美波の匂い
「航平! 美波が強制転移されましたピ!」
「分かってる!」
美波を飛ばしたテレポはすでに土の中へ戻っていた。
「美波ー!! どこだあああ!!」
落ち着け! こんな時こそ落ち着くんだ! 俺は深呼吸をひとつ、ふたつ、みっつ……
「Pちゃんどうしよっ!!」
全然落ち着かなかった!
「航平、ここのダンジョンは20階までありますピ。テレポの強制転移は無作為…どこに飛ばされたか分かりませんピ。しかも火山帯ダンジョン、死の土地、氷、…眼調整スキルや絶対防御が無い美波には、過酷ですピ」
…止めてくれ。そんな恐ろしいことは、映画やミステリー本の中だけでいい。
「ピ、転移先は分かりませんが、ただー」
美波無事でいてくれ!
Pちゃんの言葉は耳に入らなかった。
俺はもう一度深呼吸をすると、気配探知と空間把握を濃密に放った。音も必要だ。色も美波だけ違う色で把握、探知を…捜索して…。
気配探知が6に向上しました
空間把握が6に向上しました
スキル捜索1を取得しました
捜索が2に向上しました
捜索が3に向上しました
スキル地獄耳1を取得しました
地獄耳が2に向上しました
「ピー! 航平! 血が…」
鼻からポタポタと草地に落ちる血を見つめたまま探知、把握、捜索を続ける。
いない…この階には、美波はいない。
俺は鼻血を拭うと階を移動するため走った。
「ピ。ただ気になることが…航平どこにい――…」
バッグの中のPちゃんの声が聞こえなくなった。
瞬間移動が2に向上しました
美波に合わせたとはいえ、2時間かかった階段までの距離を、2分足らずで移動していた。
「ライフ」
Lv24 生命力:390/1640 魔力970/970
生命力を瞬時に確認する。
「中回復」
中回復を6回連続で掛ける。大回復はまだ使えない。
Lv24 生命力1598/1640 魔力790/970
俺は階段を下っていった。
地下11階、そこは氷の世界、氷の洞窟だった。
「11階は氷穴ダンジョンですピ」
青い明かりの中、氷の柱、天井から下がるつららが鋭く尖り、来る者を拒んでいるかのようだった。白い息を吐きながら、気配探知、空間把握、捜索を放つ。
「ピィ。航平…闇雲に探しても…聞いてくださいピ。航平、美波が」
「分かってる。でも魔力丸じゃ今まで行った階しか行けない。20階まで美波を探しながら降りる。居なかったら9階へ転移して、上へ上がっていくつもりだ」
もしこの氷穴に転移していたら、寒さでうずくまっているかもしれない。
絶対防御4の俺ですら寒いんだ。
もしこの階に…こんなに寒く氷の軋む音しかしない世界に、美波が助けを求めて泣いているかと思うだけで、胸が苦しくなる。
念入りに捜索するが、伝わる反応の中に、美波はいなかった。多数の魔物と下に降りる階段を掴んだ。
「ここにもいない…行くぞ」
「ピ、航平聞いてくださいピ。美波が最後に――…」
Pちゃんの声が聞こえなくなる。瞬間移動し氷の岩場を通り抜けていく。氷の上でバランスが取りにくい。
途中何かに掴まれかけたが、構わず移動し続けた。
瞬間移動が3に向上しました
身体操作が5に向上しました
「ライフ」
Lv24 生命力132/1640 魔力828/970
階段まで3分ほどかかったが、生命力はなんとかもった。途中で瞬間移動3に向上していなかったら危なかった。
「航平!! こんな瞬間移動の使い方では死にますピ!」
Pちゃんがバッグから出て俺の肩に止まると、思いっ切り頬を突いてきた。
「イテッ! いででっ! Pちゃん耳は引っ張らないでっ」
「冷静になるピ! まず生命力の回復ピ!」
「はい!」
Pちゃんの剣幕に押され、中回復を7回掛ける。
「…ピ、航平、聞いてくださいピ。このまま瞬間移動を続けても、20階までは時間が掛かりますピ」
Pちゃんがため息をつくように、耳元で静かに話す。
「…でもこの方法しか」
「航平、10階で美波が強制転移された時、なんて言ったか覚えてますピ?」
「そんなの何も…」
あの時美波は、遠くからでも見たいと言って、先に駆け出し、足元に現れたテレポをモグラと言った。
そして俺の方を振り向き6階の…。
「…6階のテレ…ポか」
Pちゃんが頷く。
「強制転移は相手が願った階に飛ばすこともありますピ。確率は高いとは言えませんが、航平の幸運200が美波の行き先を知らせてくれたかもですピ」
…もしかしたら地下12階に、その下の13階、14階にいるかもしれない。ここで6階に引返せば美波が更に危険になるだろう。
でも、初めてか…。
「Pちゃん、俺の幸運200MAXを初めて信用してくれたな」
俺は魔力丸を取り出し、6階へ飛んだ。
つむった目に光が、地獄耳に鳥のさえずりが聴こえる。
…ここに居なかったら、瞬間移動を倒れるまで使う。ゴールドスライムの原液を使って回復しながらでも。
必ず見つけるから、生きててくれ、美波!
覚悟を決め、気配探知と空間把握、捜索を放つ。立体波紋が急速に広がり平面、空、地下を網羅していく。
数々の魔物の気配がある中のひとつ、今まで無かった、金色に輝く気配があった。
それもすぐ目の前に。
「あー!! こう兄! ピヨちゃん! 待ってたよお」
目の前の茂みから、美波がひょっこり現れた。
え? こんな簡単に…登場する?
返事もできず座り込んだ俺に、元気そうな美波が近づいてきて、遠慮がちに肩を叩く。
「もしもーし? …あれ? こう兄、なんか鼻の下汚いよ?」
…鼻血です。頑張ったら鼻血噴きました。
「…美波、大丈夫だったのか? 怪我とか、魔物に襲われたとかは?」
「ん? ヘヘ、魔物一匹倒したよ! キラキラボールとカッター、それと手斧で」
「美波が倒したのか?」
「うん! 最初可愛いうさちゃんかと思ったら、違ってさ。もう許せないヤツだったよ」
ん?
「キラキラ魔法はあまり効かなかったけど、カッターが目に当たってね。手斧を何度も打ち付けたら光って消えたよ。ほら見て」
ポケットから魔石を取り出した。
トリッキースネークLv10の魔石
「ピ、美波、凄いですピ」
肩に止まっているPちゃんが両方の羽を上げる。
「ありがと、ピヨちゃん先生! 尻尾に当たったりしてこう兄のポーション使っちゃったけど、自分でも頑張ったと思う。あ、レベルも8に上がったよ!」
肩に止まったPちゃんに、美波が嬉しそうに答えた。
「その蛇、毒とか吐いてきたろ?」
「うーん、どちらかと言えば顔をそむけてたような?」
顔をそむける?
(航平、ひとつ言い忘れたことがありますピ)
(え? なに?)
(美波も良い匂いがする人間ですピ)
(ん? ああ、匂いって、その人が作り上げた匂いだっけ?)
(そうですピ。美波は良い匂いですが、魔物は大嫌いな匂いですピ)
(はい? でも10階で、デビルヒルたちは美波ばっかり狙ってきてたぞ?)
(レベルも低いので、早く消そうとしたと思われますピ)
(…じゃあテレポは)
(リーダーが気配に気づき接近して、敵意は無い美波を確認、ただ匂いにびっくりしたんだと思われますピ)
(…ビックリ強制転移?)
(ビックリ強制転移ですピ)
「…美波はそんなに臭いのか」
「何!? 今なんて言ったの?」
美波がズズッと詰め寄ってきた。
「…いや、なんでもないよ。とにかく美波が無事で良かった。良くひとりで頑張ったな」
美波の頭をクシャクシャと撫でる。
美波がいつもの恥ずかしそうな、はにかんだ笑いを浮かべた。
テレポは抱けないけどね…と、俺が少しの同情と一緒に撫でたのは内緒だ。
読んでくれてありがとうm(_ _)m感謝が湧水のように…コポコポ




