さらば相棒2
「なるほど。この黒い岩は火山帯ダンジョンの岩か」
徹さんがふんふん言いながら、さっきから岩ばかり鑑定している。
地下12階、見渡す限り黒や茶色の岩ばかりで、魔物すら見当たらない。
遠くの背の低い山々から噴煙が出ているのが見えるが、近くで鑑定できるものといったら、岩くらいだから仕方ないけどね。
鑑定4の徹さんには、
火山帯ダンジョンの岩。熱く固い。
魔力が少量内在。
と見えるらしく、俺には、
火山帯ダンジョンの熱岩:マグマに魔力が混ざり、
地表で固まった物
表面温度は100度より落ちることはなく、
常に熱を放出している。
と、見えている。これが鑑定4と10の違いか。
徹さんがPちゃんを鑑定しても『ぬいぐるみ。癒やしの手触りピヨピヨちゃんを器にしている***』としか出てこないらしい。俺は名前や年齢さえも***と消されているらしく、怪しさ満点だよ…と徹さんが教えてくれた。
これはいずれダンジョンが出現して鑑定が流行る前に、なんとかしておきたい。
「それにしても暑いね…。クーラーを作動させていても暑いよ。熱で目がしぼむかと思ったくらいに」
徹さんがスキーゴーグルのような反射サングラスを掛けたのは、12階に降りてすぐだった。なんでも120度の熱風、氷点下120度の冷気までなら耐えられる仕様らしい。足袋のような靴も、同じ耐久性があると言っていた。
そこまでいくと人間本体が耐えられないと思うけど。
俺にはその暑さは分からなかったが、相当暑いんだろう。なんせ、熱岩は常に100度だ。
そういえば俺の願玉印のスニーカーの裏も溶けてないな。
俺がスニーカーの裏を確認していると、
「ピ、この階は気温70度、サウナの湿度がないのと同じ環境ですピ。徹のクーラー黒装束、航平の絶対防御がなければ、体温が上がり暑熱障害、脳のタンパク質変化で30分も持たず死にますピ」
Pちゃんがバッグの中から顔を出す。Pちゃんは問題ない様子だ。
「それはマズい…。徹さんのクーラー機能が壊れたら…」
ウロウロと岩鑑定している徹さんに声をかけようとした時、魔物の気配を感じた。
「! 徹さん! 後ろだ!」
徹さんの後ろにあった、黒い大岩がズズッと動く。
とっさに徹さんが振り返り、動く大岩から跳び退って距離を取った。
黒い岩が赤い泥の塊を飛ばす。避けた徹さんの足元に煙が上がった。
肉食系:熱岩亀 Lv27
攻撃パターン:溶岩飛ばし、体当たり、踏みつけ、火魔法Lv3
熱石を甲羅に持ち、気配を消して相手に近づき溶岩で溶かす
弱点:水魔法、腹部または首に対する物理攻撃
「徹さん! そいつは亀だ! 弱点は腹、首への攻撃だ!」
叫びながらPちゃんのいるバッグを背中に回し、徹さんに駆け寄る。
「駄目だ! 頭を引っ込めた!」
徹さんがフォグガードを向け、何かを噴射した。熱岩亀が亀とは思えない動きで徹さんに向かっていくのを、後ろから抱きついて止める。
止めている間に徹さんが何度も噴霧攻撃をしているようだったが、前に動こうとする亀の力は衰えない。
「ピ! 航平! 服が…」
甲羅に触れていた腹と両腕から煙が出て、ボワっと燃える。
「Pちゃん! バッグの紐が燃える! 離れて!」
Pちゃんがバッグから脱出し、パタパタと飛び上がった。
その間に熱岩亀に徹さんが何本か矢を放ったが、甲羅に弾かれ、空中で霧状のモノを噴射しては落ちていく。
「田所くん、攻撃が効かない!」
甲羅の向こう側から、焦った徹さんの声が響いた。
「徹さん! 離れて!」
俺は服の火を消しながら亀の正面に回り込み、頭が引っ込んでいる穴の中に水魔法5「渦潮」を強引に入れ込んだ。
甲羅の頭、4つ足の穴から、蒸気機関車のように水蒸気を噴き出す。
ピシ…ピシピシッ
甲羅にヒビが入り、そこから淡い光を放って熱石亀が消滅した。
レベルが上がりました
生命力40ポイント、魔力30ポイント、身体能力各8ポイント向上…
頭にアナウンスが流れる中、座り込んでいる徹さんに近づき手を伸ばした。
「大丈夫ですか? 徹さん」
「徹も航平も大丈夫ですピ?」
飛んでいたPちゃんが肩に止まる。
「ああ、助かった。大丈夫ですよ、Pさん」
徹さんが俺の手に捕まり、立ち上がる。
「今度から俺が風下にいる時、フォグガード攻撃止めてくださいよ?」
俺が苦笑いを浮かべると、徹さんが肩を軽くすくめた。
「ごめんごめん、つい使ってみたく…危ないところだったからさ。それにしても筋肉弛緩剤も催涙も強眠剤も見事に効かなかったよ…。矢は弾かれるし」
ゴソゴソと腹帯から、単1電池のようなのを2個取り出した。
「後は手りゅう弾しかない、か」
なんちゅーもん持ってんのっ!?
「いや、これはスタングレネード、閃光発音筒のように光と音で相手をパニックにさせる、私の試作品だよ。見た目は乾電池のようで、持っていても違和感がない」
いやあるでしょ? 素で単1電池持ち歩いてたら。
「…それも趣味で作ったんですか?」
「そうだよ。この凸の所の安全キャップを外して、5秒長押しで放すと10秒後に爆発を…。そういえば田所くんは、大丈夫なのかい?」
単1電池爆弾を熱心に語っていた徹さんがふと、俺を見る。
「ええ、俺は怪我ひとつ…ああっ!」
体を触って思い出す。
「俺の『ちゃんぽんジュニア』が…」
「ピィ、私のバッグが…ピ」
初代ちゃんぽんと同じように、焼き焦げてしまった。そしてPちゃんが気に入っていたバッグも。
「…さっきの亀の魔石回収して、帰りますか。田所くん」
徹さんが俺の肩をポンッと叩くと、ちゃんぽんジュニアの焦げた布切れが、ぽとりと落ちた。
読んでくれてありがとうm(_ _)m 鼻先セーフ? 願いが叶った!




