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どっちも信じてた


「航平君、眼調整は凄いな…航平君のライトがなくても、常夜灯が点いているくらいには見える」


 低い岩場を踏み越えながら、先輩が言う。

 

「はい。レベルが上がったらもっとよく見えますよ」


 俺にはやや紫がかった普通の明るさで、荒涼とした岩ばかりの死の土地が見えていた。


 草木一本生えていない。というか岩と石以外何もない。水音がした洞窟ダンジョンのほうがまだマシだ。


 背中に回したバッグの中で、Pちゃんはまだ眠っている。

 

「…航平君の戦いぶりを見てると、自分がいかに足手まといか分かる…ボクは役立たずだ」


 先輩の様子が、ダンジョンに来てから何かおかしい気がする。気のせいか? 人はよく分からん。 


「まあ、そのうち大丈夫になります」 


「…そうかな」

 

 先輩が眼調整2を取得して良かった。ここは全くの暗闇の階に決まってる。


 なぜなら出てくるのが…


「先輩下がって!」


 黒いモヤがまた目の前に現れる。


 ゴースト系:魔残(弱) Lv?

  魔石、実体を持たない魔力の集合体

  魔石を得れば魔物になり、

  肉体を得ればゾンビとなる。

 攻撃パターン:窒息

 弱点:光魔法、雷魔法


 さっきから異様にこいつらが攻撃してくるのだ。こういう奴が明るい場所に生息しているとは思えない。

 

 雷光に魔力を流し、モヤを斬りつける。


 ヒアアア…


 人間か、魔物の声か、どちらとも言えない悲鳴をあげ、黒いモヤが霧散する。


 レベルは分からないが、強くはない。


 ただ数が…


「多すぎだって!」


 どんどん集まってきているようだった。 


 くそー! 邪魔だ! イライラするっ


 ドロップも落とさないし、結構倒しているのにレベルも上がらない。


 魔残ってそもそもなんだ? まざんか? まのこり? 魔のカス? 


 よしっ、お前ら今日から魔残と書いてマカスと読んでやるっ。夜露死苦!


「そろそろPちゃんの言っていた奴がー」


 やけくそ気味に雷光を振いながら、昨日Pちゃんが話していたことを思い出していると、


「航平君! この者たちには雷魔法が効くのか!?」


 後ろに佇んでいた先輩の声が響いた。


「先輩! 大声出さないで! 先輩のほうへ寄っていくじゃないですかっ」


「ボクのせいでこんな危険な目に2人をあわせているんだ! ボクだって…」


 先輩が両手を前にかざし、ブツブツ唱える。手のひらからバチッと小さな火花が跳ねた。


「イメージ、イメージ、イメージ…『スタンガン』!」


 先輩の両腕にまとわり付こうとしていたマカス(弱)に、両手を押し付けた。バチバチッと先輩の手のひらが一瞬激しく光る。


 ヒアアア…


 マカスが悲鳴を残し、霧散した。


「…できた! できたぞ航平君!」


 先輩が自分の両手を握りしめ、小さくガッツポーズをする。


「おお! やりましたね先輩っ」


 雷光で他のマカスを斬り散らしながら一緒に喜んでいると、一瞬の間を置いて、マカスたちがスッと居なくなった。


 …コワイイイー


 甲高い声が聞こえ、岩場の陰から、そいつは現れた。


 ひょろりとした、人間の影のような形。手足が異常に長く、背は2メートルくらいか。


 ゴースト系:魔残(強) Lv?

  魔石、実体を持たない魔力の集合体

  魔石を得れば魔物になり、

  肉体を得ればゾンビキングとなる。

 攻撃パターン:窒息、絞め殺し、精神汚染

 弱点:光魔法、雷魔法



 こいつだ、Pちゃんが言っていた魔物…。マカス(強)。


 ヨエエエエー


 マカス(強)が今度は低い叫び声を上げる。


「止めろ…」


 ミトメテエエエー

 

 呆然とマカス(強)を見つめていた先輩が、耳を塞ぎ叫ぶ。


「止めてくれ!」


「先輩、大丈夫。深呼吸して」


 耳を塞ぎしゃがみ込んだ先輩を背に、マカス(強)の前に立つ。


 ダレモイナイイー


 コワイイイー


「…やめて…くれ」


 先輩の泣き声を、初めて聞いた。


「先輩っ! これはアイツの精神汚染です! 大丈夫、地獄耳スキルのせいで聞こえ過ぎているだけです。深呼吸して、聞こえないよう意識を集中して…」


 先輩は何も答えず、ただブルブルと震えている。


「先輩…千駄木先輩」


 正念場だよ、先輩。


 俺は先輩の方に向き直り、しゃがみこんだ。


 ぎゅっと耳に押し当てていた震える手を掴む。


「千駄木先輩、大丈夫です。あいつの声を聞かないよう地獄耳をコントロールして。先輩ならできます」


 先輩の震えが止まった。


「何より悔しいでしょ? あれ、魔力のカスでできてるんですよ」


「…そうなのか?」


「そうですよ。千駄木薫というキャリアウーマン(高)がカスにしてやられる…。これ、インスタフォロワー11人の方々が知ったら…ねえ」


「くっ! そんなことになったらボクの野望が…」


 野望? 何、野望って…。まあ今はいいか。


「千駄木先輩、俺もPちゃんも、信じてます」


 タスケ……


「…航平君、ヤツの声が聞こえなくなったぞ?」


 涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔が、ちょっと笑った。


「じゃあ、目的達成ですね」


 俺も釣られて笑った。


「ああ……航平君後ろだ!!」


 背中に回していたバッグの中に、マカス(強)の長い手が入り込んでいた。


「!? Pちゃ――」


 パシュンッーー


 振払おうとした瞬間、バッグから一筋の光線が放たれ、マカス(強)の頭を撃ち抜いた。


 ドガンッッ! ガラガラッー 


 

 ヒアアア…


 悲鳴を残し、マカス(強)が霧散した。


 マカス(強)を貫いた光線は、離れた天井の岩に当たりガラガラと大石の雨を降らす。



「……ほら、先輩。これがビームです」


「……ほう、これがチュッドーンか」


 ぼんやりとその光景を見ていた俺たちの耳に、背中から可愛いあくびの音が聞こえた。


「お腹がすいたですピ…。航平、ご飯は…ピィ?」


 もう二度と、決して、寝ているPちゃんの腹は触らない。







読んでくれてありがとうm(_ _)m感謝祭は後日で

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