癒やしの手触りピヨピヨちゃん
眠くなってまいりました。
ベリッベリベリッ
ガムテープをはがし、ガラスの鎧がいつものガラステーブルへ戻った。
「とりあえず、お茶飲も」
冷蔵庫からペットボトルの冷たいお茶を取り出し、コップに注ぐと一気に飲み干した。
「かあー美味いっ」
興奮していた体が一気に冷される。2杯目を注いでいると、シンクに置かれた、皿に乗っている金色のティッシュと、液体が入ったコップに目がいった。
「あー、なんて言ったっけ? ゴールドスライムか」
隣の金色に染まったティッシュも皿の上で溶けていないし、もう流しに捨てても大丈夫だろう。
液体が入ったコップを手に取ると、中の液体が金色に揺らめいた。
「キレイだな…そうだ。鑑定!…なんちゃってえー」
そのままシンクに流そうとした時、自分の意識とは違う言葉が頭の中に浮かんだ。
ゴールドスライム(はぐれ)の原液
原液のまま20ml飲めば蘇生
(死後3分まで)全修復及び回復
原液のまま10ml飲めば全回復
及び欠損及び内蔵損傷修復
原液のまま5ml飲めば全回復及び欠損修復
原液のまま1ml飲めば全回復
「これは…ヤバいだろ」
お茶のペットボトルをその場に置くと、皿に乗せていた原液まみれのティッシュを、コップの上でキュッと絞った。うん、かなり残ってた。そしてコップの口にラップをかけ、ほとんど何も入っていない冷蔵庫の中にしまった。
今は午前7時、いつもの俺の起きる時間だ。
今日は土曜日だが、豆柴を連れたおばさんが公園の方へ向かって歩いていく。自転車のが何台か通り過ぎる。
いつもの風景。でも俺の部屋にはダンジョンがあるという…。
「テレビはっと…いつもと変わらず」
テレビを消し、スマホを眺める…。
「どうなってんだよ…」
画面は暗いまま、goo○leも出てこない。これじゃあ調べようがない。
「もう一台買う余裕なんてないぞ…」
がっくりしながら、画面を擦っていると、白文字が浮かび上がる。
世界の理を違う器に入れ替えますか?
はい いいえ
「え? 何? 世界の理?」
思わず「はい」をタップ。
対象物を決めてください
次の指示が出た。対象物? …急に言われても。
対象物に今の器を付けてください
10秒後に移乗します
「あ、ちょっと待って」
画面の数字が10から9、8へ変わっていく。おいおい!
俺は急いで部屋を見回す。
「あ、これで良いかっ」
手に取ったものをスマホに重ねた。一瞬スマホとそれが光り、すぐ収まる。
「成功か?」
スマホ画面を見ると、いつもの壁紙にアプリが並んでいた。そしてもう片方の手には…。
「…いつまでも掴んでないで離してくださいピ」
「う、うん、ごめん」
俺はそれをそっとテーブルの上に降ろした。
「歩きにくい器ですピ」
トテトテと、ほぼまん丸の水色ヒヨコが、テーブルの上を歩いている。黄色いくちばしとつぶらな瞳がなんとも可愛らしい。
ずいぶん前にクレーンゲームで取った「癒やしの手触りピヨピヨちゃん」
…俺疲れてたから…。
「てか、話せるの?」
「話します。他にもありますが、意思疎通手段の1つですピ」
短い羽を組み、当たり前だというようにピヨピヨちゃんが言う。…羽なんてあったのか。
「君が世界の理?」
「そうです。ところで何故私は、ピッピ言ってるんでしょうピ?」
首がないからか、体ごと少し傾ける。くう、カワイイなおい。
「ヒヨコだから?」
「そこにアイデンティティは求めてないのですが…ピ」
「それより君に聞きたいことが…うーん、君っていうのもな…。なあ、名前つけてもいいか?」
ヒヨコは俺を見上げ目をパチクリ。まぶたあったのね…。
「認識しやすいようにですね。問題ありませんピ」
「じゃあ、ピヨピヨちゃんで」
「却下ピ」
「なんでだよ、かわいいだろ」
「もっと私にしっくりくる記号が良いですピ」
「…じゃあ、P」
「認識しました。私は今からPですピ」
「じゃあPちゃんさ、今の状況ってどういうこと?」
「P…ちゃん…まあ良いですピ」
Pちゃんはちょっと固まってから口を開いた。
これも何かのご縁。ありがとうm(_ _)m