憧れの鎧
「呼吸法1は細胞が効率良く酸素を取り込み、身体能力を少し上げてくれますピ」
自然とヒッヒッフーをしていた俺にPちゃんが教えてくれる。
「後は、10分くらいなら呼吸を止められますピ」
「へえ! すごいなっ。俺水泳で息継ぎ苦手だったんだよ。今度市民プールで試してみるかな」
…が、大人になって市民プールに行くのは勇気120%要。俺にはハードルが高過ぎる!
「それは良い考えですピ! 息継ぎ無しで10分泳いでいたら、他の人間は怖がって近づきませんピ。自由に使えますピ」
Pちゃんの視点はちょっと違う。
「…風呂で試すわ。よし、じゃあ行くか」
コッペパン型バッグ、ジーンズ、「ちゃんぽん」トレーナー、トランクスと全部脱いで水を絞ったが、まだびしょ濡れだ。気持ち悪いがじっとしているより、動いて乾かしたほうが良いだろう。
バッグが乾くまで、Pちゃんは俺の濡れている左肩に止まる。嫌そうに乗ってきた。軽く傷付く。
地底湖を迂回しようと歩き始めた時、水魔法の確認をしていなかったことを思い出す。
「あ、そうだ…水弾っ」
手のひらを地底湖に向け唱える。
手に先からソフトボール大の水の球が勢い良く飛び、湖面にバシャッとぶつかった。
ライフで確認すると魔力が3ポイント減っていた。
魔力は生命力と違い、身体が動いていても、魔力自体使わなければ10秒で1ポイント回復する。
3ポイントなら30秒で回復だ。
「んー、嬉しいけど威力はイマイチ」
「レベルが上がればスキルも上がりますピ。使えば使うほど、スキル単独でも上がりますピ。それに今後、今より魔法レベルの高いオーブが手に入れば、レベルが高いほうへ上書きされますピ」
「へえ、じゃあ次に水魔法オーブ4が手に入ったら、水魔法1が一気に水魔法4になるんだ?」
「水魔法4のオーブなら、地下18階から最下層20階くらいの魔物が持っているかもしれませんピ。宝箱もその辺りにある…」
「1を大切に育てます」
俺は即答した。
「航平、水魔法1は水弾だけじゃなく、水自体も少し操れますピ。使い勝手は良いはずですピ」
水自体も操る、か…
Pちゃんの言葉を聞き、良いことを思いついた。
バッグを外し、岩の上に置く。
まずは髪の毛から「ちゃんぽん」トレーナーにかけ、意識を集中する。
髪、襟首、両腕、胴体部、裾…繊維に染み込んだ水を指先に集めるイメージ。
タラタラタラッ
指先から蛇口を少し開けたような、細い水が流れ落ちた。
「…やったっ」
髪も、「ちゃんぽん」トレーナーも乾いていた。
続いてトランクスとジーンズ、靴下、スニーカーの水も、足元から出すように集中、みるみる足元に水溜りが広がり、服が乾いていった。
最後にバッグの水も切り、乾いたところで装着。Pちゃんが嬉しそうに入ってくる。
「うーん、これは使えるぞ? 洗濯の脱水も干す手間も省けるんじゃないか? いや逆に非効率か…集中するの疲れるし。雨の日の部屋干しの時に使ってみるか? 水を窓の外か流しに…」
「…航平、闘いで使う用も考えてくださいピ」
Pちゃんの呟きは、考え込む俺には届かなかった。
「あった、階段だ」
服が乾いてから岩を避けつつ進むこと3時間、ようやく地下6階に続く階段にたどり着く。
「何か疲れたな。特にあのビッグスラグが気持ち悪くて…」
その間ブラッドバットを9匹、ビッグスラグを43匹倒していた。
ビッグスラグは、俺の部屋のシングルベッドくらいある、ネバネバしたデカいナメクジの魔物だった。
強くはないが粘着液を飛ばしてくる。粘着液は強力で、それが固まり身動きが取れなくなったところで、消化液で溶かして食べるという、えげつない攻撃パターンを持っていた。
俺は全部避けられたけどね。眼が良いから。
「航平が空間把握と気配探知で、積極的に探しているように見えましたピ?」
Pちゃんがバッグから顔を出す。
「まあね。お陰でレベルも上がった」
レベルは13になり、空間把握と気配探知がそれぞれ3に向上していた。
「素晴らしいですピ。真摯にレベルを上げ…」
「だってさ、これをドロップするんだよ?」
空間庫から、ビッグスラグドロップを取り出す。
ビッグスラグドロップ:ビッグスラグの接着剤20ml×23
(魔力が練り込まれた強固な接着力を持つ、
全ての素材に利用可)
ビッグスラグのリムーバー20ml×14
(魔力が練り込まれたビッグスラグの接着剤専用除去液)
初めてドロップ品を見た時、これだ! と直感した。
「このドロップが欲しかったんですか? ピ?」
Pちゃんが不思議そうに体を傾ける。
「ああ、どんな素材でも接着可能なんだってさ。これを使えばデビルフィッシュの鱗で防具が作れると思うんだ」
ブラッドバットの衝撃波は危険だ。
倒した9匹は衝撃波を撃たれる前に風刃で消したが、群れで来られたら避けようがない。
衝撃波に対して俺の絶対防御2が働かない以上、「ちゃんぽん」だけでは、内臓ヤッちゃってくださいと差し出すようなものだ。
「デビルフィッシュの鱗は頑丈そうだし、今のところ使える素材はこれだけだからな。とりあえず肩と首に合わせて切ってみてだなー」
「航平、何で鱗を切るのですピ?」
バッグの中でまたPちゃんが不思議そうに体を傾ける。
「何って、キラーアントの牙?」
「キラーアントの牙では、デビルフィッシュの鱗は切れませんピ」
「え? でも牙でデビルフィッシュのエラ下切って倒したぞ?」
「エラの内部だからですピ。デビルフィッシュの鱗は、鉄の剣でも傷つけられないですピ」
なんですとおお!?
「…じゃあ鱗の鎧は?」
「鱗3枚、ただ付けるだけならできますピ」
「…6階で、よく切れるハサミ、ドロップしないかな」
俺たちはこうして地下6階に降りていった。
読んでくれてありがとうm(_ _)m 投稿ペースが明日からちょっと落ちます。しがない雇われ人なのです。流れて行くんだろうなあ。でもこうして読んで頂けたのもなにかの縁。楽しんで書き続けるので、見かけたらよろしくっ




