俺には止められない
「すごいですピ! 航平はおじいちゃんじゃありませんピ!」
Pちゃんが座り込む俺の左肩に乗り、羽をバタつかせる。
「初めからだ」
取りあえずオノカブトのドロップ品を鑑定する。
気になる物が転がっていた。
オノカブトドロップ:カブトの手斧
鋭い切れ味と耐久性を持つ
カブトの兜(呪)
軽量だが頑丈、被ると見境なく凶暴化
なぜ手斧? あいつはまだ成長途中だったのか? だから小さめサイズ?
まあそれは良い。斧技スキルは持っていないし、手斧の方が使い勝手が良さそうだ。
それよりも、カブトの兜って…。
そこはカブトの盾とか甲殻の盾とかでしょ!? あの魔物ならそうだろぉ!
しかも呪われてるし!
兜じゃ内臓ヤラれちゃうよ…? 凶暴化までして。
「…行こうか、Pちゃん」
「…ピ」
俺はミカン大の魔石と、カブトの兜と手斧を空間庫に収納する。
「あ、そうだ、そういえばレベルが上がって新しいスキルと、賢者の家が3になったんだ」
「ちゃんと確認したほうが良いですピ」
「そうだな。ステータスオープン」
Lv14 田所航平(タドコロコウヘイ) 23才
種族:人間
職業:サラリーマン(低)
生命力: 980/980
魔力: 490/490
体力: 84
筋力: 72
防御力: 72
素早さ: 91
幸運: 200
魔法(全適性):水魔法2 風魔法3
スキル:見切り1 駿足1 呼吸法1 絶対防御2
気配探知3 空間把握3 隠密5 罠解除6
鑑定10 異常耐性10 魔法耐性10 眼調整10
空間庫10 生命力回復10 魔力回復10
ユニークスキル:賢者の家3 (5m×5m×5m)
魂の絆:***に創られし叡智 P
称号:「始まりを知る者」「立ち向かいし者」
「幸運の尻尾を掴む者」
見切りって、カッコいいな! もう忍者じゃなきゃおかしいだろ。
「航平は眼調整10ですから、前に言った通り、新幹線が三輪車ぐらいのスピードに見えているはずですピ?」
「うん、魔物の攻撃をかわす時、実際よりかなりゆっくり見えてると思う。じゃなきゃ避けられないね」
「もし新幹線以上の速さの攻撃を受けた時、眼調整でゆっくり見えても、かわすのには筋力と素早さが高くないと避けきれませんピ。でも見切りがあれば、動こうと意識する前に身体が動いて、攻撃を避けられますピ。スキルレベルがもっと向上すれば、見ていなくても避けられますピ」
Pちゃんが興奮したように、肩から頭の上に止まる。
「ほお」
よく分からないが、死に難くなるんだろう。
「…航平、賢者の家も確認してくださいピ」
頭の上から投げやりなPちゃんの声が聞こえる。なぜだ?
「は、はい。…賢者の家っ」
あまり期待をせず、目の前に賢者の家を出現させる。
ファンッ
いつもの半透明な楕円の膜が現れた。
また木製のベンチが変わってるかな? 5人がけになってたり…。そしたら手すりくらいは欲しいぞ?
予想通り、中の物は変わっていた。形は予想外だったが…。
「…ソファーか?」
中には布張りのラブソファーが、家具売り場に置かれているかのように鎮座していた。
「ピ! これは良いものですピ!」
Pちゃんが俺の頭から、ソファーに飛び乗る。
短い脚には丸椅子やベンチと同じような木。座面はダークブラウン。
ただ、布か革か短い毛皮か…素材がさっぱり分からない。
そっと座面に触ってみて驚いた。
「これは……Pちゃん並みの手触り!」
ふわふわのサラサラのしっとりだ! コロコロ転がっているPちゃんの隣に腰を降ろす。
「!?」
尻を硬過ぎず柔らか過ぎず包み込む、極上の座り心地。
寄りかかり、頭を預ける所までも、極上のフィット感。
「…鑑定」
賢者の休憩所:癒やしのソファー
「それだけっ!? …イヤでも、十分だ」
天井も側面も青空。足元の芝生がキラキラしている気がする。
気持ちが良い…。
しばらくPちゃんと一緒にソファーを堪能した。
賢者の家のスキルを取得して良かったと、心の底から感じていた。
「解除」
賢者の休憩所で1時間くらいぼんやりし、外に出た。
随分長居してしまった。Pちゃんが昼寝をし、俺もウトウトしてしまったからだ。
でも悔いはない。
それほど、気持ち良かった。
「よしっ。なんだかすっきりリフレッシュした! 行こうか、Pちゃん!」
「ピ!」
俺たちはモグラを目指し、また歩き出した。
慣れてきたのか、さほど集中しなくても、二等辺三角形の先にいる小さな反応を捉えることができた。
「なんだか体も軽い感じだ」
「私もですピ」
Pちゃんがバッグから出て、俺の周りを飛び回る。
魔物に遭遇することもなく、順調にオノカブトの森を抜け、10階と似たような草原に出た。
「俺の幸運200MAXがようやく起きてくれたかな」
「航平がまた強くなったのですピ」
…そうかな? でもオノカブトは接着剤が無かったら結構危なかったぞ?
「あれ? でも仮に俺が強くなってて、魔物が避け出したとしたら、臆病なそいつらは逃げちゃうんじゃないか?」
草原には所々小さな穴が空いている。
「転移モグラが怖がるのは大声、敵意、殺気ですピ。だからまだ逃げませんピ」
Pちゃんがバッグの中から小さく言う。
確かに、気配探知に引っ掛かっている小さな反応はまだそのままだ。
「…わかった」
しばらく行くと草原の中に、小さな蟻塚のような土の盛り上がりが、いくつもできている場所が見えてきた。
空間把握と気配探知は、その場所が終着点であることを示している。
「Pちゃん…やっぱり幸運200MAXが仕事し出したよ」
俺は小さく囁いた。
10メートル先に、茶色いモノが草の上に横たわっている。
まるで日光浴をするように。
その姿を見た俺に衝撃が走る。
「…Pちゃん、俺、駄目かも」
「ピ?」
Pちゃんが体を傾ける。
俺には分かっていた。自分が確実に大声を出すことを。
それは抗えない、強い感情。
「…ありえないほどかわいいぞ、あいつら」
読んでくれてありがとうm(_ _)m駆け込み乗車ばかりの毎日




