凹む師匠と拗ねる先生
「美波、良くドジョウが見えたな。あいつの体は黒いし、見にくかったんじゃないか?」
うごめく水面に次々と雷電を撃ち込むと、あちらこちらで吸血ドジョウが消滅していった。雲海の中で光る、稲妻のようだ。
「あれ? そういえばこう兄の顔もピヨちゃんも少し見える…」
腕の傷は綺麗に治り、造血剤を飲み、生命力も満タンになった美波が自分のステータスを確認する。
「眼調整1が取れたよ! こう兄! ピヨちゃん!」
「ピ、やったですピ」
「よし。できれば後8、9階で眼調整2にはしたいな」
最後の雷電を放ち終えた時、俺のレベルが1つ、美波が4つ上がっていた。
魔石やドロップ品の造血剤、毒消し剤を回収し終わると、気配探知と空間把握で、魔物を避けるルートを選ぶ。
「美波、今度は走るぞ。ここで駿足も上げておきたい。逃げるが勝ちって言うだろ?」
「分かった。今度こそ、こう兄についていけるようにする!」
そう言って屈伸運動をし始めた。
「美波は基礎の素早さが高いピ。すぐに向上しますピ」
尻ポケットからPちゃんが声をかける。
「ありがとうピヨちゃん。頑張るね!」
俺の尻側を覗き込み、美波が笑う。
「よし! 魔物は避ける、走ることに集中! ヨーイ…」
「ピ!」
Pちゃんの合図で俺たちは走り出した。
「ハアハア…ハアー。駿足…上がったよ…こう兄…ハアー…苦しい」
泥に足を取られながらも、10キロはある距離を40分で沼地を走り抜けられた美波の脚力は流石だ。後は体力、呼吸法の問題だろう。
「美波、呼吸を整えろ。鼻から吸って、口を小さくつぼめて、ゆっくりと吐き出してみな」
地下8階に降りる階段で、座り込んだ美波に声をかける。
うん、と頷いた美波の肩でしていた呼吸が、少しずつ落ち着いてくる。空間庫からペットボトルの水を出して、美波に渡しながら、
「次の階は沼地と違って明る過ぎな場所だ。目を慣れさせることに集中しながら、ここも走り抜ける」
「うへえー」
美波ががっくりうなだれる。
「ん? どうした、美波? 帰るか?」
俺がにやにやするのをジト目で見上げると、
「帰りません。…ラン2本目…頑張ります。いじわる師匠」
べーっと、可愛い舌を突き出した。
「うわっ!? なんでこんなに眩しいの?」
目を細めた美波が俯いた。徹さんと同じことを言っている。
「床の白い大理石と水晶のせいかな。暑かったり寒かったりする階もあるから、まだ良いほうだと思うよ」
「こんな中で、こう兄は平気なの?」
「俺は眼調整10あるからな」
「10!? …前聞いた時は濁されたけど、こう兄ってレベルいくつ?」
「俺? 俺は――」
Lv35 田所航平(タドコロコウヘイ) 23才
種族:人間
職業:サラリーマン(低)
生命力:2940/2940
魔力:1250/1340
体力:290
筋力:280
防御力:285
素早さ:305
幸運:200
魔法(全適性):光魔法4 風魔法5 雷魔法5
水魔法5 土魔法3
スキル:瞬間移動3 剣技5 見切り5 呼吸法5
駿足6 身体操作6 絶対防御5 気配探知6
空間把握6 隠密5 罠解除6 捜索4 地獄耳3
鑑定10 異常耐性10 魔法耐性10 眼調整10
空間庫10 生命力回復10 魔力回復10
ユニークスキル:賢者の家6(30m×30m×30m)
魂の絆:***に創られし叡智 P
称号「始まりを知る者」「立ち向かいし者」
「幸運の尻尾を掴む者」
「35!? こう兄、このダンジョンができてどれくらいだっけ?」
「15日」
気配探知と空間把握を放ちながら答える。
よし、近くに魔物はいないな。あっ! 白い点がある!
「毎日来てるの?」
(Pちゃん! 宝箱があるぞ! 徹さんと来た時は、見逃したみたいだ)
(探索レベルが上がったから気づけたんですピ)
「いや、仕事終わりは疲れるから、潜ってない」
(後で取りに来れば良いですピ。今は美波の訓練中ですピ。宝箱を先に取られる心配もありませんピ)
(そうだな)
「…なるほどね、だから彼女もできないんだ」
美波の納得したような呟きが聞こえた。
え? 何? 何がどうなってその答えに辿り着いた!?
「こう兄、行こう! 少しだけだけど目が慣れてきたよ」
美波がまだ目を細めながらも、慈愛に満ちた顔で微笑んだ。
俺の乱れた心はどうする!?
「…おう、しっかりついてこいよ?」
兄として、表に出さぬよう踏ん張った。
「スゥー、フゥー…ホントだ、呼吸が楽になってる」
9階を駆け抜け、下り階段の前で両手を膝についていた美波が上体を起こす。
呼吸法はまだ取得できていないようだが、それももうすぐ覚えるだろう。
「目はどうだ?」
「あの大きなハリネズミをこう兄が倒した時、レベルアップと一緒に眼調整2になったから、少し眩しいかなくらい」
「ピ、美波が走って囮になると言った時の航平の慌てようは、ここでも分かりましたピ」
尻ポケットのPちゃんだって、ピーピー言ってたくせに。
「まあ美波のお陰で早く倒せたし、時短時短。よし次は9階、死の土地だ」
「死の土地って…えー? アンデッドとか…?」
下り階段を降りながら、美波が顔をしかめる。
唯一やっていたゲームでも、ゾンビとか嫌いだったな、そういえば。
「いや、魔力のカスみたいなヤツしか今のところ見てない」
魔残(マカス)倒してもレベル上がらないし、ここはあれだな。
「眼調整2でもやっぱり暗いね。街灯が少ない夜の公園みたい」
辺りを見渡しながら、美波が俺に寄ってくる。
「美波、魔力は?」
「17残ってる」
「じゃあ光魔法の『ライト』を」
「え? …分かった。『ライト』」
まばゆい光源が美波の頭上に浮かぶ。このライトもやけにキラキラしてる。ミラーボールか?
「うー、眩しい…」
手で日除けを作りながら、美波が顔をしかめた。
「ライトに集中して、自分の一番見やすい場所に移動させてみな」
「こうかな…」
ライトがやや後方高めに、スッと移動した。
「できた!」
「いいぞ。ダンジョン外で美波がキラキラ魔法を使うと、魔力回復ポーションを飲まない限り、光弾ひとつで回復まで157日かかるからな? 回復が早いダンジョン内で魔法を使って、魔法レベルと基礎魔力量を上げる。それにこういった細かい操作も大事な訓練だ。残りの魔力を確認しながら、積極的に使っていけ」
「はいっ、こう兄師匠!」
美波がびしっと敬礼した。
尻ポケットでPちゃんがもぞっと動く。きっと敬礼しているな。
(美波の訓練は順調だった…そう、この時までは……ピ)
尻ポケットで寂しいからって、ミステリー風フラグっぽく言わないでくれ…Pちゃん。
読んでくれてありがとうm(_ _)m 感謝ガンガン!




