宝箱は巣でした
気配探知の白い点と、砂の中に置かれた宝箱の位置が重なる。
「この階の宝箱は、あれだ」
「こう兄! 早く開けてみようよ」
美波が腕を引っ張る。すり鉢状の穴に降りて宝箱を確認した。
アイツが守っていたのか、はたまた一緒に転移されたのか…。
薔薇魔樹木の宝箱:白薔薇種の樹皮でできている
「間違いない。中身は分からないけど、木でできた普通の宝箱だ」
「やだなこう兄、当たり前でしょ?」
美波がおかしそうにケラケラ笑った。
「そ、そうだな。アハハー…では」
何が入ってる? 願玉? あれはSS級だから、そうそう出ないか。金貨でも良いぞ。美波が喜ぶ。
上蓋をゆっくり押し上げる。
「わあ…良い香り」
美波がため息のような感嘆の声を漏らす。
「…花びら?」
幅30センチくらいの宝箱の中は、全て白い花びらで埋まっていた。
「ピ、これは薔薇魔樹木の中でも希少な、白薔薇種の花びらですピ」
「さっきのアンデッドが白薔薇種だったのか」
花、枯れちゃってたもんなー、アイツ…。
「あー、だからこの鞭は白いんだね」
「この花びらだけでもひと財産ですピ。失われた世界なら、薫の屋敷と同じような城が2つ建ちますピ」
「マジで!?」
失われた世界に行きてええ! あ、もう失われてた…。
「薫さん?」
「ん? ああ、会社の先輩」
「ふーん…」
「なんだよ?」
「女の人? 男の人?」
「女の人…言っとくけど、ちょい変人だからな?」
ニヤついて俺を見ている美波に釘を刺す。
「こう兄もちょい変人だから大丈夫。ねえピヨちゃん、花びら茶色くならないの?」
なんにも大丈夫じゃない。
「変色はしませんピ。王族や高位有民の血結式や死送、この世界で言う結婚式や葬儀でも使われていましたピ」
「へえ、なんだか分かるなぁ。凄く綺麗で良い香りがするもん。大切な人を迎えるにしても、送るにしても、こういうのを使うって素敵…。ん? 失われた世界って、どこ?」
はてなマークを出している美波は放っておいて、花びらに鑑定をかける。
白薔薇魔樹木の花びら:それぞれが思う良い匂いがする
変色せず、永遠に白く輝く。
惚れ薬、美維持液、万能薬の材料のひとつ
肉植?系?:テレポ(変異種) Lv1
攻撃パターン:強制転移、任意転移、魅了
光魔法Lv1、土魔法Lv1
弱点:耳、火魔法、体への物理攻撃
「…ん?」
白薔薇の花びらも魔力回復とか万能薬ってなんだとか、突っ込みどころ満載だが…その前に。
なんで、テレポの鑑定が見えるんだ? しかも鑑定さんがバグってる?
「なに? こう兄どうしたの?」
美波が俺と宝箱を交互に見ながら、不思議そうに頭を傾けた。
「ああ、ちょっと…」
宝箱の花びらを、さわさわとかき分ける。
「…おおう…これは」
かき分けた花びらから出てきたのは、眠っているテレポだった。
顔はテレポのようなキツネ寄りではなく、オコジョのような丸い顔に、大きめの茶色い三角耳がついていた。耳以外は全身が真っ白い毛で覆われ、ふわふわしているテレポが、目を閉じて小さく丸まっていた。
「やだ…カワイイ」
覗き込んだ美波が口を押さえる。
「ピ、これはテレポの変異種…珍しいですピ」
Pちゃんがパタパタと、宝箱の縁に止まった。
「変異種? …鑑定」
もう一度寝ている白いテレポに集中して、鑑定をしてみる。
肉・植系:テレポ(変異種) Lv1
テレポの魔石に白薔薇魔樹木の魔力が練り込まれ誕生した。テレポと白薔薇魔樹木からなる変異種。
攻撃パターン:強制転移、任意転移、魅了、光魔法Lv1、土魔法Lv1
敵と認識したモノを転移、あるいは魅了し自滅、同士討ちさせる。
弱点:耳、火魔法、体への物理攻撃
状態:巣で寝ている。
結構攻撃がえげつないけど…可愛いから良しとする。
「状態は『巣で寝てる』ってなってる…。Pちゃん、どういうこと?」
「レベルは1ですピ?」
宝箱の縁に止まっているPちゃんが、立膝の俺を見上げる。
「ああ、光魔法も土魔法も、全部1」
「ダンジョンでは、ダンジョンにある魔力で魔物が生成されますピ。放置されている魔石は、心臓部がもうある状態なので、魔物の生成が早まるのは前に言ったですピ?」
「うん、だから魔石は回収しろって確か言ってたな」
「稀に魔石の近くに魔物がずっといて、その魔物の魔力が魔石に混ざることがありますピ。そうして生成された魔物は、元の魔石の種族と――」
「流れ込んできた魔力の元が混ざる…。ハーフか」
「テレポと白薔薇魔樹木のハーフは、私も見たことがありませんピ。しかも白薔薇魔樹木の宝箱が巣になっているとは、不思議ですピ」
「さっきのアンデッドになった白薔薇魔樹木が、守ってたんじゃない?」
「え?」
「ピ?」
美波が寝てるテレポを眺めながら言う。
「強制転移されて、アンデッドになっても。もしかしたら、この子を守って強制転移されたのかも」
俺とPちゃんが、寝ているテレポのほうを見る。
「…俗っぽい発想だな」
「ホントですピ」
「ちょっとお!」
俺は宝箱をそっと掴んだ。
「こう兄?」
一瞬不安そうな顔をした美波の頭を、クシャっと撫でる。
「とりあえずこの階よりは、10階か…17階のほうが良いだろ?」
俺は静かに宝箱を持ち上げた。
10階に来た俺たちは、『シールド』のテントの中で、宝箱を囲み家族会議中だ。
「こう兄…10階でこの子、受け入れられるの?」
「ピ、多分無理ですピ。敵ではないと分かっても、異質なモノとして、強制転移される可能性が――」
「テレポがテレポを? テレポたちは優しいからなんとかなるんじゃないか? チョコとかで釣って」
「ブラウニーもケーキも駄目ですピ!」
「ピヨちゃん…」
結局俺が、テレポたちの近くに宝箱を持って行き、お菓子で友好を深めてから、宝箱を開けて反応を見ることになった。
「じゃあ行ってくる。1時間経っても戻らなかったら、1階に帰っておけよ?」
シールドは1時間くらいしかもたない。念の為、美波に魔力丸を渡してある。
「行ってらっしゃい。気をつけてね。宝箱だけ飛ばされないようにね」
「ピ、チョコは極力使わないで下さいピ」
俺への心配が、微塵も感じられない見送りだった。
「行こっか…」
返事のない宝箱にそう言うと、瞬間移動を使い、テレポの巣に向かった。
読んでくれてありがとうm(_ _)m一緒に楽しんでくれてるか不安はあるけども自分楽しいッス!後は時間と誤字との勝負( ゜д゜ )クワッ!!




