人はそう変わらない
「ご馳走さまでした」
「ご馳走さまですピ」
ご飯と海苔、味噌汁、だし巻き卵で、軽く朝食を取り、スウェット上下のパジャマから、茶色の長袖トレーナーとジーンズに着替える。
昨日は精神的に疲れたのか、帰ってすぐ寝てしまった。
…千駄木オヤジのせいだな。
「ピ、航平、澤井がくれたのは?」
「ほら、呼び捨てにしない。ダンジョンで食べようと思ってしまってあるよ」
昨日、家まで送ってくれた澤井さんが、車を降りる時に紙袋をくれた。
中には市販の食パンひと袋分ありそうなサンドウィッチの塊が、綺麗なペーパーに包まれて入っていた。「明日の朝食にどうぞ」と丁寧な字でメモが添えられている心遣い。
もしかしたら、千駄木オヤジに話しちゃってゴメンな? ということかもしれない。
「お昼が楽しみですピ!」
最近Pちゃんの食い意地が半端ない。いったいどれくらいのエネルギー砲を撃つ気なんだろうか…。
俺がブルっと身震いをし、食器をシンクに運んでいると、Pちゃんが肩に止まってきた。
「そうですピ、航平。昨日はなぜ『魔石』を『真石。真(しん)の力の石』と言ったのですピ?」
「ん? ああ、徹さんは現実主義者だからな。魔力の結晶なんてファンタジー過ぎて受け付けないと思ってさ。真の力の石といえば、なんとなく勝手に想像してくれるだろ? パワーストーンなんて言葉があるくらいだしね」
キュッキュと食器をスポンジで洗う。
パワーストーン、これは下地だ。見識の広そうな徹さんの事だ、信じる信じないは別として、聞いたことくらいはあるだろうと踏んだ。
まあ俺は先輩から教えてもらったけどね。
「ぶっちゃけ魔石であることが分かるのは、ダンジョンが出現してからでもいいんだ。『ませき』、同じ響きで表記が魔石になっても混乱はしないだろうし」
洗剤を洗い流しながら、水切りラックに皿と茶碗を並べていく。
「ピ、航平にしてはちゃんと考えていますピ」
失敬な。
「…とにかくだ、魔石を調べてもらって、なんだこれ? ってなるだろ? そこに、この石はこうすると膨大なエネルギーを放出しますよ? って教えれば良い」
キュッ。水を止め、濡れた手をタオルで拭く。
「よし、洗い物終わり。ダンジョンに行くか」
「ピ!」
Pちゃんが片方の羽を上げ、穴の空いたバッグに入った。
先輩は昨日の今日で、徹さんや千駄木オヤジからの外出許可が降りず、来られない。美波も来ないし、二人だけでダンジョンに潜る予定だ。
「ピ、航平、今日はどの階層に行きますピ?」
バッグの穴から顔を覗かせる。
ふふふ、よくぞ聞いてくれた。
「Pちゃん、俺の格好を見てくれ」
俺は着ていた茶色のトレーナーの裾を引っ張った。左胸には紺色のロゴで「chanpon」と入っている。
「ちゃんぽんジュニアだ。昨日買い物に行った時、ワゴンセールで見つけたんだ。Pちゃんも覚えていたほうが良い。今の時期に服を買うなら、秋冬物がアツい! あ、アツいは安いって意味ね?」
俺の幸運200MAXがまた仕事をしてくれた。最後の1枚を、俺は勝ち取ったのだ。
「11階の氷穴ダンジョンには、魔力丸で行きますピ?」
ガン無視された。
「い、いや、魔力丸が後4つだから、レベル上げのためにも瞬間移動を使おうかと」
「いい心がけですピ」
「…はい」
俺はいそいそとベッドを手前に引き、土階段を降りていった。
「ちゃんぽんジュニアを着てきて正解だな。この前より随分マシだ。Pちゃんは寒くないんだろ?」
白い息が出る。
「私の体は寒さ暑さは全く問題はありませんピ。唯一お風呂は問題大ありですピ」
バッグの穴からくちばしを出して言う。
地下11階、美波を探していた時通り抜けた、氷の洞窟だ。天井からの氷柱、氷の岩、地面は氷が厚く張っていた。
ピシッ…ミシミシッ …ドゴンッ
どこかで氷柱が落ちたようだった。
Lv24 生命力1452/1640 魔力570/970
ここまで来るのに約17分。途中瞬間移動4になり、1秒で生命力3ポイント消費になっていた。ただ中回復を合計20回かけて回復しても、光魔法は5には上がらなかった。
ふうーっと白い息を吐き、空間把握と気配探知を放つ。
「うん、広さ的には5階の洞窟と同じだ。魔物の気配も近くにはない」
「ピ、航平、中には気配探知6では捉えられない魔物もいますピ。用心したほうが良いですピ」
「大丈夫だよ、かなり探知系は精度が上がってるんだからさ」
ググッとスニーカーで氷面を捉えながら歩く。氷に足を取られることもない。ヒョイっと氷の岩を片手を着きつつ乗り越える。身体操作も移動中に6に上がっていた。
「しかも捜索3が加わって、気配に色が付いたんだよ」
美波の気配が金色になっていたのと同じように、魔物は赤、階段は青、そして白色の点。
まだ探知に鑑定は乗せられないが、俺には確信があった。
「聞いて驚けPちゃん。この氷穴ダンジョンには、宝箱がある。なんと2つもだ!」
この白い点。なんにでも染まりますよ? だから早く見つけて、と言っているようにしか思えない。
「この先に、1個目があるはずなんだ」
直線距離にして、300メートルくらいだろうか。
気持ちがはやる。気づけば滑るように氷の上を走っていた。今までの手に入れたタグ箱と、倒したミミックが遠くへ消えていく。
「あの岩の向こうだ」
氷の岩をひらりと飛び越えた。
「ピ! 航平!!」
「あれ?」
着地しようとした氷の岩の下には、氷面はなく、クレバスのような深い亀裂を作っていた。
「マジで!?」
とっさに両手両足を開き氷の裂け目に突っ張った。真っ逆さまに落ちるのをなんとか回避する。
「アブなっ!」
「ピ! 航平! 10階に落ちた時と同じですピ!」
Pちゃんがバッグの穴から顔を出す。なんか顔が細くなってる…。
「ごめん、つい」
「とにかく上がるですピ」
「あ、ああ…。Pちゃんもバッグに戻りな」
「ピ…」
ムギュっと中に戻ろうとするも入れず、ならばと外に出ようとするも出られない。
「ピ、航平、どうやら、はまったようですピ」
バッグの内と外で、ひょうたんのような姿になったPちゃんが、真剣な眼差しを向ける。
やめてくれ…。耐えろ、耐えるんだ、俺!
「…ムホッ」
一瞬の気の緩みは手足の緩み。突っ張っていた手足が滑った。
ヤバいっ
「ピ!?」
いやああああー…
ピィィィー…
俺たちは氷の隙間を滑り落ちていった。
読んでくれてありがとうm(_ _)m感謝無敵素敵。 誤字報告ありがとうございます。自分の書き方が悪くて混乱させちゃってごめんm(__)mありがとうございました。




