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失われた世界VS今の世界


「じゃあ帰るね。こう兄、ピヨちゃんとマシロちゃんをよろしくね」


 あずき色のジャージから、ジーンズとTシャツに着替えた美波がPちゃんの頭を撫で、そのまま宝箱の中のマシロを撫でようとして手を止めた。


「マシロちゃんに警戒されてるなあ」


 花びらに隠れ、顔を覗かせるマシロに苦笑いする。


「そのうち馴れるさ。家まで送ってー」


「こう兄、外まだ明るいもん。大丈夫、ありがとう」


 午後5時、外からはまだ子どもの遊ぶ声が聞こえる。


「そっか、気をつけてな。来週末、課題やバイトがあるんなら無理に来なくていいぞ? もう強くなったよ。美波は」


 レベルも15になり、しなやかな筋肉に素早さ、それをコントロールする身体操作も上った。自分を守れるくらいにはなっている。


「うん、バイトはもう休めないから。あーあ、ピヨちゃんやマシロちゃんと会えないのが寂しいよ」


 そこに俺はいないのか…。


「あとは母さんだな」


「お母さんね…大丈夫かな?」


「大丈夫だろ?」


 あの天然さで「あらあら」言いながら魔物を倒しそうだ。


「じゃあ、ビッグホーンのお肉ありがとう。またね!」


 10キロの肉入りリュックを、軽々と持ち上げて美波が帰っていった。


「リュックのほうが破けそうだな」


 美波のスカイランナーブーツを空間庫にしまいながら呟くと、


「美波用のバッグも必要ですピ」


 Pちゃんが左肩に乗ってきた。それ用のお金も必要です。


「じゃあPちゃん、やりますか」

「ピ!」

「キュイ?」


 マシロも右肩に乗ってくる。


「賢者の家!」


 半透明の楕円膜が現れ、俺たちは中に入っていった。




「…綺麗だな」

 

 柔らかな草の上を歩きながら、空を見上げる。氷穴ダンジョンの時に来た以来だ。あの時は夕暮れ前だったが、今は無数の星が、藍色の空に瞬いていた。


 ただ、月はない。


 そもそもあれは本当に「星」なのか? 30立方メートルに映された、映像のようなものなのか…。


 星あかりが渋い赤色屋根の家と、小さな庭を照らしている。庭に咲いた赤い薔薇が、静かに出迎えてくれた。


 平たい飛び石に導かれるまま、玄関の扉を開ける。開けた途端、部屋の中が明るくなった。


「おお、センサーか何かかな?」


「ドアノブが航平を認識しただけですピ」


「…前から思ってたけど、失われた世界ってハイテクだよな」


 なんでダンジョン拡大しちゃったんだろ? これだけでも高度な文明だったことが分かるし、レベルタグの箱の製作者にしても、高レベルな人たちがいっぱいいただろうに。


「お邪魔しまーす」


 裸足だった足裏を水魔法で綺麗に洗い流し、乾かしてから、キッチン前のダイニングテーブルに向かう。素足に滑らかな床板が気持ち良い。


「キュイッ」


 マシロが嬉しそうに床板に降りると、馴染みのソファーに飛び乗る。その後をPちゃんも続く。


「ピィー」

「キューイ」


 ふたりできゃっきゃっと転げ回っているのを、これがホントの癒やしのソファー…と眺めつつ、ダイニングの椅子に座った。


「今が5時だから7時までとしても、10時間はできるか」


 賢者の家では時間の流れが1/5。ここでの10時間は、実世界では2時間くらいだ。


 でもまあそんなにやったら疲れちゃうから、ホドホドにしとこう…。


「よし……土魔法1『小瓶』」


 ダイニングテーブルの上に、小瓶が現れ、…あれ? 現れない。


「航平、何をしているんですピ?」


「いや、Pちゃんが言っていたように、土魔法1で瓶を作ろうと」


「…土がある所で作ってくださいピ」


 ソファーの背もたれの縁に止まり、片羽を上げる。


「え? ボンっと出てくるんじゃないの?」


「何魔法ですピ? それは」


「さあ?」


「土操作も土がないとできませんピ」


 Pちゃんがもう興味をなくしたのか、しっとりフワフワな座面に降りると、マシロと一緒にまたコロコロ転がりだした。


「ちょっと外に行ってくる…」


 二人が遊んでいる中、家の外に出た。俺が出たら家の明かりが消えるかと思ったが、そんなことはなかった。


 なんだろう、この疎外感…。


 とぼとぼと敷石を通り、庭から出ると、気を取り直して草原に手のひらを向け、ふと止めた。


「どうせなら粘土質の土のほうが良いよな? できればガラスが良いけど」


 周囲に『捜索』を放つ。この30メートル四方に、瓶に適した土があるかだが…。俺の幸運200MAXを信じるぜ!


「…マジか。やってみるもんだな」


 家の裏手から反応があり、そっちに回ってみる。星あかりの中、細かなキラキラしたモノが混ざった黒土があった。


「ピピィィ」

「キュキュイ」


 家の中から声が聞こえる。

 

 裏の窓から中を覗くと、ふたりが背もたれを滑り台のようにして、楽しそうに遊んでいるのが見えた。


 俺は無言で黒土に手のひらを向ける。


 イメージはヤク○トくらいの、飲みやすく、持ち運びにも邪魔にならないサイズ。


「小瓶」


 想像した通りの形をした小さな入れ物が、ポコッ、ポコッと地面から泡のように出来上がってくる。焼く前の陶器みたいな質感だった。


「…9、10…15」


 横に倒れていたのを一つひとつ立てていく。全部で15本、まあこれくらいでいいだろう。


「次は風魔法で…」


 一本一本に小型の柔らかいつむじ風をかけ、乾燥させていく。ここで2本ひび割れたが、土操作でひびを修復すると、綺麗に直った。


「これで火魔法で焼き上げれば完成なんだけど…。クソォ、あの時パーを出してれば、火魔法オーブは俺のモノだったのに」


 とりあえず出来上がった15本を空間庫に入れ、家の中に戻った。


「航平、できましたピ?」

「キュッ」


 足裏の土を洗い流し、乾かしていた俺の両肩に、Pちゃんとマシロが飛び乗ってくる。


「ああ、でも焼けないから、外で焚き火でもするかなってね」


「ピ、あのオーブンを使えば良いですピ」


 Pちゃんがキッチンにある、鉄の扉がついたオーブンらしきものに羽を向けた。


「なるほど! でも使い方が」


「魔石か魔力を流せば使えますピ。あとはオーブンに任せて、細かい調整は自分ですれば良いですピ」


「分かった。とりあえずやってみるか」


 オーブンを開けようと、縦と横に一本ずつある取っ手のうち、短い取っ手の横棒を掴んだ時、あの羽でサワっとされたような、むず痒い感覚があった。今ので発動したのだろう。


 中から鉄のプレートを取り出す。黒光りする使用した形跡もない新品だ。そこに15本の黒い小瓶を並べる。オーブンの中を熱しておいたほうが良いはずだ。料理でもそうだし。


 小さなガラスの小窓の向こうで、赤くゆらゆらと空気が揺れている。しばらく待ってから、取っ手を掴み、中に小瓶を並べたプレートを戻す。


「後は待つだけだな」


 中が気になって何回も覗く。瓶が赤銅色にジリジリと焼かれていた。


 チリンチリンッ


 鈴の鳴るような音がオーブンから聞こえた。


「焼き上がったようですピ」


「開けると急に冷えて瓶が割れそうだから、しばらくこのままかな」


 Pちゃんとマシロが、最後のチョコブラウニーを半分ずつ食べている間に、小瓶をオーブンから取り出す。


 まだ熱いが風を送ってゆっくり冷ました。


「…できた! 魔力回復ポーション瓶!」


 黒い小瓶がプレートに並んでいる。釉薬もなかったが、ガラスのようなツヤがあった。


「初めてにしては上出来だろー。後は」


 両手のひらに水魔法作った水を溜める。


「魔回復!」


 手のひらの水が銀色に輝く。ライフで確認すると、魔力が100ポイント削られていた。


 そう、俺は10階で美波と共闘している時、光魔法のみを使いまくって、ようやく5に向上したのだ。


 そのまま銀色の小魔回復を空間庫に入れ、焼き上がった黒い小瓶の中に入れた。



 魔力回復ポーション(高級):魔力回復100ポイント

 賢者の家の黒土で焼いた瓶使用

 手のひらで生成。

 製作者:サラリーマン(低)Lv39タドコロコウヘイ



「やった…これも色々情報があり過ぎて、世間には出せないけど、これでマシロが元気でいられる」


 がたんと椅子に座る。


「あと14本作れる魔力はあるし、いけるな。あとは蓋をー」


 はたと手を止める。…蓋がない。この陶器の瓶の蓋って何!? コルク? 木削る?


「…Pちゃん、ちょっとラップ取ってくるわ」


 ラップがある地球も、かなりハイテクだと思った。






 


読んでくれてありがとうm(_ _)mこちらは雨降り、感謝も降り。

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― 新着の感想 ―
[一言] >そう、俺は10階で美波と共闘している時、光魔法のみを使いまくって、ようやく5に向上したのだ。 ↑についてですが、57話目の『人はそう変わらない』で、主人公の光魔法が5になっているので、矛…
[一言] 土で作られた瓶なら輪ゴムも必要か・・・
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