男のレベル上げは気楽にハードに
「…凄いな、徹さんは」
日本刀でビッグホーンの首を切り裂き、光り消滅していく様を見つめている徹さんを離れて見ていた俺は、思わず呟いた。ドロップ品は出なかったようだ。
「初めて航平が戦った時より落ち着いていましたピ」
肩に乗ったPちゃんも手?放しで失礼な称賛をする。
「あれは急に穴に落ちたからだろ?」
「徹なら穴にも落ちなかったですピ」
「…それは否定しない」
魔石を回収し、徹さんが駆け寄ってくる。もう忍者ですよあなた、そのシュタタ走り…。
「お疲れ様、徹さん。やりましたね」
「いや、あの『つむじ風』を発動する時の動きを見極められなかったよ。助けてくれてありがとう」
ビッグホーンが風魔法Lv2『つむじ風』で攻撃して来た時、徹さんが巻き込まれそうになったのを、同じ『つむじ風』を放って相殺していた。
まあ徹さんの身体操作なら避けられそうだけどね。
「いえいえ、さてと…もう2時過ぎです。休んで飯にしましょう」
「賛成ですピ! やっとですピ!」
空間庫から徹さんの荷物と2リットルの魔法瓶を取り出す。念のため光魔法の『シールド』テントを張り、その中で車座になって遅い昼食を取った。
「やっぱおにぎりはシャケが鉄板だな」
「この木屑みたいな物も美味しいですピ」
「それはおかかですよ、Pさん」
海苔の巻かれたしっとりおにぎり、ニンニクの利いた塩唐揚げ、キュウリの豆板醤和え、だし巻き卵、アスパラの肉巻き。デミグラスソースがたっぷりの一口ハンバーグ。男が大好きな肉肉しい弁当だ。
わざわざ冷たく食べられるよう、凍らせてくれたんだろう。食後のパイナップルがアイスのように、シャクシャクと口の中を幸せに冷やしてくれる。三好さんの心遣いが泣けるぜ。
「田所くんのアイテムボックス…空間庫は時間停止機能もついているんだね」
まだ凍っているパイナップルを、徹さんが美味しそうにつまむ。この6時間で「田所さん」から「田所くん」に変わったのが、小さいながら距離の縮まりを感じるね。
「ええ、便利ですよ。野菜の保存とか」
「私が2番目に欲しいスキルだよ、それ」
Lv7 千駄木徹(センダギトオル) 26才
種族:人間
職業:特別職国家公務員(高)
生命力:214/280
魔力:30/30
体力:50
筋力:40
防御力:35
素早さ:40
幸運:64
スキル:威圧1 気配探知1 駿足2
眼調整2 身体操作3 剣技3 魅了4
注目すべきは『状態:左足首に古傷有り 素早さ低下中』がきれいさっぱり無くなり、素早さが40となっていることだった。これはレベル5になった時、徹さんが気づいて教えてくれていた。
「徹さん、強くなりましたね」
鑑定の許可は取っていた。初めて話した時、どうやって取れるのか、両肩を掴まれぐわんぐわん揺さぶられた。なんでも一番欲しいスキルらしい。千駄木オヤジが持っていることを言うと、妙に納得していた。
「はは、ありがとう。幼い頃から剣術を習っていたからね…。でもまさかあの傷の痛みが無くなるなんて、思ってもなかったよ。凄く動くのが楽なんだ」
「ピ、レベルが上がって身体強化されたからですピ」
初めに6階に転移し、トリッキースネークや、同じく肉食系の、噛まれると毒化するデカいムカデを俺がまずは倒し、弱点を教えると徹さんが後は倒していった。
毒を2回食らったが、毒消し剤と小回復で事なきを得ていた。まあ食らったことよりも、毒と毒消し剤に興味津々で、俺をドン引きさせましたけどね。
魔力が移譲されレベルは上がるが、元々のスキルも高かったのもあって、動きも速かった。
「ピ、徹はレベル1の段階でも、すでに剣士レベル10くらいはあるスキルですピ」
「努力してきた人間の底力だな」
地下7階の沼地、8階の水晶、9階の死の土地…もちろん危なくなったり、数が多ければ俺も加勢したが、ほぼ俺のほうが魔力移譲のお裾分けしてもらっているようなものだった。
「でも『見るように心掛けろ』と、7階の沼地でLEDライトを泥の中に落とされた時は、一瞬殺意を覚えたけどね。でもお陰で眼調整スキルが取れた」
眩しそうに俺を見る。ほう、なるほど。
「ピ、あれはただ――」
「よし! じゃあそろそろ行きますか。次の11階は寒いから、あまり長居はできないけど」
俺はPちゃんのくちばしを摘みながら抱き上げ、バッグに入れ込んだ。
(ピピ、うっかり落としたことを黙っていてほしかったら、チョコレートブラウニーをよこすんだピ)
(…分かったよ。後で徹さんにくれるか聞くから)
Pちゃんが脅してくる…。そんなセリフみたいなのをどこで覚えて…、ミステリー本か!?
「どうですか? 行けそうです?」
地下11階、できればここを抜けて12階に行きたかった。せっかく魔力丸を使ったのだから、初めての階には行っておきたい。
「少し薄暗いけど、見える。随分寒いね」
「この階には宝箱があったんですよ。もう開けてしまったんで、今度いつ出るか分かりませんけど」
「へえ、宝箱か。良いね!」
白い息を吐きながら、徹さんが左腕を抱くように縮まる。思った以上に絶対防御がないのは、環境適応が難しそうだ。
「大丈夫ですか? 無理しないで戻ってもー」
「うん、大丈夫そうだ。今ヒーターを作動させたから」
「ヒーター?」
「この黒装束、左右の脇にスイッチがあるんだよ。寒さには電熱ヒーター、暑さには気化熱を利用したクーラーを仕込んでいるんだ…まあこれも試作品だけどね」
徹さんが自分の体を触りながら、ちょっと電熱が…暖まり方にムラが…とブツブツ言っている。
…いいさ、俺には絶対防御があるから…。
くっ! 俺の『ちゃんぽんジュニア』にも付けてくれ!
…早く次の階に行こ。
なんだか色々負けたような気がして、ため息混じりに空間把握と気配探知を放つ。
集中している俺の腕を徹さんが引いた。
「今魔物の気配を――」
「…田所くん。あれは何かな?」
徹さんが指差した方を見ると、4本脚でカニのように移動する、白い石の箱がいた。
気配探知にも、同じ所を白い気配がゆっくり移動しているのが見える。
「…あれは、脚のある、宝箱です」
宝箱がシャカシャカと氷面を鳴らしながら、呆然とする俺たちの前を通り過ぎていった。
読んでくれてありがとうm(_ _)m仕事がたまってもうたー(ㆀ˘・з・˘) だけどもだけどもだけど、そんなの関係ねえーくはねえ(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)




