策士再び
「えええ…。Pちゃん…そりゃあないよ」
暗い場所から、急に明るい場所に出たかのように、視界が白く染まる。
ボヤけた光の世界で、自分の立ち位置さえ分からない。
眩しい…俺はこんな場所で戦っていたのか。
「航平なら大丈夫ですピ」
光の中、いつものPちゃんの声が聞こえた。それだけで、ちょっと安心した。
今攻撃されたらヤバい…
手の感覚を頼りに、バッグを背中側へかけ直す。
手にキラーアントの牙を握り、気配察知と空間把握を放つ。
放った途端に、首にひんやりと冷たい息を感じた。
と同時に体からズルリと何かが抜ける。
それは今まで味わったことのない感覚だった。
「うっ!」
払おうとした時には、もうそこにアンシリは居なかった。
Lv14 生命力 900/980 魔力 490/490
生命力が減っていた。
生命力吸引…。
ぶるっと、寒くもないのに震える。
動かなければ1秒で1ポイント回復するが、それより多くの生命力が吸われることは分かっていた。
「航平、呼吸を整えてくださいピ」
背中からのPちゃんの声に、俺は深呼吸をひとつする。
視界はボヤけたままだったが、明るさには目が慣れてきたのか、周りの様子が少しずつ見えてきた。
また首筋に冷たい息を感じ、ズルリ…と抜かれる。思わず手で払う。
これは、たまったもんじゃない…くそっ
手で払っても居ないのは分かっていたが、近くには居るはずだ。
耳に音を集めることに集中する。
左前方から微かな空気の揺れと、羽音が聞こえた。
はっきりしないボヤけた空間に、キラーアントの牙を振る。
グニッ
何かが当たった感触が伝わる。
ただ切った感覚ではなく、ゴムを叩いたような手応えだった。
正面にぼんやりと光の玉が出来上がっていき、放たれたのが見えた。
はやっ!
避けることができず、腹にまともに食らう。
Pちゃんを背中側にしておいて良かった。
しかも魔法耐性のお陰で、美波が子供の時、飛び付いてきたくらいの衝撃だった。
やれるっ
光の玉が発射されたほうに駆け寄る。
また光の玉が、今度は右前から放たれた。急停止し右に飛ぶ。
左腕にかすった。
全身の力を抜く。左の首筋に空気の揺らぎを感じた瞬間、左手で払った。手の甲にアンシリが当たった感触があり、床にぶつかった音がした。
すかさずその音がした床へ水の刃を放つ。細かい水しぶきと大理石の欠片が、体に当たった。
ヤッたか?
首筋にアンシリがしがみついてきた。
ああ、やっぱこれしかないか…嫌だけど…
俺はアンシリを手で払わず、吸われるがままにさせた。
「ピ! 航平!?」
動かなくなった俺を心配する声が背中から聞こえる。
Lv14 生命力243/980 魔力481/490
ズル…ズルリズルリ…生命力が抜けていく。
Lv14 生命力143/980 魔力482/490
立っているのがしんどくなり、堪らず膝をつく。
「航平! 航平! ピィピィ!」
…首元で見えないが、アンシリはきっと笑っている。
勝利を確信して。生命力を吸い尽くすことに夢中になって。
Lv14 生命力 43/980 魔力483/490
俺は両膝をついたまま、空間庫からゴールドスライムの原液を吸ったティッシュを取り出し、口に含んだ。
…うまっ!
ゴールドスライムの原液は、蜂蜜のように甘かった。
体が温かくなり、生きる力が、蘇っていくのが分かる。
Lv14 生命力980/980 魔力480/490
降ろしていた右手の中で、小さな水刃を作り、水操作で手の中に隠したのを、生命力を吸うことに夢中になっているアンシリは気づかない。
首を動かさないまま、左手で首筋のアンシリを掴む。
驚いたように、体を固くしたのが伝わってきた。
掴まれた腰と両腕を抜こうと、上半身を左右に振っているのが分かる。
「…俺の勝ちだ」
右手の中で作った小さな水刃を、近距離から掴んでいるアンシリに放った。
ギギィッ…
ボヤけた視界の中、アンシリの上半身が離れ、下半身が握っていた手の中から消えた。
レベルが上がりました
レベルが上がりました
生命力130ポイント 魔力100ポイント
身体能力各20ポイント
身体操作2を取得しました
呼吸法2に向上しました
水魔法3に向上しました
賢者の家4(10m×10m×10m)が解放されました
「…はあ〜、取れた」
身体操作のスキルを取得できた。しかも2だ。
「航平! やりましたピ!」
立膝から正座になった俺の肩に、Pちゃんが飛び移ってきた。
「ああ…なんとか」
肩に止まった水色のまん丸ヒヨコがはっきり見える。うん、可愛い。
「あれ? 目が治ってる!」
「元々あるスキルを強引に下げるので、行使した相手を消滅させれば戻りますピ。想定済みですピ」
Pちゃんが丸い体でふん反り返る。
良かった…ほんと良かった
また眼鏡に戻ったら、フレームはゴールドスライムに溶かされたから、買い直さなきゃいけないところだった。
「でも、あいつのお陰でもあるな」
口の中で噛み締めていたティッシュを吐き出した。
「…しかも予想外に美味かったし」
ティッシュを吐き捨てていくのもなんなので、空間庫に仕舞う。
ふと、アンシリの下半身が消えた左手の中に、何かあることに気付いた。
握り締めていた手を開く。
そこには光るビー玉と、銀色の細いチェーンの先に、チビた鉛筆のような形の水晶が付いた、ネックレスがあった。
アンシリドロップ:守りのネックレス
装着すると見えない光の膜で全身を包む 防御力+15
:光魔法オーブ 光魔法3
「出たーー!」
光魔法3のオーブだ!
「ピ! やったですピ! 素晴らしいですピ! 航平なら取れると思ってましたピィ!」
「あ、ああ…」
俺が身体操作スキルを取得した時より、喜んでいるような…
「早く取得して、私に光の膜をかけてくださいピ!」
昨日の風呂後の会話を思い出す。
…また、やられたのか?
読んでくれてありがとうm(_ _)m感謝が溢れてしょうがないので寝ます 誤字脱字スイマセン。またこっそり直してます




