信者獲得
「レベルが上がった他に、何か取得とも言っていたが…あの声は誰だろうか? 聞き覚えがあるアナウンサーのようだった」
「自分の声ですよ、あれ」
最初に聞いた時、自分の中にもう一人自分がいると怯えたことを思い出す。
「なるほど。確かにインスタライブ録画のボクの声と似ているか。…しかし『が』の発音がいまいちだな。『んが』と響かせないと、綺麗に聞こえない。気をつけなければ」
(Pちゃん、もしかして職業の(高)(低)の差は、なんらかの意識の違いかも知れないな)
(ピ、それは種族としてのー)
俺はそっとPチャンネルを閉じる。
「…航平、ドロップがありますピ」
「そうだった!」
先輩や俺のレベルは後で確認するとして、まずは雷竜のドロップ品の確認だ。
雷竜は雷魔法レベル4だった。これは期待せずにはいられない。
階段下に黄色の玉が2つ転がっている。そして階段上には黄色の革のようなものが広がっていた。
雷竜ドロップ
雷魔法オーブ 雷魔法Lv4
雷魔法オーブ 雷魔法Lv1
雷竜の鱗 2メートル×2メートル
雷竜の鱗の革、鋼の剣では傷さえつかない
硬く、耐久性に優れた鱗の革、雷魔法耐性2
よっしゃあ!
「Pちゃん! 雷魔法オーブだ! しかも2つ…なんで2つ?」
「雷竜が他の魔物を倒した時、なんらかの理由でレベル1のオーブを飲み込んでも、レベルは下がりませんピ。ただ2つもオーブが出るのは珍しいですピ」
「ちょっといいかい? 魔物同士は食べるために戦うのかな?」
黙って聞いていた先輩が口を開く。
「違います、エネルギーは魔力がほとんどですピ。戦う理由は主に縄張り争い、強者への渇望ー、魔物は倒されると消滅し、倒したモノは倒されたモノの魔力移譲、いわゆる経験値を得ますピ。それにより、魔物は魔核の強化、人間は肉体変化が起こりますピ」
「でもPちゃん、デビルヒルや今の雷竜も、吸血、肉食系って鑑定に出てたぞ? 不思議だったんだよ。魔物は消滅するから食えないだろ? ってさ。アンシリなんて生命力吸ってきたし」
「『鑑定』は人間から見た魔物や物の説明ですピ。魔物は、魔力だけではないエネルギーの取り入れ口を持っているというだけですピ」
Pちゃんが当然だというように両羽を上げる。
「クククッ。なるほど主観の違いか。生存第一だからな、どの生物も。P…、あのPちゃんではなく、P様と呼ばせてもらって良いだろうか?」
先輩が少しためらいがちに、恥ずかしそうに言う。
「ピ!」
今度は片羽を上げた。
「ありがとうございます。P様」
先輩が笑う。
何か通ずるモノがあったのか? しかしなんでP様? なに? Pちゃん信者になったの?
「…まあいいや。Pちゃん今何時?」
「23時4分45秒になるところですピ」
随分遅くなってしまった。先輩の帰りも気になる。
「先輩、帰りましょう」
俺は雷魔法オーブ2個を空間庫にまず収納。階段を登り、今度は鱗の革とテニスボール大の魔石を収納する。後ろで先輩が、もう驚かんぞと呟くのが聞こえてくる。
鱗の革を収納すると、その下にもうひとつドロップ品があった。
「…これ、剣じゃないか?」
雷竜ドロップ:雷竜の曲剣
雷竜の爪からできており、刀身65センチメートル
柄には鱗の革が貼られた物
突きより斬撃に特化
魔力を流せば雷を撃つ(レベルに依存)
「ファンタジー剣だ!」
黒く艷やかな片刃、日本刀より反りは強いが、十字の鍔、柄の黄色の鱗との対比はカッコイイに尽きる。柄までいれて長さは80〜90センチ、手に持つとしっくり馴染み、振れば空気を切り裂いた。俺の身長にもぴったりだ。
思えば武器といえば包丁(300円均一)、キラーアントの牙、オノカブトの手斧…手斧なんてチョコレートしか削っていない。
嬉しくなってもう一度振る。
剣技1を再取得しました
脳内アナウンスが流れた。
あれ? 選択スキルで俺もう持ってたよな?
(Pちゃん、剣技1を再取得したんだけど…なんで?)
(航平が経験で得たものじゃない、忘れられたスキルだったですピ。使わない無用のスキルは自然に消えますピ)
俺の肉屋バイトで得た、見た目と手で持った感覚でグラムを当てるようなものか。ビッグホーンの肉の切り分けの時、感覚は覚えていたが、確かにそれまで使いもせず少し鈍っていた。
剣技育てよう…。こいつを使いこなすためにも!
「ちょっと見せてくれないか?」
後から覗き込んできた先輩に、剣を手渡す。
「ふーん、形は中東のシャムシールに似ているか? でも刃は薄くもなく、重さもある。不思議な剣だ…でも鞘がないな」
と興味深そうに片手でひと振りする。
ヒュッ
俺より綺麗に振り、階段に当たらないよう寸止める。
…キャリアウーマン(高)恐るべし。
切ない気持ちを隠しつつ、とりあえず雷竜の剣を受け取り、空間庫に入れる。
フォンッ
目の前の剣が消えた。
「…クククッ、フゴッ。もう驚かないと決めたが、さすがにこれは気になるぞ? 航平君に協力するからには、全て話してもらおう。『鑑定』とやらのことも」
…先輩、威圧スキル取得していませんか?
「はい…まあとりあえず、帰りましょう」
俺たちは階段を登り、雷竜から逃げてきた道を戻っていった。
「テレポの魔力丸を使うのは、確かに勿体ない距離ですピ」
Pちゃんがバッグから出て、俺の肩に止まる。俺も歩みを止める。
「魔力丸?」
先輩がPちゃんと並んだ。パンプスを脱いだままなので、Pちゃんと目線が同じだ。
「ダンジョン内なら、一度行った場所に限られますが、思い描いた場所に転移できるドロップ品ですピ」
Pちゃんなぜそれを早く…。
「ほう、実に興味深い。ということは、殺される恐怖をあそこまで持ち続けなくても、P様がひとり残ろうとしなくても済んだわけだな?」
空気が変わる。著しく不穏なものに…。
「も、もちろんさ、Pちゃん。そんなにホイホイ使えないだろ? 貴重品だぞ? あれくらいの魔物なんかで使ったら勿体ない。…さてとPちゃんも腹が減ったろ? 早く帰ろう」
先輩のジト目とPちゃんのキラキラ目のダブル攻撃から目を逸らし、真っ直ぐ前を向いて再び歩き出した。
土の急階段を登り部屋へ戻ってくると同時に、玄関のインターホンが鳴った。
「誰だ? こんな時間に…」
美波がこの時間に来るわけないし、隣は今は誰も住んでないから騒音の苦情じゃないはず…。
「ああ、きっとボクだ。待ってるよう電話をしたんだが」
ダンジョンに入る前、そういえばどこかに電話していた。
トントンッ
「薫様、いらっしゃいますか?」
ドア越しに低い男の声が聞こえる。
先輩は軽く肩をすくめると、汚れて破けた靴下のようなストッキングを脱いで、手にしていたパンプスを玄関に置いた。
「ああ、いるよ。ちょっと待って」
振り返り、俺からバッグと桜色のトレンチコートを受け取る。
「航平君、今日はありがとう」
髪は少し乱れ、白い頬もブラウスも赤土が付いて汚れていたが、清々しく笑った顔は、会社で見るより格段に美しかった。
「いいえ、こちらこそ。お兄さんの件、よろしくお願いします」
頭を軽く下げる。
「ああ、全力で当たらせてもらう。兄さんの驚く顔が目に浮かぶ。ひれ伏すが良い。ククククッ! フゴッ」
これが無かったら、俺の高嶺の花になっていたことだろう。
「ではP様、また。あ、ケーキ食べてください。甘いのがお好きだと良いんですが」
ええ、大好きですきっと。我を忘れるほどに。
先輩がドアを開け、外に出た。
「薫様、心配しました。GPSのあらゆる追跡ができませんでした。電源を切る以外何かしましたか?」
ドアの外から中年男性の声が聞こえてくる。
…あらゆるGPSの追跡ってなんです? 怖いです。
「いや何も? まあボクは大丈夫だ。澤井は相変わらず心配性だな」
「薫様は幼少より危機感が無さ過ぎです」
「わかったわかった。以後気をつける。もう帰ろう」
疲れたような千駄木先輩の声が遠ざかり、しばらくして車が走り去る音がした。
「航平! ケーキとはあの生クリームとイチゴ、季節のフルーツ、チョコクリーム、チーズなどが乗った…」
「なんだそのごった煮みたいなケーキは…。分かったよ。夕飯食べたら出すよ。ただし1個な?」
肩の上で両羽を上げ、喜ぶPちゃんの頭を軽く撫でる。
「あ、そういえば先輩にステータス確認できるか聞かなかったな…まあいいか。今度で」
それから夕飯を食べ終わったPちゃんに、イチゴのショートケーキを出した。
豪快に顔を突っ込んで食べたPちゃんだったが、光魔法のオーラがあるから汚れることは…
食べ終わった時、Pちゃんは白いヒヨコになった。どうやら光魔法の『ライト』をダンジョンで使った時点で、光のオーラが消えたらしい。
同じ継続魔法を2つ同時に出すことが、俺のレベルではまだできないことが分かった。
いやー、勉強になった。
俺は呆然とする白いヒヨコを掴み、風呂場に向かった。
読んでくれてありがとうm(_ _)m頭の中ではラストまで完成してるんだけど、如何せん文字にまだ起こしておらず…。皆の生き様を見守ってくれっ。まだ先は長いけど。飽きさせたらごめんね(ーー;)




