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2回戦目結果


(ピ! 航平! それも下さいピ!)


(分かったから、絶対見られるなよ?)


 俺は瞬間移動並みの素早さで、バッグの500円玉サイズの穴ヘ、フォークに刺した一口サイズの牛肉を入れ込む。


「いやあ、薫がこんなに元気になるとは! 覚えにくい名前だが、確かこうたくんと言ったかな? 本当にありがとう」


 さっきまで日本刀を振り回していたおじさんが、ニコニコして俺を見る。


 先輩とリビングへ降りると、そのまま夕食を一緒にと徹さんから誘われた。魔石の件もあったが、Pちゃんが何より乗り気で、煩いくらいに食べたいと伝えてきた。


 そして今俺は、せっせとバッグの中にいるPちゃんに、食事を運んでいるわけだが…。


 うーん、名前はおじさんに教えたばかりなのに…。これはもう故意犯だろ。


 おじさん…もう千駄木オヤジと呼んでやる。


 千駄木オヤジはにこやかに話しているが、俺は騙されない。初めて会った時より殺気を帯びているのを感じるし。


「いえいえ、俺は何も。ちなみに名前は航平です。でもお父さんは日本刀を振り回すほど心配なさっていたんですもんね。さぞほっとされたでしょう」


 俺もにこやかに返す。緊張はこの千駄木オヤジの殺気を感じ、どこかにすっ飛んだ。


「航平君、なんの話だい?」


 隣で白いスープを飲んでいた先輩の手が止まる。


 そのスープはヴィシソワーズ、じゃがいものスープだ。何か分からなくて、鑑定してしまった。まあ鑑定は魔力も使わないし、どう使おうが良いのだ。人はさすがにためらうが。


「航平くん、何を言っているんだ。そんなことするわけ無いだろう?」


 にこやかに威圧も放ってくるが、俺には効きませんよ?


「忘れっぽいんですか? 一度物忘れ外来に行かれたほうが」

 

「ハハハ! まだ40代だが?」


「日本刀を振り回すのが得意のようでしたので、師範クラスの70才くらいかと思いましたよ」


 ダイニングテーブルに並んだ豪勢な料理の真向かいで、千駄木オヤジがヒクヒクと顔を引きつらせる。


(これはビッグホーンの肉までとはいきませんが、なかなか…あ、航平それもピ)


 先輩や徹さんが黙っている中、Pちゃんだけは通常営業だ。


(…はいはい)



「ところで田所さん、薫と二人きりになった時、どんな治療をされたんですか? 父の言う通り、かなり薫は具合が悪そうでした。サラリーマンだというあなたが、いったいどうやって?」


 黙っていた徹さんが口を開く。


 …千駄木オヤジよりよっぽど冷静だ。


「実は…こんな物がありまして」


 俺は空間庫から出したピンポン玉大の魔石を、ポケットから取り出したように、ダイニングテーブルの上に置いた。


 よし、プレゼン開始だ。目的は、徹さんに興味を持ってもらい調べさせる事。


「これは?」


 怪訝さを隠そうともしない徹さんが俺を見る。


「これは、しんの力が閉じ込められた真石と言います」


「真の力? ませき? ですか?」


「そうです、この真石を使って先輩を治しました」

 

 徹さんが更に眉間にシワを寄せた。先輩が驚いたように俺を見る。


 まあそうだよね。怪しさ120パー、俺だって『この石のおかげで体調が嘘みたいに回復しました! もう手放せません!』なんてにっこり笑った広告を見たら、胡散臭さに鼻をつまむ。


 1回戦目の先輩へのプレゼンが成功したのは、まず大前提に下地があったからだ。


 伝承された神話、儀式、パワースポット…科学的に証明されているモノに興味があると言っていたが、そこには何か、人間の考えも及ばない、大きな力が存在するのではないかという、微かな下地。


 でもきっと徹さんは現実主義者なのだろう。リアリストにはそれ用のプレゼンをしなくちゃね。それこそ先輩が言っていた、魔法を見てもインチキだと思われる、だ。


「田所さん、すまない。言っている意味が分からないな」


「まあそうですよね。俺がここで真石を使って、例えば徹さんの左足首を治しても信じてもらえないでしょう」

 

 俺が肩をすくめると、徹さんより先に先輩が反応した。


「何を言っているんだ航平君! 兄さんの足はもう治っているはずだぞ…でもなんでそのことを知っている?」


 今度は先輩の言葉に徹さんが驚く。


「薫が話したんじゃないのか?」


「話してない。だってもう昔のことだし、治っているんだろう?」


「正確には治っているけど、まだ時々痛むはずです」


「…どうして分かる?」


 今度は千駄木オヤジが、さっきとは比べ物にならない威圧をかけてきた。


「それは――」



 Lv1 千駄木徹(センダギトオル) 26才

 種族:人間

 職業:特別職国家公務員(高)

 生命力140/140

 魔力:ー

 体力:12

 筋力:12

 防御力:13

 素早さ:7

 幸運:65


 スキル:眼調整1 身体操作2 剣技2 魅了4


 状態:左足首古傷有り 素早さ低下中



 なんとなく(高)人間の予感はしていたので驚くことはない。剣技もまあ分かる。驚くべきは魅了のレベルだ。


 徹さんは天性のジゴロだ…。 


 これは男女関係なく、耐性が無ければメロメロになる。


 なんて羨ましい…。


「それは歩き方です。微かに左足を庇って、体幹の軸がブレてたもので」


 実はステータスを見なくても、それは分かっていた。じゃあなぜ見たかというと、絶対魅了持ちだと思ってレベルが知りたかっただけです! すみません!


「そうか、そこまで眼が良いか。どこの流派だ?」


 千駄木オヤジが軽く息を吐く。


「別にどこにも所属してません」


「無所属か、言いたくないだけか。で、その真石で薫を治したと? ちょっと見せてみろ」


 千駄木オヤジが手を伸ばし、魔石を掴むとシャンデリアに照らしながらジッと見つめた。


「ガラスのようだが、違うな。石でもない…なんだこれは」


 ちょっと千駄木オヤジ、今は徹さんにプレゼン中だって!


「…どうですか? 父さん」


 徹さんが真顔で千駄木オヤジを見る。


 いやだから、徹さんに…。


「…面白いな。徹、ちょっと調べてみろ。何か面白いことが分かるかもしれん」


 そう言って、千駄木オヤジが徹さんに魔石を渡した。


「ただし内密に、だ」


 人差し指を口に近づけてから、目の前に置かれたワイングラスを一気にあおった。


「…分かりました。田所さん、この真石をお借りしても良いですか? 組成など調べてみても?」


「え? はいどうぞ…」


「やったな! 航平君!」


 先輩がキラキラ眼で言う。 


 あれ?


「科学組成になるとちょっと削るかもしれませんが、よろしいですか?」


「削れるなら、構いません」


 おや?


 これは『徹さんに興味を持たせ調べさせる』目的をいつの間にか達成してる?


「あの…自分で言うのもなんですが、胡散臭くありません?」


「ええ。でも調べれば分かることですし。何より父さんが興味を持った物なので、ね」


 どうやら鶴の一声ならぬオヤジの一声だったらしい。


 千駄木家を牛耳っているな? さては暴君か!?



 Lv1 千駄木一(センダギハジメ) 52才

 種族:人間

 職業:勝負師(高)

 生命力:160/160

 魔力:ー

 体力:19

 筋力:15

 防御力:16

 素早さ:16

 幸運:99


 スキル:身体操作3 剣技3 威圧4

 眼調整2 魅了2 鑑定2



 あ、年齢サバ読んだね? って幸運値高いなっ! ほぼ100じゃないか!


 そして最後の項目を見て、俺は絶句した。



 な…なんなんだ、このオヤジは…鑑定を持ってるぞ!?


(Pちゃん…鑑定2だと、どこまで分かる?)


 いつの間にか俺の前に置かれた皿から、料理をあらかた食べ尽くしたPちゃんに問いかける。


(ピ、ダンジョンでレベルを上げてないので、航平みたいに説明は出ませんピ。いわゆる『感じる』というものですピ。またその感覚を信じるかどうかは、自分次第ですピ)


 …だから職業社長じゃなく、勝負師か。


(なるほど。確かな感覚を信じて、そこに幸運が加わると、こんな豪邸に住めるのね…)


 おかしいな、俺は全ての要素が揃っているのに。魔石を売ることしか考えられない。


(航平は魅了スキルが足りないです、ピ)


 そこ関係なくない!?


 こうしてプレゼン第2回戦目は、俺の心の叫びを残して、幕を閉じたのだった。


 




読んでくれてありがとうm(_ _)m 長い付き合いになっていきそうだろ? 頑張れ! 

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― 新着の感想 ―
[一言] 親父殿良いキャラしてはるw しかし26歳の息子より色々ステ高いのは流石日本刀振り回すだけのことはあるw
[一言] 美波(とお前さん)とは長い付き合いになりそうだ。 特に美波とは。付き合いたい。民法734条ぬっころす
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