13日のつぐみさん
「おはようございます、徹さん、つぐみさんも」
開けたドアの向こうに忍者姿の徹さん、そしてドアで半分見切れた普段着のつぐみさんが、大きな旅行用トランクを足元に置いていた。
「おはよう、田所くん。よろしくね」
「……」
徹さんは魅惑の微笑みを浮かべ、黙っているつぐみさんは眉間にシワを寄せて頷く。
…なんか怒ってる?
二人を部屋へ上げ、玄関ドアの内鍵をかける。
狭い玄関には黒い足袋型の靴と、茶色のゴツい登山靴、俺のまっさらな白いスニーカーが、身を寄せ合って並んでいた。
どんな集まりかさっぱり分からないな…。
「徹、つぐみ、おはようですピ!」
「キューイ!」
朝飯を片付け終わったガラステーブルの上で、Pちゃんとマシロが並んで片手を上げている。
つぐみさんが反射的にカーゴパンツのポケットに手を入れ、考え直したように手を引き抜いた。
撮りたいよね? 待ち受けにしたいよね? 写真集とか作りたいよね?
「おはよう、Pさん、マシロちゃん。今日はよろしくね」
忍者が礼儀正しくお辞儀をしても、つぐみさんは眉間にシワを寄せたままだった。
「キュ…」
マシロが小さく鳴いて、Pちゃんの後ろに隠れる。まあ同じくらいの大きさだから、隠れきれてないが。
「つぐみさんは昨日からダンジョンに入れるって緊張してて、ちょっと顔が強張っているけど、怒っていないから安心して。マシロちゃん」
これがちょっと、か。
「ピィ、マシロ、つぐみは顔は怖いけど、良い匂いがしますピ」
「キュッ」
マシロがまたPちゃんの隣に並んだ。
「良い匂い…俺は、食料なのか? そういう事か? だがこの子たちになら…血となり肉となるのもー」
眉間のシワをさらに深くしてから、何かを悟ったように上を向く。
「食べません。じゃあ用意して、潜りましょう」
「本当に地下へと続いている…」
頭に付けたヘッドライトに照らされた土の階段を、つぐみさんがしゃがみ込みながら降りて行く。
通れて良かった。しゃがむには問題ない装備なんだろう。
「二人はライトなしか?」
「田所くんのお陰でスキルが取れたからね。私は夕方くらいの明るさで見えてるよ。田所くんはもっと良く見えている」
「…そうか。羨ましいな」
カチッ…
「ピ、つぐみもレベルを上げて、眼調整スキルを取れば良いですピ」
「キュイ」
背中に回したバッグの丸窓から、ふたりが顔でも出しているのだろう。
「そうだね。俺頑張るよ」
背後からつぐみさんの嬉しそうな声が聞こえた。
土の道から石畳の通路へ入る前に、つぐみさんに確認する事があった。
野球のキャッチャーのようなプロテクターを身に着けた、つぐみさんを振り返る。
「つぐみさん、俺は鑑定も持っています。これからダンジョンで魔物と戦うから、つぐみさんの戦闘力、ステータスを知っておきたいんだけど、良いですか?」
「ああ、構わない。…俺も見れるようになるか? ステータス」
「魔物を倒して魔力移譲されれば、見られるようになりますよ。じゃあ、失礼して…」
Lv1 鹿島継実(カシマツグミ) 28才
種族:人間
職業:洋裁師(高)
生命力:170/170
魔力:ー
体力:20
筋力:18
防御力:17
素早さ:8
幸運:54
スキル:身体操作1 手忠実2
やっぱりつぐみさんも(高)人間か。にしてもレベル1にしては生命力、体力、筋力、防御力が高すぎだ。千駄木オヤジよりところどころ高いんじゃないか?
確か基本は子供から一般的な大人で5から10だろ?
「どうだ?」
つぐみさんがそわそわしている。
ん? あれ…?
「徹さん、スキル見えます?」
「うん。薫で試したら、スキル6つまでは見えた。後は文字化けするんだよ。スキルレベルも分からない。魔法は雷魔法は見えたが、薫はひとつだからね。いくつまで見えるか、比較対象者がいないからまだ分からない」
「つぐみさんにある、あのスキル、何ですかね?」
「ん? ああ『てまめ』かい? 手先が良く動く、器用な事だよ」
なるほどね。『てちゅうじつ』と読んでもスキル鑑定が出来なかった訳だ…。
「俺も気になる。教えてくれ」
もう待てないというように、ずいっと前に出て来た。
「えっと、職業は『洋裁師』。防御力、体力、筋力がずば抜けています。盾役がぴったりな感じ?」
「盾…タンクか」
タンクってなんだ?
「後は器用さが、レベル1にして突出してますよ」
「…ダンジョンでレベルが上がったら『錬金術師』とかになれるか?」
坊主頭のあごひげが、目をキラキラさせている。
わかるわかる、憧れってあるよね。…おかしいよねー? 俺まだサラリーマン…。
「…なれるかは分かりませんが、そう強く願って戦ってみて下さい」
俺は空間庫からオノカブトの手斧を取り出し、つぐみさんに手渡した。
めっちゃ似合うな…。キャッチャープロテクターに手斧…。『13日のー』スピンオフ系映画の主役みたいだ。
「…アイテムボックスか! くそっ! 羨ましい!」
そんなホラーな想像をしていたから、つぐみさんの大声にビクッとしたのはしょうがないと思う。
読んでくれてありがとうm(_ _)mこうして亀並みに進むのだ!




