Pちゃんの野望
ガラステーブルを挟んで、黒装束の徹さんと睨み合う。
俺の相棒が燃えつきて焦げた布切れになってから、熱岩亀のドロップ品を回収してすぐに魔力丸で家に帰ってきていた。
「引いてはくれませんか? 徹さん…」
俺はグッと握り拳を作り、また開いた。
「田所くん…時に人は、譲れないこともある」
ガラステーブルの向かい側に立って、徹さんが呟くように言う。
細められた目は、冷たく鋭い。
「二人とも、恨みっこなしですピ」
Pちゃんがガラステーブルの上から、睨み合った俺たちを見上げた。
「ピィー、ピッ!」
Pちゃんが合図のさえずりを放つ。
「ピ! 最初はー」
「グー!」
「ジャンケンポンッ! …よしっ!!」
グーを出した徹さんが、そのまま拳を付き上げた。
「くうう! 負けたっ」
チョキの形をした手が、今ほど憎らしく思ったことはない。
「ではこれは、徹が先に試してくださいピ」
Pちゃんが両羽で、テーブルに置かれた『火魔法3』のオーブを徹さんの手のひらに乗せる。
地下12階、火山帯ダンジョンで倒した、熱岩亀のドロップ品だ。
俺はまだ火魔法を覚えていなかったし、徹さんもぜひ覚えたいと欲しがった。
どちらも譲らなかった結果、拳と拳を突き合わせたジャンケンになったわけだ。
「…でも徹さんが適性なしだったら、俺が貰いますからね?」
手のひらのオーブに目を輝かせている徹さんに水を差す。
そう…『火魔法3』のオーブを手に入れたとしても、適性がなければ意味がない。
「分かってるよ。その時は潔く、田所くんに返すから。元々の田所くんが倒したのに、私のわがままでジャンケンをしてもらったようなものだからね」
「そう思うなら今返してくれても――」
「勝負は勝負ですピ! 徹、試してくださいピ」
Pちゃんが俺の代わりに男前なことを言う。
「ありがとう。じゃあ…」
徹さんが口の中にオーブを入れる。
俺たちはその様子を、固唾をのんで見守った。
どう!? ビリビリしてる!? ビリビリー…
「…田所くん。オーブが、なくなった…! 凄い…ファイアーボー」
「ひ!? ここでは止めて!」
徹さんが何を血迷ったか、火魔法を放とうとしたのを、慌てて飛びついて阻止した。
「ああ、ごめん。つい我を忘れた」
忘れ過ぎです!
「はあ…。でもまあ、良かったですね。なんとなく、使える魔法が分かるでしょ?」
徹さんがコクリと頷く。
「俺はまたダンジョンに潜ってオーブ探すから、気にしないでください」
俺の言葉に、嬉しそうに徹さんが笑う。
「ありがとう、田所くん」
Lv11 千駄木徹(センダギトオル) 26才
種族:人間
職業:特別職国家公務員(高)
生命力360/360
魔力:40/60
体力:65
筋肉:55
防御力:50
素早さ:55
幸運:66
魔法:火魔法3
スキル:呼吸法1 気配探知1 威圧2
駿足2 眼調整2 身体操作3 剣技3
鑑定4 魅了5
「徹さん『魅了5』になってたぞ…」
プリップリの大きなエビが入ったエビピラフをパクっと食べる。
うまっ! ふんわりバターの香りがして、しっかりとコンソメと玉ねぎの甘みがする。エビの臭みは白ワインで消しているのかな? まあ材料費が高めだから、俺はいつも半額セールで買った冷凍ピラフだけどね。あれだってかなり旨い。
「徹が微笑めば、大抵の人間は、思考能力が低下しますピ」
と、熱々のオニオンスープをごくごく飲みながら、Pちゃんが言う。
徹さんは迎えに来た澤井さんの車に乗って、笑顔で帰っていった。その時澤井さんが夕食の差し入れと言って、またタッパーに入った食事と魔法瓶をくれた。徹さんが頼んでいてくれたらしい。
なんという気遣い…俺が感動していると、更にはPちゃんの入るバッグを精鋭の一人と相談して、作らせてほしいと言ってきた。もちろん遠慮せずお願いした。
「徹も良い匂いの人間ですピ。航平の周りは、そういう人間が集まってくるのかも知れませんピ」
「そうかねえ…今までボッチだったのに」
「徹もきっとボッチでしたピ」
「ええ? 『有民』だぞ? 俺と違ってたくさん持ってるだろ」
「それとこれとは話が違いますピ。徹のような仲間を見つけていくのが、航平にとって大事になりますピ」
ピラフのエビをガツガツ食べているためか、イマイチ説得力がない。
「そうかなぁ。俺は美波と母さん、それとPちゃんがいれば十分なんだけど」
あ、先輩も入れておこう。知られたらバカタレッと怒られそうだ。
「徹も入れてくださいピ」
「…Pちゃんが徹さんオシだ。…魅了5にやられたか」
「ピ、私にスキルは通用しませんピ」
そうなの!?
「徹は探索者登録所――、ギルドにとっても大事ですピ」
「へ? どうして? 先輩がいるじゃん」
「ピ、もちろん薫も大事ですが、徹の『魅了5』は、失われた世界では王族、あるいは全土のギルド支部を束ねる、ギルド長が持っていたスキルでもありますピ」
マジですか…?
「ただ、威圧スキルが弱いですピ。薫には魅了が足りませんピ。航平にはどちらもありませんピ」
俺を出さなくても良いだろ…。
「多くの探索者を束ねるためには、3人ともスキルが足りませんピ。ダンジョン出現まで後66日、時間がありませんピ」
いつの間にかピラフを食べ終わり、大きなゲップをしたPちゃんが、失礼と口を押さえる。
Pちゃんはダンジョンナビゲーターであり、俺の人生ナビゲーターでもあったんだっけ…。
「…Pちゃんが想像する『ギルド』ってどんなの?」
「ピ? 世界中に支部を作り、探索者を『Lvタグ』でランキング統括、ダンジョンの規模、危険度、魔物の出現種、ドロップ品の情報開示、売買、運営をするものですピ」
自分でも口がポカンと開いているのが分かり、なんとか閉める。
「ちなみにこれは、想像ではありません、現実ですピ」
「…アハハ。Pちゃん、俺は魔石を買い取ってもらえれば、それで満足…」
なんか話がデカくなってない?
「航平、それはそれとして、チョコレートブラウニーが食べたいですピ」
人の話聞いてえ!?
「ピヨ?」
Pちゃんが愛らしく、体を傾けた。
読んでくれてありがとうm(_ _)m 今日も感謝の滑り込み 誤字報告、抜け報告ありがとうございます!助かります(ジャンピング土下座)




