いつもと違う朝
雨の日は、洗濯休み掃除休みと最初から決めていました。
朝8時、窓の外は良い天気だ。
俺は玉子2つのハムエッグを皿に移し、醤油を少し垂らす。
カリッと焼けたトーストにバターが溶け切ってから、イチゴジャムを薄く塗る。オレンジジュースをコップに入れ、ガラステーブルに置いた。
「Pちゃんも食べるか?」
いつもの朝だ。違うといえば、ベッドの下のダンジョンと、目の前のガラステーブルに乗っている、まん丸のヒヨコのぬいぐるみ「癒やしの手触りピヨピヨちゃん」水色バージョン。
「これは良い匂いですピ。いただきますピ」
「Pちゃん、共食い…」
ハムエッグの玉子をついばんでいる。飲むだけじゃなく、食事も取れる万能仕様。
「スマートフォンの時は電気をエネルギーにしていましたピ。今は食事がエネルギーになりますが、完全利用なので排泄しませんピ」
つぶらな瞳で俺を見上げる顔はドヤ顔をして…いる気がする。
「…そうですか、エコですな」
中身はもう綿じゃないのか…。
俺は想像するのを早々に放棄し、トーストにかぶり付いた。
「なあ、世界中にダンジョンが出現するのは80日後って言ってたけど、なんで家だけ80日前なんだ?」
俺は目の前でハムと格闘しているヒヨコに聞いてみた。
「ムグ…、まあイレギュラーですピ。本来なら私も80日後に何処かで目覚めるはずでしたが、大いなる者のはからいかもしれませんピ。どんなことが起こるか発信していけば、事前準備期間として、この世界にとっては良いことでしょうピ」
「ちょっと待った! 俺イヤだぞっ」
俺が勢いよく立ち上がると、Pちゃんがハムを落とした。
「80日後にダンジョンが世界中にできます。魔物を倒さないと世界が滅びます。あ、レベルアップがあるし、魔法も使えるんで大丈夫です! なんて言ってみろ。一部のゲーマーかファンタジー好きの奴が色めき立つくらいで…いや、そいつらにさえも、お前何様? 扱いに…」
恐ろしい。俺はTw○tterもl○neもやっていない。人と関わることは面倒だし、相手が見えないんじゃなおさらだ。休みも本を読み、映画を観たり、寝て過ごしている、今風ではないアナログ人間だ。無味無臭、毒にも薬にもならない一般人だ。
「Pちゃんや、こればっかりは大いなる方も間違いを犯したぞ。俺は絶対言わない」
「わかりましたピ」
「へ?」
「私はダンジョンナビゲーターでもあり、航平のナビゲーターですピ。航平の意志を尊重しますピ」
と、ハムを再びもぐもぐ食べ始めた。
「P、Pちゃーん」
俺はPちゃんを両手で掴むと頬ずりをした。うん、癒やしの手触りー。
「離してくださいピ! 出ます出ます! エネルギーの元が! ピピ!」
Pちゃんに突かれ、俺は我に返った。てか、あなた飛べるのね? そんなぽってりしてて。
ありがとう。読んでくれて嬉しいです。