さらば相棒
光魔法オーブはそれ自体が光っていた。
「航平、早くピ!」
「はいはい」
ん? なんか腹がスースーするような…。
「ん…ああ! 服が」
黒い「ちゃんぽん」トレーナーの腹の部分に、焼け焦げたような大きな穴が空いていた。気付けば左の肩下にも穴が…。
「光弾を受けたからですピ」
「なんてこった」
出会いから3年、「ちゃんぽん」トレーナーが、いってしまった。
「…やっぱり、防具が必要だ。これじゃあ洋服代が馬鹿にならない」
「攻撃を受けなければ良いですピ」
「そんな簡単に言うなよ」
「航平、それより光魔法ピ」
「…ああ、でも先に」
気落ちしたまま、守りのネックレスを見る。
…これプラチナか?
1.6ミリの乾燥パスタくらい細いチェーンが、2センチほどの先が尖った六角柱水晶の底に埋まっている。
…もしかして、お高く売れる??
アンシリドロップ:守りのネックレス
アンシリ内で練られた魔力白金の鎖、魔力水晶からできている
身に付けることにより、肉眼では見えない光の膜を纏う
物理防御力+15
鑑定は個別のほうが集中し、詳しく分かるらしい。
「Pちゃん、防御力15ってどれくらい?」
「ピ…大体人間の基礎防御力が5から10ですので、+15なら、サイに当たると青タンができますピ」
ややサイ寄りの魔物か、本物のサイか分からないが、どちらにしても青タンじゃ済まないだろう…。
「…凄くない? それ」
母さんにあげたいが、一度もネックレスや指輪を着けているの見たことがなかった。
レアでもないようだし、まず美波にあげるか。あいつ危なっかしいから。
「航平、早くオーブを…ピ」
「ああ、そうだった」
ネックレスを空間庫に仕舞い、光魔法オーブを口に入れる。
いつもの食感を残してオーブが消えた。
光魔法3を取得しました
脳内アナウンスが流れる。
「とうとうこれで、お風呂から解放されます…ピ」
肩の上で、Pちゃんが震えている。
そんなに嫌だったのか…。
「あ、解放で思い出した。賢者の家も4が解放されたんだった」
「それは良かったですピ。それより早く光魔法で…」
「とりあえず当初の目的は達成できたし、一度帰ろう。服もこんなだし」
「ピ!?」
「Pちゃん、今何時?」
「…18時15分20秒になりますピ」
1階から4階まで約1時間、5階から8階までブラッドバットとの戦闘を入れて約3時間かかっていた。
帰るのは早くて22時か…しょうがない。
俺は空間庫からテレポの魔力丸をひと粒取り出し、口に放り込むと目を閉じた。
一度一線を越えたら、後は同じだ…。
心が強くなりました。
独特の浮遊感を感じて、俺たちは地下1階に戻った。
「じゃあ、買い物行ってくる」
穴の空いたちゃんぽんトレーナーに別れを告げ、紺色の長袖Tシャツを着る。
左胸には白い刺繍の☑マーク、その下に「NIRA」の文字がある。以前美波に「ニラ」って!? と、やや引かれたが、安いし汚れも目立たないし問題ない。
ガラステーブルの上でこちらに背中を向け、Pちゃんは黙ったままだった。
ちゃんと光魔法の膜、光のオーラは成功したのにな…。
ダンジョンから戻ってすぐ、泥とホットチョコレートで少し汚れていたPちゃんと、シャワーを浴びたのがいけなかったか?
「買い物、一緒に行く?」
ピクリと丸い背中が動く。
「包丁とまな板の他にも、色々売ってるからなー。美味いものもあるし」
「電子知識だけではなく、実際に見て、食べることも大切ですピ。『百聞は一口に如かず』ですピ!」
「…店だから『一見』にしといて」
バッグに財布とPちゃんを入れ、300円均一に向かった。
プラスチックのまな板と文化包丁、洋服ケースを買い、外に出る。路地裏に入り、荷物を空間庫に収納した。
「便利すぎる。世の奥様方にとったら垂涎ものの能力だな…」
「美味しい物を買いませんでしたピ」
バッグの隙間から、体半分出ているPちゃんが不満げだ。
「慌てるなって。食べ物は違う所で買うよ」
裏路地から商店街の通りに出る。買い物客や、学生服を着た子たちが楽しそうに通り過ぎていく。
(この世界も、人間たちは楽しそうですピ)
頭の中にPちゃんの声がした。
「何!? どこで話してるの!?」
すれ違ったおばさんが怪訝そうに俺を見る。
(念話ですピ。航平とは魂の絆がありますピ。チャンネルを合わせるように意識すれば良いですピ)
「へえ…」
俺もPちゃんに届くよう意識する。
(…じゃあ、俺の声も?)
(聞こえてますピ)
(これはいいな。怪しまれないで済む)
俺たちの横を通り過ぎながら、買い物客がチラチラこちらを見てくる。傍から見たら、「バッグから少し出したぬいぐるみを見つめて立ち止まってる人」だったことに気付く。
十分怪しいしっ
俺はそそくさとその場を立ち去った。
商店街を逃げ出した俺は、今度は100円均一に寄り、靴下とトランクス、ピーナッツ入りのカラフルなチョコボールをひと袋買った。
(チョコ、チョコチョ、コピー、ナッツピー♪)
リズムの取りにくいPちゃんの歌が、頭にお届けされてくる。
俺は心を無にして、次の目的地へ向かった。
「へいっ、いらっしゃい」
店の中に入り、しょう油ラーメンの食券を買う。
1杯550円、昔ながらの中華そば。こういうのが俺は好きだった。
(ここで食べるのですピ?)
(違うよ、今日はスキル取得のお祝いだ)
「はい、おまちっ」
店主が見ていないスキを窺い、出された中華そばの中身を空間庫に入れる。
中華そば(中身のみ)1
できた。容器に入れてないラーメンが中身のみで収納されている。
「ご馳走さま」
出して十数秒でどんぶりが空になり、不思議そうにしている店主を後に、店を出た。
家に帰り着き、ラーメンを入れるどんぶりと、取り分け用のシリコンカップ、箸を持つ。
「あそこのラーメン、安いけど美味いんだ。Pちゃんにも食べさせたくてさ」
台所に賢者の家を出現させる。楕円の膜が現れた。
「でもどうせなら、気持ち良い場所で食べよう」
1辺10メートル、1000立方メートルになっているということは、芝生は広くなり、ソファーも違う変化を起こしているかもしれない。
うーん、でもソファーはあの手触りが良いなあ。
膜の中に入る。中を見て、危うくどんぶりを落としかけた。
「あれ? 間違えた?」
確かに下面の芝生は広くなっていた。
しかしそこにはソファーはなく、代わりに一軒の納屋が青空の中、ぽつんと建っていた。
「…どなたか、いらっしゃいます?」
読んでくれてありがとうm(_ _)m感謝の絵描き歌を作りたい




