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心配性


「こう兄…なんにも出てこないね」


 地下1階、石畳の通路を光魔法のライトでいつもより明るめに調整し、安全第ーに歩いている。


「なんか、ダンジョンって感じがしないっていうか…。スライムとか、踊ってる宝石箱とか迷子の鎧とかいないね」


 美波も俺の影響で、ドラ○エ好きだった。美波もⅢまでしかやっていないが。

 

「ばか、魔物に会わないほうが良いだろ。何かあったらどうするんだ」


 ライトを使っているから、光のオーラは美波に掛けられなかった。


 守りの指輪とバングルブレスレットは美波に装着させているが、まだ安心はできない。


 ダンジョンに入る前、俺の『アディオス』Tシャツに大笑いしていた美波を無視して、『雷光』の柄と同じ、シブい黄色の鱗の革を纏わせようとしたが、身長が150センチちょっとの美波には、2メートル四方の革はでか過ぎて断念していた。


 空間庫から取り出す様子を、あんぐりと口を開けている美波に、今度はデビルフィッシュの鱗を当ててみた。白く輝く鱗は、首からくるぶしまでで、なんとかいけるかとベルトで止めたが、Pちゃんよりもヨチヨチ歩きになり、これも断念。


 切実に、防具屋が欲しい。美波に合うような防具を、国が早く作ってくれないかな…。


 いつ雷竜のような、いやそれ以上の高レベルな魔物が転移してくるか分からない。


 こうなったらオノカブトの兜を…止めておこう。美波に呪われそうだ。


「航平、これでは美波のレベルが上がりませんピ」


 バッグに入ったPちゃんが、エネルギー砲で空いた500円玉ぐらいの穴の隙間から、くちばしを突き出している。


 …楽しんでるだろ、それ。新しいの買う余裕は無いから、まあ良いけど。


「あー、そうね…」


 ダンジョンに入った時、美波にステータスが開けるかやらせてみたが、脳内表示は出なかった。


 Pちゃんが、自分もしくは一緒にいる者が魔物を倒して、魔力移譲を受けないと確認はできないと教えてくれた。


 確かにこれでは、美波を連れてきた意味がない。


 でも1階から4階までは、俺たちが全力で追いかけないと魔物たちは逃げていくし、防御力が高くても、5階のブラッドバットやビッグスラグに美波がやられたらどうする…。


 できればライトを使わない、明るい階が良い。そうしたら美波に光のオーラも掛けられる。


 アンシリの8階は眩しすぎるし…。


「航平、10階の平野ダンジョンが良いですピ。明るいし、そろそろ魔力丸が無くなりますピ。今後美波を守るためにも、補充が必要と思いますピ」


 バッグからくちばしだけ出し、Pちゃんが言う。魔力丸は残り2個だった。


「ピヨちゃんさすがダンジョンナビゲーターだね。こう兄、10階に行こう! レッツゴー!」


 よく分かっていない美波が、元気に拳を突き上げる。


「お前なー、10階にはでっかい牛や気持ち悪いヒルがいるんだぞ? まだ6階のほうが」 


「6階のテレポからは魔力丸を貰ったばかりで、次に生成されるまで時間がかかるかもしれませんピ」


「そうかもしれないけどさ…」


 もし10階でテレポを見つけたとしても、俺にはテレポたちを倒すことはできない。


 しかし何かあった時に備え、転移できる魔力丸が必要なのも確かだ。


 6階も10階も、5階の洞窟ダンジョンを避けて魔力丸を使うなら、同じことか。


「…そうだな。直接10階に行く」


 俺は覚悟を決め、空間庫から魔力丸を1個取り出した。


「それなあに?」


 美波がひょっこり覗き込む。


「これはテレポのウン…運を握る転移玉だよ。…よし、行くぞ」


 改めて言うと、ちょっと嫌になった。


 俺は切ない気持ちを押し殺し、美波の手を握ると転移玉を飲み込んだ。





 

 閉じた目の裏に日の光が届く。


「…こう兄、ジェットコースターみたいにフワッとし…ええ!? ここダンジョン?」


 隣で目を開けた美波が辺りを忙しなく見渡した。


 そうだろう、10階は地下とは思えない青い空と、一面の草原なのだから。


「まだ動くなよ?」


 そわそわしている美波に念押しすると、空間把握と気配探知を放った。


 近くには魔物の気配は無く、ゆっくり動くモノ、他の気配を追いかけているモノと逃げるモノ、空を飛んでいるモノと様々な気配が戻ってくる。


「…11階への下り階段があった。この階段と線で繋いで…あっちだ」


 二等辺三角形の頂点の場所を見つけた。そこには小さな気配がまとまっている。10階に生息しているテレポに違いない。


「航平、探知レベルが上がりましたピ」


「まあね、生き抜くために必要だし」


「なにこう兄、何かしたの?」


 美波が不思議そうに俺を見上げる。


「ん、まあ色々…。あ、そうだ」


 美波のステータスを確認しておかないと。


「ちょっとごめん。鑑定」



 Lv1 田所美波(タドコロミナミ) 16才

 種族:人間

 職業:女子高生(高)

 生命力:60/60

 魔力:ー

 体力:7

 筋力:7

 防御力:6+35

 素早さ:9

 幸運:58


 スキル:ー 光魔法耐性2(仮)


 加算装備:守りの指輪(守りのバングルブレスレット)



 これが一般的なステータスなんだろう。


 ただ加算装備というのが増えていた。指輪の防御力が足され、ちゃんと効果を発揮している。でもなぜかバングルブレスレットは装備されているが反映されていない。防御力の高いほうが優先されるのだろうか。


 装備品が色々手に入ったら検証してみたほうが良さそうだ…っておいおい。


 職業…女子高生(高)だと…? 美波、お前も(高)人間だったのか!?



「…Pちゃん、俺は称号が無かったら、どれだけだったんだ?」


「ピ、始まりの称号は『頑張れ』と大いなる方がくれた応援称号で、初討伐は『よくできました』とのご褒美称号ですピ」


 Pちゃんが穴からくちばしを出す。


 幼稚園の先生並みの優しさ。



「…おうえんとごほうび…。ありがとうございます」


 俺は青空を見上げ、目を閉じた。

 

「こう兄、さっきから何してるの? 早く行こうよ」


 美波が俺の腕を引っ張る。


 そうだった、美波は午後3時からバイトだ。魔力丸も帰り使えば無くなる。


「Pちゃん今何時?」


「9時2分になりますピ」


 制限時間は5時間無いくらいか。その間に美波のレベルアップと魔力丸を手に入れなきゃいけない。


「美波走るぞ。俺から離れるなよ」


「もちろん! 忘れた? 小中でリレーの選手だよ? 私」


 忘れないさ。美波は足が速い。高校でも陸上部に入りたかっただろうが、そんな素振りは見せないし、母さんが勧めても頑なに断ったらしい。陸上部、スパイク代やら遠征費やらで、結構お金かかるからね。

 



「ちょ…ちょっと…待って…こう兄速すぎ…」


 数百メートルの走ったところで美波が音を上げた。かなりゆっくり走っていたつもりだったが…。


「ハアハア…こう兄、こんなに速かったんだ…」


 美波が両膝に手を突き、呼吸を整えている時、


 美波の後ろでデビルヒルが跳ねた。狙いは美波だ。


 素早く雷光を取り出し、デビルヒルの腹を切り裂く。鳴き声も残さず、デビルヒルが光と共に消えた。


「あ痛…」


 気付いていない美波の頭に、デビルヒルの魔石がコツンッと落ちてきた。


「え? なに何!? 私が頭の中にいる!? …はい? レベルが上がった? それはどうも…」


 美波が耳を塞ぎながらキョロキョロしている。


 どうやら無事にレベルアップしたようだ。




 




読んでくれてありがとうm(_ _)m感謝の印として今日は鍋にする

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本当に美波が可愛い。←妹フェチ
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