豊作
「確かにこれじゃあ、走れないね」
地下9階、先輩が地獄耳のコントロールを覚え、Pちゃんがビームを発射した階だ。
足場はゴツゴツした岩場ばかりで、それ以外は何もな…くはなかった!
「この階にも、宝箱があるぞ…」
気配探知と空間把握を放つと、ここから10階へ向かう途中に宝箱を示す白い点があった。
「宝箱!? どこに?」
美波がキョロキョロ辺りを見渡す。
「まだ4キロくらい先だよ。これから向かう方向だ」
「そんな先の宝箱が見えるの?」
「ああ、気配としてだけどな」
美波の、凄いねーという目がむず痒い。集中すればカメラのズームのように、1キロくらい先なら見えたりする。
「航平、どうしますピ?」
「行く方向にあるし、取りに行こう」
「やった! 宝箱って何が入ってるの? 金貨?」
美波が軽く飛び跳ねる。金貨かぁ、良いなそれ。金銀財宝ザックザク。
「なんだろうな、楽しみにしておこう」
どうか普通の宝箱でありますように…。
途中、魔残(弱)が寄ってきたが、雷光で切り捨てながら先に進んだ。美波が魔残にキラキラボールを放つと、威力が上がったのか、魔残が特にキラキラ魔法が苦手だったのか、3体まとめて倒したのには驚いた。
ヒアアア… ヒアヒアア…
輪唱のような声を上げ、魔残たちが霧散していった。
「美波、凄いじゃないか」
「ヘヘ、まだ魔力13残ってるよ。キラキラボール、あと3回は撃てる」
美波がむふふとニヤニヤする。
俺も最初は、風刃連続36回放てる! とか思ってたな…。あれ?
(Pちゃん、魔力回復10は別として、俺の基礎魔力量、徹さんや美波と同じレベルの時より多い気がする)
(…当たり前ですピ。航平は基礎能力2倍の「立ち向かいし者」の称号持ちですピ。魔力移譲2倍の「始まりを知る者」の称号との相乗効果もありますピ)
何を今更と言うように、尻ポケットのPちゃんがため息をつく。
(…ああそうか、「頑張れ」と「良くできました」の、応援ご褒美称号ね)
なぜか幼稚園の先生が手を振っているイメージが強くて、効果を忘れていた。
「ピヨちゃんどうしたの?」
ため息に反応して、隣を歩いていた美波が俺の尻を覗き込む。
「ピ、なんでもありませんピ。ちょっとこのお尻の持ち主に呆れただけですピ」
なんでもある言い方ですよ? それ。
「そっか」
美波がなるほど、というように頷いて、なんでもなかったかように前を向いた。
そして納得できるの? それで?
俺のちょっと上がりかけた自尊心が、また低空へ戻りました。
こうなれば宝箱を見つけて二人を見返すしかない! もうこの辺りにあるはず…。
ん?
「心がざわつく…」
「こう兄、へこまないのー」
俺の呟きに、隣で美波がふふっと笑った。
「美波! 後ろへ跳べ!!」
瞬時に反応した美波が後方へ跳ぶ。
ドガッ! ガラガラッ…
美波がさっきまでいた岩の地面から、2本の黒く太いツルのようなモノが生えていた。
「ひっ…」
美波が悲鳴を飲み込むのが分かった。それは鞭のようにしなり、窺うようにゆらゆらと揺れ動く。
なんだこりゃ…
ヒュンッ
鞭が空気を切り裂き、躱した足元の岩を砕く。破片が石つぶてになって飛び散った。
ヒュンッー ガチンッ!
伸びてきた鞭を切ろうとしたが切断できず、受け止めた雷光の刀身に巻きつく。
「こう兄!」
「大丈夫! 美波はPちゃんを連れて下がってろ!」
「はいっ」
スキを見て、さっと俺の尻ポケットからPちゃんを掴み、また後に下がった。
絡みついた鞭が、ぐぐっと雷光を引き寄せようとするが、まだ耐えられる力だ。岩を砕いたもう一本の鞭が横から迫るのをジャンプで躱すと、絡みついていた鞭が雷光から離れた。
鞭の生えていた岩場が崩れ、砂のように細かくなった地面に渦潮ができていく。
そこから現れたのは、左右に長い鞭様のツル、頭部は萎れて茶色く変色した花、大型トラックを縦にしたくらいの体高の魔物。
植物(アンデッド)系:薔薇魔樹木 Lv39
攻撃パターン:巻き付き、切り裂き、
魅了・光魔法(どちらもアンデッド化により失効)
蔓を鞭のように使い、切り裂く。
樹皮は硬く、ミスリル以下の刃を通さない。
弱点:光魔法、火魔法、雷魔法、根の中心部への物理攻撃
9階にこのレベルはないだろお!? 植物育たないでしょ? ここ!
「ピ! 航平! 薔薇魔樹木は地下17階の生息する魔物ですピ」
…ああ、テレポか。やっちゃったね、お前…。雷竜と友だちか?
「ここに転移されて、魔残に乗っ取られたんだな? 美波! 他の魔物が寄ってきたらキラキラボールでPちゃんを守れ!」
「分かった!」
美波が更に離れる。薔薇魔樹木は地面から動けないから、距離を取れば安全だろう。雷光でも切れなかったし、物理攻撃攻撃は効かないようだ。
ミスリル以下の刃は駄目ー…ってミスリルってあのミスリルか? 以下ってことは以上もある?
太く長い鞭が挟み込むように向かってくる。
大縄跳びのようにそれを躱しながら、薔薇魔樹木の幹に手のひらを押し当てた。
…カサカサだな。枯れてるのか。
まあお前も、アンデッドになりたくてなったわけじゃない、か。
「『光樹』!」
手から光の根が張り、幹の内部へと成長していく。
メキメキメキッ
幹に縦にひび割れ、光が漏れる。
「もう一発!」
早く終わらせてやる。
もう片方の手からも『光樹』をダメ押しで放った。
バキッー バキーンッ
枯れた幹が四方に砕け散り、破片が無数のホタルのように光って消える中、萎びた花が淡く光り、消滅した。
「こう兄!」
レベルアップのアナウンスの中、Pちゃんを抱いた美波が駆け寄ってくる。
「こう兄凄い! 魔物の鞭も見えなかったけど、こう兄の動きはもっと見えなかった!」
「ピ! 薔薇魔樹木相手にあれだけ圧勝なら、20階も大丈夫ですピ!」
美波もPちゃんも興奮したように言う。
「どうしましたピ?」
浮かない顔でもしていたか?
「いや、アイツ、攻撃パターンの魔法や魅了がアンデッドになって使えなくなってたし、17階の薔薇魔樹木と戦うまで分からないよ」
「魅了があったんだ。じゃあきっと、あの萎れてた大きい花、綺麗だったんだろうね」
美波がほうっと頷く。
「ああ、あの薔薇魔樹木も不本意だったろうなってね。勝手な感情移入、まあ俗っぽい考えだな」
「ピ、薔薇魔樹木の花は、失われた世界では、高級香料、錬金術の「惚れ薬」の材料にもなり――」
Pちゃんが美波の手の中で片羽を上げた。
「なんだって!?」
「ほんと!?」
美波と俺が同時にPちゃんを見る。
「なんだ美波? 興味あるのか?」
「こう兄こそ」
「だってお前、これは…」
「だってこう兄、これって…」
「絶対高く売れる!」
俺たちが同時に口にすると、
「ピィ、俗っぽい考え方ですピ」
とPちゃんが顔を羽で覆った。
「こう兄! ドロップ品に惚れ薬があるかも!」
「おお! 探せ美波!」
俺たちが辺りを見渡すと、花が消えた場所に、一本の白い鞭が落ちていた。
薔薇魔樹木ドロップ:白薔薇の鞭(レア)
薔薇魔樹木の皮と魔力で作られた鞭。柄は幹。
丈夫でミスリル以下の刃では切れない。
魔力を通すと変幻自在の光の刃が出現。
「…美波、手斧の使い勝手はどうだ?」
美波はまだ斧技を取得していない。
「うーん、いまいちしっくりこないというか…でも使いこなせるよう頑――」
「この鞭、どうだ?」
鞭を拾い上げ、美波に手渡す。150センチの美波と、柄まで入れれば同じくらいの長さだ。
「これ? …どうかな。握り易いけど、私、鞭なんて使ったことないよ?」
あるほうがお兄さんは困ります。
少し前に出て、美波が鞭を振り上げた。
ヒュンッ ガキンッ
軽く振った鞭の先が岩に当たり、表面を削る。驚いている美波に、
「今度は魔力を少々流して…」
と、俺も驚きながら声をかける。
「…うん」
ちょっとの間を空けて、白い鞭がキラキラと輝き出す。そしてさっきの岩めがけ、鞭を振るった。
ガゴンッ! カラカラッ…カラン
岩が砕けた。
「…こう兄、これ、私に下さい」
キラキラと白く輝く鞭の柄を、両手で握りしめながら美波が振り向く。
ここでもキラキラ魔法か! ブレないなお前も!
「ああ、これはもう美波の武器だ」
「…私の武器。ありがとう、こう兄!」
「ピ! 航平! 光魔法のオーブもありますピ」
ウズラの卵大の濃い色をした魔石の隣に、光るオーブが転がっていた。
「光魔法4のオーブだ! 美波、これでお前もLv4の魔法を使えるぞ!」
オーブを拾って美波に手渡そうとすると、美波が首を振った。
「こう兄、私の魔力はそんなにないし、今の光魔法を育てて、強くなっていきたい」
「…そっか。分かった。じゃあ母さん用に取っておくか」
「うんっ」
母さんも、どの魔法が覚えられるか分からない。色々取り揃えていたほうが良いだろう。
光魔法オーブ4を魔石と共に空間庫にしまう。いやあ、今日は豊作だ!
「ピ、航平、もうひとつ」
「ん?」
Pちゃんが美波の手の間から、片羽を突き出す。
「さっき薔薇魔樹木が生えていた地面に、宝箱がありますピ」
「なんだって!?」
「ほんと!?」
美波と同時に羽の指したほうを見ると、すり鉢状に穴いた砂の上に、宝箱がぽつんと置かれていた。
読んでくれてありがとうm(_ _)mこうして感謝出来るのを感謝だな 誤字報告も感謝につきませぬく(`・ω・´)




