え?」


「航平、魔力丸は飲んだ者が触っているものしか、一緒に転移出来ませんピ!」


「あ、そういえば…」


 Pちゃんがチョコレート欲しさに、俺に魔力丸を飲ませようとした時、そんな事を言っていたような…。


「ってことは、つぐみさんは…」


「まだ1階ですピ!」


「………あぁぁ! ヤバい! 徹さん手を!」


 徹さんの手を握り、魔力丸を飲み込む。あの胃の浮く気持ち悪さを、こんなに待ち望んだ事はなかった。



「つぐみさん! いますか?」


 つぐみさんが元の土階段の方に戻っているかと、転移場所に指定したが、姿は見当たらない。あれから数分しか経っていないから、近くにはいるはずだ。


 空間把握、気配探知を放つと、つぐみさんと思われる金色の気配を感じ取った。その気配がどんどん遠ざかって行く。つぐみさんの気配の周りを、魔物の赤い気配が近づいていた。


 つぐみさんが魔物に追われている! 


「走ります! ついて来れなくても1階なら徹さんは大丈夫! 置いて行きます!」

「ああ、構わない! でもついて行くさ!」


 駿足をフルで使い、金色の気配を追う。曲がり角が多く上手くスピードに乗れないが、1分後には通路の先につぐみさんのヘッドライトの明かりが見えた。ただつぐみさん本人がいない。


 ヘッドライトの明かりが、通路の石壁の一点を無意味に照らしていた。


「ピ! 航平! これ…」

「キュイ…」


 丸窓からふたりが、通路の石畳を見下ろしている。そこには血が点々と、通路の奥へ向かい残されていた。

 

「田所くん! つぐみさんは怪我を?」


 追いついた徹さんが、立ち尽くす俺の後ろから除き込み、はっと息を飲む。


 空間把握と気配探知をもう一度放つ。金色の気配はまだ動いていた。赤い気配に囲まれそうだった。


 集中し、捜索と空間把握をギリギリの線まで擦り合わせ、座標を指定する。


 瞬間移動。


 体を傾けた時、気づけば10メートル先にこっちに背を向けた、つぐみさんがいた。


 前後をデカいハサミムシのような魔物に囲まれている。魔法攻撃は使えない。つぐみさんに当たってしまう。ハサミムシがキラーアントくらいのハサミが付いた尾を振り上げ、今にもつぐみさんの頭を挟もうとしていた。坊主頭にはガードするものが何もついていない。


『ライト』を放ち、辺りを明るくする。


「つぐみさん! それかぶって!」


 喉まで覆う黒いフルフェイス兜を、空間庫からつぐみさんの手元に取り出す。


 シュンッと手の中に現れた兜を、つぐみさんがはっとして、慌てて被った。直後にハサミムシがつぐみさんの首を刈り取ろうと襲う。


「……ぐああああ!」


 つぐみさんの、地を這うようなくぐもった叫びが、通路に響いた。


「…嘘だろ? やられ…」


 ……大丈夫……。俺にはゴールドスライムの原液がある! だから大丈夫! つぐみさんっ!


「んがあああ!」


 つぐみさんが叫びと共に、ハサミムシの尾を手斧で切り落とす。そのまま頭をかち割ると、ハサミムシが光になって消滅した。


 ザシュッ


 後ろに向き直り、尾を振り上げたもう一匹の頭を踏み、ハサミのついた尾を切る。


「があああ!」


 魔物か、つぐみさんか。どっちが発したか分からない叫びを残して、もう一匹のハサミムシも消滅した。


「良かった! つぐみさん! 無事で本当に」


 立ち尽くすつぐみさんに駆け寄る。


「……シュー」


 フルフェイス兜で、つぐみさんの表情が見えない。置いて行かれて怒ってる? そりゃあ怒るか…。


「すいませんでした。俺のミスでこんな事に。さっき血を見たんですが、どこか怪我を」


「……シュー」


 いつもの無言にしては、シューシュー言っているような…。


「航平、魔力丸の他に、もうひとつ忘れていますピ」

「キュッ」


 丸窓からPちゃんとマシロが覗いている。


「ん?」


「あれは、オノカブトの兜、呪われていますピ」


 ああ、そういえば美波に被せてやろうと思ったけど、呪われてるしやめて……。


「航平、光魔法5を使いこなして下さいピ」

「キュイ」


 そう言い残して、ふたりがカチリと、丸窓のガラス窓を閉めた。


「んがああああ!」


 つぐみさんがキャッチャープロテクターを剥ぎ取り、タンクトップも破り捨てる。


 ムキムキの大胸筋が露わになり、ピクピクと鼓動のようにリズムを刻んでいた。


 何で脱ぎ捨てるかなー!? 上半身裸に黒いフルフェイス兜って、ダンジョン外ならそっこー捕まっちゃうよ!?


「つぐみさん、落ち着いてっ! このままじゃ理性の欠片もない、ただのゴリマッチョですよ!」

「が! があああああっ!」


 一段と威嚇が強くなった。と、とにかく呪いをー。


 手斧の攻撃を避け、背後から兜に触った。


「抑呪!」

「んが…」


 手のひらが眩く光り、黒い兜を光で覆って行く。


「呪いの解除は出来ないので、抑え込みましたよ」


「……うううん」


 つぐみさんが兜を取って、頭を振る。


「田所くん! つぐみさん! 無事か!?」


 徹さんが駆け寄って来た。


「…ああ、徹。大丈夫だ」


「通路に血ついていたけど?」


「二人が消えたすぐ後、魔物が来て、焦って顔を壁にぶつけた。ライトを拾う余裕もなくて逃げた」


 見れば乾いた鼻血が、あごひげの方まで伸びていた。


「後は、良く覚えていない」


 手にしたオノカブトの兜をじっと見つめる。


「田所航平の声が聞こえ、手の中に、これが現れた」


 置いてけぼり、呪いの兜……こう考えると、全て俺が悪い感じ?


「これに救われたらしい。ありがとう、田所航平」


 つぐみさんが汗で光る頭を下げた。


「私からも礼を言わせてくれ。ありがとう、田所くん」


 徹さんまでも…。


「いやあ、とにかく無事で良かった。あはは」


 俺の乾いた笑いが1階に響いた。







読んでくれてありがとうm(_ _)m……のそのそ行くよ。頑張れみんな!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最新話まで追い付きました!! ここ最近のダンジョンものローファンタジーのなかでは一番面白いですー!! [一言] センパイが好きです(直球 残念美人いいよね…
[一言] ……美波よ… ……出番を待つのです…ぴ… つぐみん(バーサーカーモード) ゴリマッチョツンデレカースドテイラー(テイマー?)ウォーリアって言う新ジャンル開拓 つぐみんにヒロイン(⁉︎)枠…
[良い点] マシロかわゆす( ´∀`) [気になる点] つぐみのステータスに器用の項目なかったけど 航平はどこ見て器用さ知ったの? [一言] 続きが読みたい
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