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名探偵P


「ピ、薫は雷魔法を取得したんですピ?」


「うん、具現化するにはイメージが大事だってちょっと教えたら、手の中で、バチバチッ!…っと。ほんと何者なんだあの人は」


 痴漢対策になると喜んでいたが、威圧スキルで近寄ってもこないだろう。それでも手を出そうとする猛者は、感電地獄。ブルッと震えた。


「薫は良い匂いの人間ですピ」


 Pちゃんが食後のオレンジゼリーを、はむはむ食べながら言う。


「ん? 香水の?」


「違いますピ。その人間が培ってきた経験、折り合いをつけてきた想いなどで作られる、その人間を形作ってきた匂いですピ」


「ふうん、匂いねえ…。じゃあ俺は?」


「航平は美味しい匂いがしますピ。魔物も好きな匂いですピ」


 何故だろう、全く嬉しくない。


「航平のゼリーも美味しいですピ」


 Pちゃんが両羽を上げる。


 先輩のくれたケーキもまだ5つ空間庫にあるが、2日連続でケーキは贅沢だからね。


「8時か…。寝るには早いが、昨日の今日でダンジョンに潜るのはな…」


 ここ数日、前より仕事の効率も上がり、早く帰れるようになってきた。まあ、頼まれる仕事が減ったとも言う。あはは…。


「そうだ。賢者の家が5になったんだ。どうなったか覗いてみるか」


 Pちゃんがゼリーを食べ終わるのを待って、部屋に賢者の家を出現させる。


 見慣れた楕円の膜が現れた。Pちゃんを肩に乗せ、


「どれどれ…と」


 裸足のまま、中に入った。今は1辺15メートル、高さも15メートルになっているはずだ。


「おお…」


 目の前に広がる光景に、思わず声が出る。


 そこにあったのは芝生ではなく、所々に小さな花を咲かせた草原。空は青く澄み、その中央の納屋があった場所には、小さいながら、ちゃんと木製のドアと小振りの窓が2つ付いた丸太小屋が建っていた。煙突まで見える。


「…Pちゃん、とうとう家になったぞ」

 

「…ピ」


 Pちゃんを肩に乗せたまま、庭のような草原の中を歩き、丸太小屋に近付く。


 風はないが、土の匂い、微かな花の香り、蜜蜂の羽音さえ聞こえてきそうな、牧歌的な風景。裸足の裏に感じる土は柔らかく、耕せば良い畑になりそうだった。


「お邪魔します」


 磨かれた銅の丸いドアノブを回し、押し開く。


 キィー…


 丸太小屋の中は俺の部屋と台所、風呂トイレを全部繋げたくらい、12畳ほどの広さだろうか。


 納屋と同じように節のない板床が綺麗に貼られ、壁は丸太の素材のままで、良い味を出している。


 白くふんわりとした1畳ほどのラグがいつものソファーの前に敷かれ、サイドテーブルは半畳ほどのローテーブルに変わっていた。


 そして何より…


「Pちゃん、キッチンがあるぞ!」


 ドアから入って右奥、小窓が付いている前に、木枠で囲まれた銅板を加工したような流し。横にはひとつ口のかまど。ちゃんと薪をくべる穴もあり、煙突も天井を突き抜け伸びている。


 蛇口みたいなのはあるが、丸太の壁に直接取り付けられていた。水道管は見当たらない。


「排水口もないし、ただの飾りかな?」


 流しと同じく磨かれた銅でできた蛇口を掴んだ。


「ん?」


 一瞬筆で撫でられたような、こそばゆい感じがしたような…。


 気のせいと思い、蛇口をひねってみる。


「おわっ」


 勢い良く、綺麗な水が出た。流れ落ちた水は、銅板の流しの底に刻まれた丸い傷の中に吸い込まれ、消えていく。


「どうなってんの? これ」


「…航平、これは魔法陣ですピ!」


 肩から流しの木枠の縁に飛び移り、底を覗き込んだPちゃんが、驚いたように両羽を上げる。


「魔法陣って…あの?」


 転移する時光って、フュンッー…憧れの?


 彫刻刀で付けられたような円の傷は、よく見ると二等辺三角形を幾つも組み合わせ、真ん中と円の周りに『梵字』の様な模様が刻まれていた。


 キュッ


 とりあえず水は止めておこう。


「これは失われた世界で使用されていた魔法陣ですピ。でもなぜここに…ピィ」


 Pちゃんが片方の羽でくちばしを隠しながら、木枠を行ったり来たりする。


 何か探偵のようだ。名探偵P。


「失われた世界…ああ、あの賢者レベル100とか錬金術者とかが作った箱も確か…」


 空間庫から黒い魔樹木製、持ち運び金庫型のレベルタグ箱を取り出す。


 黒くてよく見えなかったが、蝶番が付いた蓋や側面、更には底にも、円形の中に三角や梵字風の文字が同じように刻まれていた。


「航平、この賢者の家をドロップしたゴールドスライムはぐれは、レベルタグの箱など比べ物にならないほどの、強い魔力を内包していたと思われますピ! いったいどれくらいの年月をかけて再生されたのかもわかりませんピ」


 Pちゃんが興奮して俺の周りを飛び回る。


 …いや、包丁で結構簡単に倒しちゃったけど…。


「…よく分からないな。で、どういうこと?」


「つまり、この『賢者の家』は失われた世界にあったものでできているということですピ! 空気、土、草花、家、道具…失われた世界の復元ですピ」

  

 Pちゃんが頭の上に止まる。


「おお! …おお? ま、まさかその失われた世界の住人も作られてくるとか!?」


「それはありえませんピ。これは航平のスキルで、航平の世界ですピ。…ただ私も知らないスキルなので、今後どうなっていくのかは不確定ですピ」


 俺の世界か…もう引き籠ろうかな。…いやいや、だから金が足らない!


「先輩のお兄さんが魔石に利用価値を見出してくれれば…引き籠れる」


 ここでのんびり暮らそう。畑とか作って。そのうち川や森もできるかも…


「あれ? もし森とかできたら魔物が現れる?」


「外と違う世界ですピ。魔力が流れ込んでこない限り、魔物は生まれませんピ。ただ魔法陣の起動には自分の魔力か魔石が必要になりますピ」


「そういえばさっき、蛇口を触ったら変な感じがしたな…ライフ」


 Lv21 生命力1480/1480 魔力840/840


「あれ、魔力は減ってないぞ?」


「航平は10秒に1ポイント魔力が回復するスキルを持っていますピ。魔法陣の起動は航平にとって問題ないですピ」


「…Pちゃん、これは凄いな…」


 魔物も出ない豊かな土地、使い勝手の良さそうな魔法陣…。しかも更に広がっていく予定だ。


「Pちゃん、俺はサラリーマンを辞める」


「ピ! 探索者としてー」


「俺は隠者になる!」


 隠者…カッコよくない?


 




 


読んでくれてありがとうm(_ _)m隠者がいいんじゃ! やめて、そんな目で見ないで…

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― 新着の感想 ―
[一言] 家族、社会、友人を切り捨てれるなら生活はここメインで良いと思うよ
[一言] 隠者・・・波紋の呼吸法練習しなきゃ!!
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