突撃お宅訪問
5月16日、土曜の朝だ。
7月28日のダンジョン出現まで、後73日。
「…濃すぎる1週間だった」
ガラステーブルの上に置かれたラーメンどんぶりの中で、タオルに包まれすやすや眠っている水色のヒヨコ、Pちゃん。
窓のカーテンを開けると、豆柴を連れたおばさんが、公園へ歩いていくのが見えた。
「ステータスオープン」
Lv23 田所航平(タドコロコウヘイ) 23才
種族:人間
職業:サラリーマン(低)
生命力:1590/1590
魔力: 910/910
体力: 190
筋力: 181
防御力:178
素早さ:198
幸運: 200
魔法(全適性):光魔法3 風魔法4 雷魔法4
水魔法5
スキル:瞬間移動1 剣技3 見切り3 呼吸法3
駿足4 身体操作4 絶対防御4 気配探知5
空間把握5 隠密5 罠解除6
鑑定10 異常耐性10 魔法耐性10
眼調整10 空間庫10
生命力回復10 魔力回復10
ユニークスキル:賢者の家5(15m×15m×15m)
魂の絆:***に創られし叡智 P
称号「始まりを知る者」「立ち向かいし者」
「幸運の尻尾を掴む者」
魔法を4種類覚えた。全適性なのだから、全て取得したいところだ。
「残すは火、土、闇かぁ…。土魔法はテレポが持ってるけど、倒すなんてできないし、宝箱か他に土魔法持ちの魔物がいなかったら諦めよう」
まだ寝ているPちゃんを起こさないようそっと洗面所で顔を洗う。
さて、まだエネルギーが足らなそうだったPちゃん用に、朝からフルエネルギーでいきますか。
自分だけなら作らないが、Pちゃんが喜びそうなやつ。
台所に向かい、ボウルの中に卵2つを割り入れる。そこに砂糖を入れ、よく混ぜたら牛乳を入れまた混ぜる。
空間庫から4つ切り食パンを出し、縦半分に切る。フォークでプスプスと両面を刺しておく。
卵液を一度コシて…面倒だが卵のカラザを取ったほうが、液が染み込みやすいし滑らかになる気がするので、美波に作る時はいつもやっていた。
パンが卵液を吸ってる間、手鍋に水を入れ、少し余ったジャガイモ、ニンジン、タマネギをさいの目切りにして入れ、火にかける。煮立ったらソーセージを…。2本しか残ってなかった。
…5ミリくらいの薄さで量をごまかそう。
お、トマトもあったな。Pちゃんはサラダだとあまり食べないからな…。これもさいの目にしてから、スープに加えた。
最後にコンソメ顆粒と塩コショウで味を整えれば、余り物スープの完成だ。
フライパンにバターを入れ、フツフツしたら、柔らかくなっているパンを焼く。
ジュワーッ
バターの香ばしい匂いと音に釣られ、Pちゃんが起きてきた。
「おはよう航平、これは『ごまんとある』中のS級の予感がしますピ!」
肩に止まったPちゃんがフライパンを覗き込む。
「ほら、危ないから、向こうで待ってて」
「ピ!」
Pちゃんが羽敬礼をして、重そうに部屋へ飛んでいく。
「最後にメープルシロップ風のシロップをたっぷりと…よし」
フレンチトースト時短バージョン完成だ。
Pちゃん用と俺用、それぞれを皿に盛ってテーブルに運ぶ。
どんぶりベッドは下に置いた。寝心地は良かったらしい。
「いただきます」
「いただきますピ」
シリコンカップにオレンジジュースを入れる。その間に皿からフレンチトーストをPちゃんが食べる。もう飲み物以外、普通の皿を使っていた。
フレンチトーストを一口食べ、Pちゃんがバンザイをする。
「航平、これはごまんのSSS級の…」
「うん、分かったから食べな」
キラキラと目もくちばしも輝かせ、Pちゃんは幸せそうだ。
俺も、美味そうに食べるPちゃんを見るのが、楽しい。
「なあ、Pちゃん」
「ピ?」
「もしPちゃんのその体が消えて、光の粒になって、記憶もなくダンジョンで彷徨っても、俺探すから。俺のことが分からなくても、必ず見つけるから。Pちゃんも美味しい匂いがしたら、寄ってこいよ? それ、俺だからな」
うん、昨日感じたモヤっていうのが無くなり、スッキリした。
「…ピ。それは確率が限りなく低いと思われますピ」
「俺の幸運200MAXを信じてさ」
「それはあまり信じてませんが、…航平は美味しい匂いですピ。メモリを消去されても分かるかもしれませんピ」
…俺の幸運200MAXを信じていなかったのか。
ピンポーン
静かに悲しんでいると、玄関のチャイムが鳴った。
誰だ? こんな早く。先輩が忘れ物でも…
ドンドンドンッ
「こう兄、起きてるでしょ? バターの良い匂いがするもん」
Pちゃんと顔を見合わせる。
美波だ!
(Pちゃん! ベッドの上に!)
(ピ! 了解!)
Pちゃんがフレンチトーストを大きくかじってから、俺のベッドに飛んでいく。
さすがPちゃん、もう癒やしの手触りピヨピヨちゃんになりきって横に…
(Pちゃん! 口をもぐもぐさせないっ)
「ちょっと待って! 今開ける」
ドアを開けるとジーンズに白いチュニック、髪をいつものひとつ結びにした美波が立っていた。
「おはよ! こう兄」
ニコッと笑い、コンビニの袋を俺に渡しながら、部屋に上がる。
「おはよって、お早う過ぎるだろ…7時半だぞ?」
「家を6時過ぎに出たから、そのぐらいだね…あー! フレンチトースト食べてる!」
「良いだろ食べたって」
「こう兄いつも一人の時作んないでしょ? やっぱり怪しい…ほら、お皿も2枚、スープもカップ2個! シリコンカップだって…シリコンカップぅ?」
美波がシリコンカップに入ったオレンジジュースをしげしげと眺める。
「ち、チビチビこれで飲むのが俺の流行りなんだ」
「ふーん、そうなんだ」
納得されるのも…。
「で、なんで来た? あ、お前学校は? まさかサボり…お兄さんは許しませんよ!」
「今日は休校。バイトは午後からだし、こう兄がこの前怪しかったから、突撃お宅訪問です」
(ピ! 航平、美波に話せばいいですピ)
ベッドに転がっているPちゃんがチャンネルを開く。
(いや、まだ俺は弱いから、美波を守りきれるか分からないだろ? 学校が夏休みに入るまで、もう少し強くなってから)
「なんで黙ってるの、こう兄? さては彼女が隠れてるとか?」
突然美波がしゃがみ込み、ベッドの下を覗いた。
「なーんて……あ、地盤沈下」
ダンジョンがあっさり見つかりました。
読んでくれてありがとうm(_ _)m 投稿して1ヶ月、感想も助言もらって、ブックマークや評価も頂いて…。一緒に航平やPちゃん、先輩や美波、これから出てくる人たちを、この世界を、楽しんでくれたら嬉しいなあ。 う、泣いてなんて…(´;ω;`)ブワッ 号泣です。




