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幸運、不運はすぐ側に


 5月25日月曜日ー


「千駄木先輩、おはようございます」


 デスクの椅子を回転させ、後ろに立つ先輩に挨拶をする。今日は髪を下ろしていた。クールビューティーは、髪を下ろすと清楚ビューティー。


 先輩が美波よりも長い、真っ直ぐな黒髪をサラリと揺らして、前屈みになる。


「おはよう、航平君。返しが早いな。もっと続きを言わせてくれても良かったが…クククッフゴッ」


「今日は来たんですね?」


「ああ、引き継ぎもある」


 先輩が肩を軽くすくめる。


「じゃあ、また公園ですか?」


「クククッ。久しぶりのお弁当が楽しみだ」


「俺のを食べる気満々ですね?」


「当然だ。クククッ! フゴッフゴ…失礼」


 最後は礼儀正しく謝罪し、ヒールを鳴らして去っていった。




「徹さんの様子はどうですか?」


 三好さんの弁当は相変わらず彩りが綺麗で、目にも舌にも美味しい。


「ああ、土曜にダンジョンに入ったと昨日聞いた」


 先輩は俺が作った3色弁当をがっついている。


 ビッグホーンひき肉を使った甘じょっぱいそぼろの茶、甘い炒り卵の黄、大根の葉をごま油で炒めた緑。


「この細長いのはなんだい?」


「余った野菜の皮をドレッシングと和えただけの、簡単なやつです」


「ほう。皮は栄養の塊と聞く。初めて食べたが、美味しいな。今度三好に作ってもらおう」


 作るかな、三好さん…。


「詳しくは聞いてないが、兄さんも魔法とスキルを取ったのだろ?」


「はい。徹さん凄いですよ」


 装備はもっと凄いけど。


「P様の入るバッグも作製するとか…。昨日ルンルンでどこかに出掛けていった」


 ルンルンって…。ルンルンの徹さん、1キロ離れて見てみたい。


「兄さんがP様のことを、Pさんと軽々しく呼んでいたのは注意しておいたが」


 チッと舌打ちをし、忌々しげに弁当をかき込む。


「先輩って、徹さんと仲でも悪いんですか?」


 そういえばよく、ひれ伏すがいい! とか言ってたような。


「いや、ボクは兄さんが好きだし、兄さんもかなりボクが好きだ。ただ年子だし、負けたくない思いも……違うな」


 途中まで言いかけたことを否定し、弁当を食べる手を止めた。


「兄さんのあの足の怪我は、ボクのせいなんだよ」


「え?」


「ボクと兄さんは子供の頃、誘拐されたことがあってね。二人も運べないからどちらか()()()()の高いほうを連れていくことになって、ボクが不要となった。殺されかけた時、兄さんが自分の足を縛っていた紐を金属片で切って、助けてくれたんだ。その時に自分の足首も一緒に切っていたのに」


「…そんなことがあったんですか」


 まるで小説のような話で、理解しきれないまま、ぼんやりと答えた。


「まあすぐに父さんが来て、犯人たちをボコボコにしたけどね。あれは子供ながらに人食い鬼が現れたと…クククッ! フゴッ」


 笑いどころか!? そこっ。


「それ以降、兄さんはやけにボクを守ろうとするし、ボクは兄さんのお荷物になりたくなくて、意地を張っているわけだ」


 クククッと笑った先輩が、ふと悲しげな顔をして


「ボクは運が悪いんだ。だから不幸を呼ぶ。お母さんや兄さんにも」


 と、呟いた。


「先輩の幸運値、もう人並み以上ですよ?」


「ん?」


「それから徹さんの足はレベルが上がって、完全に治ってます」


 三好さんの塩唐揚げを食べながら言うと、先輩が驚いたように俺を見てから、俯いた。


「そうか、やっぱり今まで治っていなかったのか…。そして今度は完全に治った」


「そうなんですよ。だから先輩は不運じゃありません。むしろ逆に運が良い。Pちゃんにも出会えたし。まあ俺もですけど」


 ははっと笑って、弁当の筍の炊き込みご飯を口に詰め込んだ。


 俯いていた先輩が、何かを呟く。


「んぐ? なんです先輩?」


 俺が聞き返すと、先輩がいきなり顔を上げ、笑い出した。


「…クククッ! そうか! ボクはもう魔除けやおまじないグッズに頼らなくても、幸運は人並み以上! バロンの仮面を被らなくても、悪霊さえ寄せ付けない!」


「…ちなみにグッズの数って?」


「小さいのも入れると、239個だ」


 それだけあると、逆に何か悪いことが起きそうだ…。


「先輩が運悪かったのって、まじないグッズの呪いだったりして」


「クククッ! フゴッ! そんなことがあるものか! バカ、タレ…?」


 先輩がゴクリと、喉を鳴らす。


「…早急に、然るべき所に預けたほうが良いですよ」


「…ああ、そうする」


 神妙な顔で先輩が頷いた。




「薫に鑑定スキルが取れたことを話した途端、部屋に連れていかれてね。部屋の魔除けや、まじないグッズを鑑定をしたら…いやあ、凄かったよ」


 その日の夜遅く、徹さんが家を訪ねてきた。バッグ作製に必要だと、俺の肩から腰までの長さや、Pちゃんのサイズを測るためだけに。


 どんぶりベッドで爆睡している、Pちゃんのサイズをこっそり測り終えると、部屋で麦茶を飲みながら、さっき実家に寄った時の話をしてくれた。


「じゃあその中のいくつかが、先輩の幸運を下げていたということですか」


「うん。中には300年以上昔の物で、持ち主たちが次々に不幸に見舞われる、いわく付きの木彫りの置物があったりね」 


 やっぱりだ。そもそも239個も持っているほうが怖いわっ。


「全部、浄化してもらうよう、知り合いに頼んでおいたよ…。さてとサイズも分かったし、遅くに悪かったね。そろそろ失礼ー。ああ、そうだ。バッグに何か付けて欲しい機能とかあるかい?」


 玄関先で高級そうな革靴を履きながら、徹さんが尋ねてきた。


「いえ、覗き穴があって、前にも後ろにもすぐに回せる物であれば…ああ! ちょっと待ってください!」


 俺は部屋に戻ると、宝箱でウトウトしていたマシロを、そっと両手で包むように抱き上げた。


 玄関に立っている徹さんに、両手で開けてみせる。


「マシロといいます。こいつも入れるようなバッグが良いです」


「キューイ…」


 マシロが手のひらの上で、うーんと伸びをする。


 表情を変えず、マシロを見つめていた徹さんがよろめいた。


「徹さん!?」


「いやすまない。可愛い…なんでもない…。そうか、テレポの変異種? よく分からないが、田所くんの願いだ。必ずPさんとマシロちゃんにとって、最高のバッグを作ってみせるさ!」


 なんだか凄い気合の入れようだ。ありがたやありがたや…。


「ありがとうございます。バッグ作るなんて時間がかかると思いますが、よろしくお願いします」


「金曜には仕上げる! じゃあ田所くん、失礼するよ」


 徹さんはそう言い放つと、澤井さんが待つ車に乗り込んで帰っていった。


「…金曜って、今週の? 手作りバッグって、そんなに早くできるのかな? なあ、マシロ」


「キュワッ…」


 マシロが小さくアクビをした。










読んでくれてありがとうm(_ _)mこれも小話まわり道? いやいや本筋です!( ・ิω・ิ)キリ 

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ?よくよく考えると千駄木って徹さんから見たら妹… ま、まあ嫌いではないかな。嫌いでは。 あと美波が帰ったので暴れます。10話までお付き合いくだせぇ。 8 桜猫の行き先を調べてみると、ニュ…
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