マシロが来た日の夜の事
「さあ食べるか! 今日はマシロの歓迎会だ」
ガラステーブルにはビッグホーンステーキ、肉を細かく切りまくったひき肉と卵白で作った中華餡を、茹でたブロッコリーにかけたフワフワあんかけ、卵と茎のスープ、野菜皮のマリネ、手作りプリンも付けた。
「今日は豪華ですピ! マシロ、航平の料理はどれも美味しいですピ!」
「キュイッ」
Pちゃんの豪華ハードルが低い。
賢者の家で一緒に遊んでから、すっかり意気投合しているように見える。どちらかというとPちゃんが年上風を吹かせている感じか。年齢不詳だけど。
俺がラップを取りに部屋へ戻った時、賢者の家からふたりも強制退去され、放り出されてきた。入れる人数は増えたが、強制退去は変わっていないようだった。
「美味しいですピィー」
「キュイィー」
テーブルの上でPちゃんは羽を、マシロは小さな鉤爪を頬に当てる。
いっぱい稼いだら、もっと良いもん食わしてやるからな…。
「で、Pちゃん。魔力回復ポーションが100ポイント、1時間で魔力が1ポイント必要なら、1本で4日もつ計算で合ってる?」
「ピ、マシロが体をダンジョン外で維持するため、4日に1本飲めば大丈夫ですピ」
もぐもぐと野菜皮の酢漬け…いやマリネを食べながら、Pちゃんが片羽を上げる。
「マシロの魔力量が見えたら、効率的にあげられるんだけどなぁ。今日念のため1本飲んだほうが安心だろう。明日からまた仕事だし」
土魔法で瓶と、魔力回復ポーション15本を作ったら残りの魔力が10を切った。
Lv39 田所航平(タドコロコウヘイ) 23才
種族:人間
職業:サラリーマン(低)
生命力:3200/3200
魔力:8/1510
体力:330
筋力:320
防御力:325
素早さ:345
幸運:200
魔法(全適性):光魔法5 風魔法5 雷魔法5
水魔法5 土魔法3
スキル:瞬間移動4 剣技5 見切り5 呼吸法5
駿足6 身体操作6 絶対防御5 気配探知6
空間把握6 隠密5 罠解除6 捜索4 地獄耳3
鑑定10 異常耐性10 魔法耐性10 眼調整10
空間庫10 生命力回復10 魔力回復10
ユニークスキル:賢者の家6(30m×30m×30m)
魂の絆:***に創られし叡智 P
称号「始まりを知る者」「立ち向かいし者」
「幸運の尻尾を掴む者」
「ふう…お腹いっぱいですピ」
「キュイ」
テーブルの上の料理は全部売り切れだ。結構な量だったが、想像以上にマシロもよく食べた。
これはやっぱり早めに居場所を見つけてやらないと、食費が…。
「ごちそうさまでしたピ」
「…? キュキュィ」
Pちゃんが羽を合わせると、マシロも真似をして小さな手を胸の前で合わせる。
はああ…もうマシロもずっとうちにいて、いいんじゃないかな? いやいいよね? 問題なんてひとつもない。
いや、問題があった。
デザートのプリンを食べ終えたふたりが、フローリングに仰向けになっている。水色の体も、白い体も、カラメルソースでベタついていた。
「Pちゃん、聞いてくれ」
「ピ?」
「光のオーラを使えるほど、魔力が残ってない。ちなみに今もかかっていない」
「ピ!?」
「というわけで、今日は皆で風呂だっ」
ぐわしっとPちゃんを掴む。
「ピイィィー…」
「キュイ?」
「おお、マシロは風呂が好きなんだなぁ」
「キュイ」
狭い浴槽でラッコのように仰向けに浮いているマシロが、器用に片手を上げる。
「なんだ、マシロ。言葉が分かるのか? そうかあ、すごいねえ」
固まって動かないPちゃんを、カシュカシュ洗う。
「Pちゃんも頑張ったな。ほらお湯かけるぞ? 目とくちばし閉じとけー」
ザバーッとお湯をかけてもやっぱり泡が流れきらない。手桶の中のお湯に浸けておく。
「ほらマシロおいで。洗うぞ」
「キューイ」
浴槽の縁に登り、半分湯に浸かった俺の隣に寄ってくる。
「頭良いなあ、マシロ。よし洗うぞ」
「キュ」
小さな手で自分の両目を覆う。
「まだお湯かけないよ。マシロもボディソープだな」
「…ピィこうへい、体がおもひピィ…」
ブクブク…
手桶の中にPちゃんが沈んだ。摘んで引っ張り出す。
トポポポッー
滴り落ちるお湯が少なくなってから、ピッピッといつものように湯切りし、便器の上蓋に敷いたタオルに包む。
「Pちゃんはそこでちょっと待ってて」
「…ピ…」
マシロは洗われるのも好きなようで、一度ボディーソープの泡を食べ、ペッペッとしたくらいで、終始大人しかった。
「さっぱりしたなあ、マシロ」
「キュイッ」
タオルでゴシゴシされてもマシロはご機嫌だ。
「なあ、Pちゃん?」
「…ピ、航平、今からダンジョンに行ってきなさいピ。そして魔力を満タンにしてくるまで、戻ってきてはいけませんピ」
タオルに包まれたPちゃんの目が、半目だった。
「…満タンになるまで、どれくらいー」
「4時間6分30秒ですピ」
鬼ですね!?
「明日仕事から戻ったら行きます…」
「キュイ?」
マシロが俺を見上げる。うん、大丈夫、お前のポーションは飲まないよ。
そうして俺はシングルベッドへ、Pちゃんはどんぶりベッド、マシロは宝箱の中へ潜り込み、眠りにつくのだった。
読んでくれてありがとうm(_ _)m 小話寄り道まわり道? 押し通す! …明日からまた本筋へ続く…。




