八王子ダンジョン攻略
ギギャッ、グフゥ……
俺が雷刃で次々に軍隊トカゲを消滅させている横で、遠野さんが跳躍しながらミスリルダガーを振るい、確実に急所を突いていく。ひとつも無駄のない動き。まさに闇に動く仕事人……。
「さすがですね、遠野さん!」
「一応ギルマス──なのでっ!」
淡く光る仲間を踏み越え、新たな軍隊トカゲが遠野さんにギザギザとした歯をむく。
ヒュッ ガギンッ
俺たちの後から飛来した流れ星のようなものが、その鋭い歯を折り、口に入り込む。次の瞬間、トカゲの内側から雷がほとばしり、断末魔を上げることなく淡く光って消滅した。
「お星さまのつぎはまっくろくろべえですよー」
宙に浮いたエミーナが、小さな手で引いたパチンコ玉をぱっと離す。
ドゴッ
放たれた黒い弾丸がトカゲの胴体ではなく尾を貫通した。
「おしいっ」
思わず言ってしまった俺に、遠野さんがにやりと笑う。
「エミの水、風、雷も大したものですが、闇魔法もなかなかどうして───」
尾を打ち抜かれたトカゲは動かない。そんなに大したダメージではないはずが、口からよだれを垂らし、小刻みに震えているのが分かった。
「とおさんのばんですよ」
エミーナの声を受け、遠野さんがその動かないトカゲの首を掻き切った。
「エミの『まっくろくろべえ』はその玉に触れただけで、体の『影』の部分、手足、首、まつ毛にできた陰影さえも繋いで固定する闇魔法、つまり自分自身の影に捕縛されるわけです」
消えていくトカゲの隣で、遠野さんが満足そうに笑った。
確かに凄いけど、そんなクールに『まっくろくろべえ』って言われても……。
「こんどはドロダンゴですよー」
心でツッコミを入れている俺の横を、シュッと土礫が通り過ぎる。土礫が当たったトカゲが一瞬で泥でできた像のように固まった。
「闇魔法もかなりのものですが、土魔法もなかなかどうして」
遠野さんが泥で固まって動けないトカゲのとどめを刺す。そう、エミーナは光魔法以外の適性を持つ6属性使い。俺が知っている中で一番属性が多かったのは美波の5属性、ついで母さんの4属性。
エミーナが闇魔法を取得したと聞いた時は正直驚いた。Pちゃんによれば光の適性者は10%ほどで、更に闇は1%にも満たないらしい。だからどちらか適性があるだけでも珍しいといえる。
「私は火と水、風魔法のみなので、少し悔しくもありますね。どうせならエミーナには田所さんと同じく全属性であってほしかった」
そう言ってちっとも悔しそうに見えない顔で笑った。確かにエミーナの6属性には驚いた。でももっと驚いたのは、いまエミーナが乗っている『高台』だ。
「エミーナの───」
「トカゲがまた戻って行きます!」
見るとこちらに太い尾を向け、全ての軍隊トカゲが元ティラノサウルスの集合体へと向かっていた。
「田所さんあれは……」
「とおさん! あれは『おおだまころがし』ですよ! エミしってます、日本の子どもたちがころがします。『うんどうかい』というんですよ!」
エミーナは嬉しそうに叫ぶと、高台からゆっくり降りてきた。
「テレビでみたんですよ」
得意そうに俺たちを見上げ、かわいい子羊がにぱっと笑う。
そうしている間にもどんどん軍隊トカゲが寄り集まり、巨大な岩石の形を成していく。
「エミちゃん、大玉は大玉だけどあれは危ない大玉だ。しかも塊全体に攻撃してもさっきみたいにバラけちゃうんだ。だからまたもっともーっと高い所に───」
俺が上の方を指差すと、エミーナがぱっと両手を上げた。
「なかよしですよ」
「え?」
思わず聞き返した俺ににぱっと笑い、とうとう一匹残らず寄り集まり、丸い集合体となった軍隊トカゲにその可愛らしい手のひらを向けた。
「『なかよし』!」
小さな両手が黒く光り、その黒い光が巨大岩石となった軍隊トカゲを包み込み、岩肌に染み込むように消えた。
「……ん?」
肉食系:軍隊トカゲ Lv60
攻撃パターン:体当たり、光魔法3、火魔法4
集合体となって大型魔物の姿をとる。魔法耐性4
攻撃に対し分離し回避、また集合体となり相手を攻撃する(統一化中の為不可)
弱点:雷魔法、闇魔法、物理攻撃
……んん!? どうして一匹だけの魔物鑑定? 統一化中の為不可ってなんだ!?
「なかよしのうちにやっつけてくださいですよ、コウにいちゃん」
混乱している俺の手をエミーナが引っ張る。
「田所さん、今です! 煉獄!」
遠野さんがメロウの果肉を焼き落とした時よりも遥かに強い炎で、軍隊トカゲを焦がす。ただ魔法耐性4の軍隊トカゲに一撃とはいかない。
「……落雷」
バリバリバリッ……
ドガーンッ
落雷の直撃を受けた軍隊トカゲの岩石が、淡く光って消滅した。
「えええ……?」
「さすがです! 田所さん」
遠野親子が満面の笑みで駆け寄ってくる。
レベルが上がりました
生命力800ポイント 魔力500ポイント
基礎能力値各120ポイント向上
賢者の家25に向上 1100km×1100km×1100kmが解放されました
品川ダンジョン主討伐以来のレベルアップだ。もうレベルアップもなかなかしなくなってきていただけに、ちょっと嬉しい。しかも賢者の家25になった。
賢者の家24の時は900kmだったのが1000km超えてきたぞ! やったね! ……いやいや待て待て俺! それよりも……。
「…あのさエミちゃん、『なかよし』って……なに?」
「なかよしは、なかよくすることですよ」
エミーナがにぱっと笑ったとき、
『80階層のダンジョン主が討伐されました。報奨を選択してください』
自分の声ではない、あの脳内アナウンスが流れる。遠野さんがエミーナを抱き上げながら、俺を見て頷いた。
「各階層に宝箱でお願いします」
黄色く濁ったジュラ紀の森の空が点滅する。
『80階層のダンジョン主が討伐されました。報奨としてこのダンジョンに限り、各階層に宝箱が出現します』
アナウンスが響く中、
「こんどみんなで『うんどうかい』やりたいですよ」
遠野さんに抱っこされた子羊エミーナが、にぱっと笑った。
読んでくれてありがとうm(_ _)m
エミーナの謎がまたふたつ……ふっへっへ




