金って大事
もうダンジョンに入らないといけないよ? 航平。
朝食を食べ終え、皿を洗っていると、後ろから
「ハムエッグもトーストも、このオレンジジュースも美味しかったですピ」
と満足そうな声が聞こえた。
「この世界には美味しいものが、ごまんとあるぞ」
手を拭きながら戻ると、オレンジジュースを入れたペットボトルの蓋はすでに空っぽだった。
「ピピ」
キラッとつぶらな瞳が光った気が…。
俺はペットボトルの蓋を片付け、テーブルを軽く拭いた。
「じゃあそろそろ、ダンジョン入るか」
俺はガラステーブルを持ち上げ、肩に脚を引っ掛けた。ガラスの鎧を装着しなければ。
「…航平、それは要らないですピ。逆に動きにくいですピ」
「そうかな。でも身を守るものは欲しいな」
俺がまだ固定していないガラスの鎧をペタペタ触った。
安心感が欲しい。
「航平には絶対防御1のスキルと、眼調整10がありますピ。攻撃を受ける瞬間、体全体が革の鎧くらいの硬さになるのと、新幹線の速さが、幼稚園児のこぐ三輪車程度に見えるスキルですピ」
なんだってえ!? これは俺でも聞いたことある、いわゆるチートというやつじゃないか?
「すごいなっ。怪我しないだろ、それなら」
俺がいそいそとテーブルを戻していると、
「三輪車を避けるにも、筋力や反射神経が伴わないとぶつかりますけど…ピ」
Pちゃんがぼそっと呟いた。
「はい?」
「とりあえず先に賢者の家のスキルと、ランダムスキル2つ、選択スキル1つを取得したほうがいいですピ」
聞き返すとPちゃんが羽をパタパタしながら、急かすように言った。
ああ、そうか。まだ持ってるだけで利用していない状態だったっけ。
「で、どうすればいい?」
賢者の家を取得しますか?
「うおっ」
頭の中にまた声が流れる。これはなかなか慣れないね。
俺は気を取り直して、はいと答えた。
ユニークスキル「賢者の家」を取得しました
「え、もう?」
簡単だな…。体も痛くならない。
「で、これはいったいなんだ?」
賢者の家 一定範囲をパーソナルスペース化(範囲はレベルに依存)
「なるほど、賢者の家は聖域を作り出すスキルのようですピ。魔物はもちろん、航平の許可が無ければ誰も入れないし見えませんピ」
「おお! めっちゃ良いな!」
これは完全な引きこもりスキルだ。良いの貰った!
「後はランダム2回、選択1回か」
ランダムスキルを取得しますか?
出た。
「はい」
と、つい声に出してしまう。
ランダムスキル1回目
隠密5
ランダムスキル2回目
罠解除6
取得しました
選択スキルを取得しますか?
はい。今度は心の中で言ったぞ。
選択スキルを選んでください
剣技1 槍技1 斧技1 弓技1 棍技1
「うーん、今は包丁しか武器ないし…包丁って剣技?」
剣技1を取得しました
「あ、ああ…。まあいっか」
何かよく分からないが剣の扱いが少し上手くなるんだろう。剣道もしたことないけどね…。
俺が不安そうな顔をしたからか、Pちゃんが
「隠密5に罠解除6、それぞれ盗賊のレベル60ぐらいのスキルですピ。航平の幸運200が影響しているのかも知れませんピ。他のスキルもすごいのばかりですピ。特に魔法の全適性は全ての魔法が使えますピ」
と、誉めてくれた。
Pちゃん良い奴。でも…。
「でもさ、俺さっきファイアボールできなかったぞ?」
「まず魔法オーブを取得しなければいけませんピ。宝箱や魔法を使う魔物がたまにドロップし、それぞれ火、水、雷、風、土、光、闇がありますピ」
なるほど。だからステータス上、まだ覚えていません、だったのか。
にしても宝箱! 魔法! わくわくするな。
「じゃあ、オーブを取りに行こうかっ」
俺はスウェットの上下に、コッペパンのような形の、茶色い斜め掛けバッグを装着する。上部のチャックを開け、Pちゃんを入れる。
「あ、そうだ」
ビニール袋にゴールドスライム汁ティッシュを入れ、バッグに仕舞う。
「あと水と、チョコレートとか持っていったほうが良いな。入らないか」
そうなるともっと大きいバッグ…。
「航平、空間庫10を持っているでしょうピ」
バッグから顔を出し、呆れたようにPちゃんが言う。
「あぁ、あるな。10上限ってある」
「スキルの上限は10でMAXですピ。レベルに依存は、その限りではないのですが。空間庫はこちらで分かりやすく言うとアイテムボックスですピ。しかも10なので、容量制限無し、時間停止付きですピ」
「へえ、それは便利だな…収納」
Pちゃんに手のひらを向ける。…何も起きない…
「生き物は入りませんピ」
Pちゃん生もの?
「そうか、生き物入ったら片っぱしから魔物収納しようと思ったんだけど。あははー」
「……」
Pちゃんのつぶらな瞳が今は怖い。
俺は気を取り直して、水の入ったペットボトル1本と板チョコをテーブルの上に置くと、手のひらを向け収納と呟いた。
ペットボトルと板チョコが、シュンッとワープのように消えると同時に、
水500ccペットボトル 1
板チョコレート 1
と脳内に浮かぶ。今度は2つをテーブルの上に置くイメージをすると、テーブルの上にシュンッと戻ってきた。
「すげ…。この空間庫と賢者の家で、生きていけるぞ、これ」
目標が決まった。世界が滅亡する前に、食糧と水をありったけ空間庫に入れて、賢者の家のスペースに家を建てて住む。離婚したギャンブル親父は論外だが、母さんと妹の美波だけは呼ぼう。そのためには金が必要だ。買いたい物を買えるだけ買える財力。俺の預金残高12万じゃ到底足りない。
俺はそんなことを考えつつ、ゴールドスライムのティッシュをバッグから取り出し、3つをまた空間庫に入れた。
水500ccペットボトル 1
板チョコレート 1
ゴールドスライム原液1cc(ティッシュ) 1
「よしっ。じゃあ行きますか」
ベッドをずらし、包丁を握りしめると、土の階段を降りていった。
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