2回戦目突入前
俺は今、だだっ広いリビングの、黒い革張りのソファーのど真ん中に座っている。
間に重厚なテーブルを挟んで、先輩のお父さんと徹さんが考え込むように座っていた。
「…確かに田所さんが言われたように、薫がお弁当を頼み出したのも、田所さんの家に行って、帰りが遅くなったのも、ここ1週間の話です」
澤井さん、この二人に俺のことを話してましたね?
二人の後ろに立っていた澤井さんを見ると、慌てて顔をそむけた。
「つわりかと思ったが、時期を考えても現実的ではない、か」
腕組みしたおじさんが、うーんと唸る。落ち着いていれば、先輩のお父さんもかなり渋めのイケメンオヤジだった。
日本刀を持ち出す前に気付いてくれ…。
「まあ、そういうことです。ところで先輩は?」
「二階の部屋で休んでいます。一緒に来ていただけますか」
徹さんが立ち上がる。俺もバッグを持ったままその後に続いた。
外見は日本家屋だが、内装は和風と洋風のいいとこ取りのような家だ。
豪華な絨毯が敷かれた長い廊下の壁には絵画が掛けられ、洒落た小さな机の上には、ガラスのランプが飾られている。
(ピ、この絨毯はペルシャ絨毯、絵画はクリムト、マネ、あのランプはガレですピ)
(ほお…さすが叡智P。俺にはさっぱり分からん)
(この廊下だけで、航平の150年分の年収に相当しますピ)
(…そんなに働きたくないな)
「田所さん」
前を歩いていた徹さんが振り向いた。
「田所さん、先程は申し訳ありませんでした。食事もとれず、起きられない薫を見て、父は亡くなった母を思い出してしまったのでしょう。病院も拒否し、田所さんを呼んでくれとしか言わない薫を見て、妊娠したと勘違いし、あんなことに。私も同じ勘違いを…」
と、頭を下げてきた。だから先輩の母親を見かけなかったのか。
「俺は気にしてないので、頭を上げてください」
それほど先輩を大切に想っているということだ。その気持ちはよく分かる。
俺が慌てて手を振ると、ありがとうと、徹さんが微笑んだ。誰でも見惚れてしまうような笑顔だった。
「この部屋です」
徹さんが大きく頑丈そうなドアをノックする。
「薫、田所さんが来てくれた。入るぞ」
返事も待たず扉を開くと、俺の家より3倍は広い部屋のバカでかいベッドに、横になっている先輩が見えた。
「…航平君、わざわざすまないな…」
起き上がろうとするが、力が入らないようだった。
「先輩そのままで。すみません、少しの間、先輩と二人きりにしていただけませんか?」
「…分かりました」
徹さんは一瞬心配そうな顔したが、素直に部屋を出ていった。
「先輩、遅れてすみません。すぐ楽になりますから」
俺は先輩に近寄り、血の気のない青味がかった額に、手を当てる。汗のせいか、ひんやり冷たかった。
「ピ! 薫、これは魔力が無くなると起こる、魔力酔いですピ。今航平が治しますピ」
Pちゃんがバッグからベッドの上に飛び出してきた。
「ああ、P様まで…ありがとうございます」
Pちゃんに教えられたように、額に当てた手から、先輩の魔力の『型』を分析する。そこから自分の魔力をその型に、寄せた。
…やっぱり完全一致は難しいな。
こっちを合わせようとすると、合っていたほうが引っ張られ、合わなくなるような感じだ。
(ピ、航平、8割くらい合えば良いですピ)
(分かってるけど…なかなか)
いきなり俺の魔力を分けても弾かれ、それでも強引に押し込むと、入れられたほうは拒絶反応が出るらしい。反応は様々らしいが、魔力酔いより更に状態が悪くなると言う。
水魔法に光魔法を練り込めば、誰にでも合う魔力になるらしいが、まだ光魔法4の俺にはできない。今できるのは、魔力を1ポイント回復する光魔法3の酔い止め魔法だけだ。
でもダンジョン内なら1ポイント使用で済むが、外だと魔力100使って1ポイント…薄い外気に拡散してしまう。実にもったいない。
なんとか8割、先輩の魔力に寄せられた。
「酔い止め」
額に当てた手が強い光を放つ。
先輩の顔色がみるみる良くなっていった。
「…ああ、凄いな。楽になった。もう気持ち悪くない」
Lv10 千駄木薫(センダギカオル) 25才
種族:人間
職業:キャリアウーマン(高)
生命力:210/210
魔力:1/55
体力:58
筋力:40
防御力:53
素早さ:55
幸運:64
魔法:雷魔法1
スキル:駿足1 気配探知1 恐怖耐性1
身体操作2 眼調整2 隠密2 地獄耳2
威圧2 薙刀術2
先輩の魔力が1ポイント回復し、
Lv24 生命力1640/1640 魔力805/970
俺の魔力はきっちり100減っていた。
(はあ、良かった、上手くいって。ぶっつけ本番は恐ろしいな…)
(魔法をもっと使っていけば、慣れていきますピ)
「航平君、本当にすまない。助かったよ」
ベッドから起き上がり、黄色いヒヨコ柄のパジャマを着た先輩が頭を下げる。
なかなか良いパジャマだ。
「でも先輩、なんで魔力切れに? 徹さんの前で雷魔法使ったんですか?」
「いや、兄さんに見せる前に復習をしていたんだが『スタンガン』を55回使ったら気持ち悪くなって倒れた」
真面目かっ
「…先輩、それは復習ではなく訓練です」
「ピ! 航平も見習うと良いですピ。湿った洗濯物を魔法で乾かさないのは、私の寝床タオルが湿っているということですピ」
「俺は節約してるだけだ」
「クククッ、相変わらず仲が良い。フゴッ」
ベッドの上で先輩が鼻を鳴らす。
「じゃあ先輩が治ったところで、下にいるおじさんと徹さんを安心させてあげてください」
俺が苦笑いを浮かべると、先輩が、ああと頷いた。
「あ、そうだ。徹さんは防衛庁の背広組でしょ? 先輩のお父さん、何者です? 威圧スキル持ってますよ?」
「ああ、父は不動産や株、IT産業と手広くやっていて、その一部で武闘家たちを支援しているからな。威圧を持っていてもおかしくはない」
先輩がカーディガンを羽織りながら肩をすくめる。
「武闘家は様々な流派があるが、武を極めたいと思っている人ほど、結構生活は大変らしい。もっと修行がしたいと思っても生活費は稼がないといけないからな。そこに父が援助して、流派も途切れないよう色々やっているみたいだ。よく眼光鋭い御仁が家に来る。玄関扉に100キロの重りがついているんだが、なん時も修行という父の考えだ」
「…お父さんも武術を?」
さぞや名のある…。
「剣術は修得しているが、ほぼ趣味だな。父は武闘家ではなく、生粋の勝負師だ。勘が恐ろしく良い」
先輩が妊娠したって勘違いしてましたけど?
まあとにかく、徹さんに魔石の可能性を知ってもらって、空間庫に貯まる一方の魔石を買い取ってもらわないと始まらない。
「そうだ航平君、二人が魔石を信じなかったら、航平君が魔法を使って説得してくれよ?」
「え?」
「ボクがまた魔力酔いをして、航平君が魔法で回復してくれても、同じことだろう?」
部屋の扉を開けながら、先輩がにっこり笑う。
た、確かに!?
「さあ行こう、航平君! 二人を驚愕させ、魔石が欲しいと泣いて懇願させよう! ククククッ! フゴッ」
徹さんだけじゃなく、お父さんもいつの間にか入ってるしっ。
今度は徹さんとおじさん、二人にプレゼンか…。
うっ…やばい…緊張が…
「ピ、航平! これは有民を味方にする、またとないチャンスですピ!」
Pちゃんのダメ押しが、俺の背中を、出していいよ? とさすった。
ちょっと吐いたモノが、先輩の部屋の床に到達する前に、空間庫にしまえたのは神業と言っていいだろう。
「ピ…航平」
「…何も言ってくれるな」
後でトイレに行って流そうと思う。
読んでくれてありがとうm(_ _)m感謝のスライディング




