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それぞれの出会い





「おはようございます」


 軽くノックをしギルドマスター室に入ると、奥正面に置かれたアンティーク調の書斎机に座り、ノートパソコンを開いていた二葉さんが顔を上げた。硝子戸がついた重厚な本棚、ローテーブルやソファーもベージュやブラウンの落ち着いた色合いだ。


 美津さんの部屋とは真逆だな。


「おはようございます皆さん。準備はできているのでいつでも行けますよ」


 二葉さんがにっこりと微笑みながら立ち上がり、俺たちの方に近づいてくる。


『おぅ……なんて美しいんだ。俺はアレン、お目にかかれて光栄です』


 装備一式の入ったデカいバッグを横に置くと、アレンが片手を腹に当て騎士のようにお辞儀をした。


『イーサンだ。君がここのギルドマスターか……本当に?』


 イーサンが同じように荷物を置き、サングラスを外しながら不遠慮に二葉さんを上から下まで眺める。


『なんだイーサン、二葉に対して失礼だろ。二葉は福岡ギルドマスターであり、ダンジョン情報番組のアンカーだぞ』


 アレンは二葉さんがやっているインスタライブのフォロワーで、他所属の探索者軍人も多くフォローしていると言っていた。


『あー、すまない。で、その格好でダンジョンに潜るわけじゃないよな? 俺たちも着替えるからロッカールームを貸してくれないか?』


 二葉さんの服装は微かに光沢のある白い一枚布を使ったワンピースのような服で、ウエスト部分に片翼の形をした銀色の留め具がついた革のベルト、同じ革製のウエストポーチが付いていた。膝丈のスカートから伸びる足には黒いスパッツと編み上げブーツを履いている。肩にかかる柔らかそうな黒髪と、うっすら上気した頬にピンクの唇……。


「あの──」


 二葉さんがなにか言いかけた時、アレンがイーサンの胸を軽く叩いた。


『よく似合ってるじゃないか。まるでギリシャ神話のニンフのようだよ』


 ニンフって確か妖精だったっけ? 確かに身軽な妖精っぽいな。


 それに素材の布に見覚えがあった。二葉さんに無断でするのは少し気が引けるが鑑定してみる。


『ニンフに見えたって実際は人間だ。見ろよ、ヒラヒラしてとてもダンジョンに潜るとは思えん』


 イーサンが呆れたように肩をすくめた。これは二人に話しておいたほうが良さそうだ。


『イーサン、二葉さんが着ているのは──』


『この服は私のためにつぐみさんが作ってくれた探索用装備です。すごく素敵でしょう』


 俺が説明する前に、そう言って二葉さんが目の前でくるりと回ってみせた。ふわりとスカートの裾が広がる。


(航平、どうやら二葉に通訳はいらないみたいですピ)


(ああ、そういえばインスタライブを海外に向けて発信してるんだもんな……でもあの装備、またつぐみさんがエライもん作ってるよ)


『その服が探索用だって?』


 緑色の鋭い目が細くなった。


『あのなイーサン、二葉さんの装備は魔物のドロップ素材で出来てる。装備統括のテイラーが作った物で、素早さ+90、防御力+70、それにあのベルト。片翼のバックルは物理攻撃を三割軽減させる品だ。ミスリルの他に違う物も入ってるけど、まあいいか。ポーチはテイラーがつけたみたいだけど』


 銀色の片翼は宝箱から出た『不死鳥の翼』というものらしい。白く少し光沢のある布は、品川ダンジョンにいた6畳くらいある白蝶、ホワイトデビルバタフライLv105のレアドロップ品だ。


 素早くひらひらと攻撃を躱し、少しずつストローのような口で生命力を吸引、動けなくなると獲物に止まり、生命力が回復するのを待ってまた吸引するという、えげつない攻撃パターンを持つ魔物だ。


 そんな魔物からドロップした布が、こんな女神様が着てそうな服になるとはね……。素早さ加算凄いことになってるし、これはあれだ『みかわしの服』だな……。やだカッコいい。


『ハア!? 素早さ+90に防御力+70!?』


『嘘だろ……しかも『ミスリル』ってあの物語に出てくる幻の金属と同じ名前じゃないか』


 アレンが信じられないというように頭に手を置く。


『たぶん同じか、俺たちが理解しやすいようつけられた名称かもね。ちなみにスパッツは耐火、耐刃製、ギルドの武器屋で売ってるよ。ブーツは──』


「この三秒ブーツは武器屋には売ってないわ。軽くて動きやすいし、瞬間移動もできるブーツなんだけど、ただ一回使うと次に使えるまで一日かかっちゃうから、いざって時に使いなねって、高知でドロップした物を美津がくれたんです。三秒間の瞬間移動だから三秒ブーツって私は呼んでるの」


 二人がマイガ……と呟いている前を通り過ぎ、二葉さんが嬉しそうにアンティークのワードローブから、銀色に輝く美しい弓と革張りの矢筒を取り出す。


『装備も凄いんですけど、武器も凄いんです。これはミスリルの弓で、弦が──』


『……ちょっと待った! 分かった』


 イーサンがストップというように片手を上げた。両手で銀色の弓を握ったままの二葉さんが首を傾ける。


『その、なんだ……すまなかった。完璧な装備だ。ギルドマスター、同行の許可を感謝します』


 そう言って右手を差し出すと、隣のアレンも真剣な顔で手を差し出した。


『いえ、こちらこそ。福岡ダンジョン攻略に参加して下さりありがとうございます』


 二葉さんがにっこりと微笑みながらその手を握り返していく。笑顔が輝いて見えたのは俺だけじゃないはず……アレンはもちろん、あのイーサンでさえちょっと照れ顔だ。


(二葉さん、魅了とか操心スキル使ってない?)


(使ってませんピ。強いて言うなら基礎的な魅力ですピ。航平も見習うと良いですピ)


「……じゃあ二人をロッカーに案内して来るんで──」


 Pちゃんの助言は無視して、二葉さんにPちゃんとマシロのいるウエストバッグを外して渡す。


「その間に、Pちゃんとマシロになにかおやつをあげてもらっていいですか?」


 小声で二葉さんにお願いする。


「はい、喜んで」


 二葉さんがそっと抱くようにウエストバッグを受け取ると、嬉しそうに笑った。……魅力爆発。


『コウヘイの荷物はあれだけだろ? ベガスの時もそうだが……なにが入っているんだ?』


 イーサンが不思議そうに二葉さんが抱えたバッグを覗き込んだ。


『ああ、まあ大事なものだよ』


『そんなに大事なものなんだ?』


 アレンも興味深そうにバッグを見る。


『うん、凄くね。……命くらい』


(……良い心がけですピ)


 訳すの照れたな?


『じゃあロッカーに案内するよ』


 二人を連れてギルマス部屋を出ると、カウンター内側では宮内さんを始め、他のスタッフも忙しそうに探索者の対応に追われていた。


 さっきよりなんか人数が……。


 いつもギルドの開く前にダンジョンに入っていたが、今日は正規ルートで福岡に来たため時刻は10時を回っていた。


「……おい、出て来たぞ」

「やべえ、俺初めて見た」

「……格好良い」


 小さなささやき声が耳に届く。


 え? 出待ち? イーサンたちは探索者であってモデルじゃないよ?


「どう?」

「なんだこれは……文字が」

「でも服装が……」

「そこが良いんだろ」

「そうよ」


 これはヤバい。早いとこイーサンたちを着替えさせてダンジョンに潜らないと、俺も巻き添えで注目されてしまう。……こんな所で吐きたくはない。


 カウンターの跳ね板をさっさと自分であげて二人を通すと、三階に上がる階段に急いだ。




 


読んでくれてありがとうm(_ _)m


ざわざわ……ざわざわ……

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― 新着の感想 ―
[一言] 何で自国のダンジョンほったらかしにして他国に行けるの?普通の政府なら許さないでしょう?そもそもこの小説って政府って存在するの?まったく政府が絡む話が出てこないのは何で?
[良い点] 日本のダンジョンだけハイファンタジー感 (他国はロー) [一言] 塩顔のイケメン。ただし服装その他の補正でマイナス補正大って認識だったけど、上方修正が要るか・・・? 映画の撮影に見えたのも…
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