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月火水木金仕事、土日休み


「ほう、ダンジョン最下層の主を倒して各階層に宝箱が出現したか。……美波ちゃん、コーヒー煎れるの上手くなったね」


 会議室で美波の入れたコーヒーをすすりながら、千駄木オヤジがにっと笑った。


「ホントですか? やった!」


 美波が嬉しそうに木のお盆を抱きしめる。おーい、お盆割れるぞ。


「各階層に重要アイテムや武器装備が出現すれば、探索者たちの安全性も高まりますね」


 千駄木オヤジの隣に座る徹さんが美しく微笑むと、スクリーンに映るギルドマスターたちもこくりと頷いた。


「つぐみさんや定爺さん、唯さんたちの作る装備や武器は優秀だけど、やはり下層に行けば行くほどより強い武器、装備素材が必要になりそうだね」


 櫻井先生がうーんと腕を組む。確かに……。


「40階層くらいから魔法レベル4くらいないと、魔鉄の武器だけじゃ厳しいです。ミスリルならなんとかなりそうだけど、俺の部屋のダンジョンからしか出てないし、量もそんなにない」


 今のところミスリルは、幻鯨のゲンちゃんがお供えの果物と引き換えにくれる分しか出ていない。一度階段とは逆方向の湖底に潜ってミスリルを探したことがあったが、探知にも引っかからなかった。鑑定をかけまくっても普通の岩の陰に隠れていたら分からない。


 ゲンちゃんの探し方を見学したら、イルカのようなエコーロケーションのコッコッというクリック音を発して、選り分けるように湖底深くから特定の岩を持ってきていた。俺にはただの岩にしか見えなかったけど、鑑定すれば百発百中、中身はいつもミスリルだ。


「武器だけじゃない。八王子ダンジョンの地下24階は地底湖の中に階段がある。収納バッグは容量が倍になったけど水に浸けられない。バリア系の魔法陣はあるけどさ、バッグにはもう描けないし」


 冬馬がブツブツと言いながら、手を頭の後ろで組んだ。


「確か空間拡張とバリア、二つの魔法陣をひとつのものには描けないんですよね?」


 膝の上で寝ているエミーナのふわふわ金髪をそっとなでながら、遠野さんが冬馬に確認する。


「ああ、二つ魔法陣をのせるとどちらも起動しなくなる。酸素ボンベ背負って、武器だけ持って潜っても水中のデビルフィッシュはヤバいし、他の水棲魔物もいる。上手く階段に到達したとしても、食料やポーションがないんじゃ探索を続けるのは無理だろ」


「小型ボンベは10分くらいしか持たないといいますし、私も階段到達まで2時間かかりました。八王子の攻略は手詰まりですね。探索者には地道に訓練してもらって、呼吸法と光魔法を取得してもらうしかない……時間的猶予が気になるところですが」


 遠野さんがため息混じりに言った。


「時間的猶予か。徹、今現在不自然な気象変化はどれくらい確認されている?」


 千駄木オヤジの言葉に、徹さんがパソコンのデータをスクリーン中央に映し出した。


「発生から一週間以内のものが12ヶ所、一週間以上動いていないハリケーン、サイクロンが9ヶ所です。ユーラシア、北アメリカ、アフリカ、南アメリカ、オーストラリア、南極と六大陸全てで確認されています」


「……はは、確認されていないダンジョンが世界中にゴロゴロあるってことだよね」


 美津さんがスクリーンの中で引きつった笑いを浮かべている。


「ピ、気象変化もそうですが、大気の変化もでてきていますピ」


 テーブルに置かれたPちゃんマシロ用のミニ座布団の上で、Pちゃんが片羽を上げる。


「P様、それはどういうことでしょうか?」


「1年前、航平の部屋にダンジョンが出現した時は、ダンジョン外での魔力回復はレベルMAXで100分で1ポイント。今は50分で1ポイントですピ」


 今は50分で1ポイント……え? そうなの? 今度計ってみよう……。


「……つまりそれだけ、この世界の魔力が濃くなってきているということ?」


 スクリーンの二葉さんが口を手で押さえた。


「そうですピ。航平の魔力回復が10秒で1ポイントになった時、それは外界がダンジョンと同じ魔力濃度になったということを意味しますピ」


「……魔物が、ダンジョンから出てこられるということだな」


「そうですピ」


 千駄木オヤジの言葉とPちゃんの肯定に、会議室が静まり返る。


「Pさん、あとどれくらいで、魔力濃度が同じになるのでしょうか?」


 今まで黙っていた紅音さんが口を開いた。


「あくまでも予想ですが、3年以内と思われますピ」


「そんなに早いの……?」


 ひとみさんが小さく息を吐く。


「少しでも魔力を消費するために、魔物を倒して、魔石の回収利用していくしかないね……クククッ。もう腹の探り合いは止めだ。強引にでも電力業界を牛耳ってやる」


 先輩が両手を合わせ目を閉じてから、独り言のように呟いた。


「長、退出させてください。私、北海道ダンジョンの主を討伐してきます」


 紅音さんがすっと席を立った。


「宝箱を出現させ、探索者全員のモチベーション、レベルアップを図りたいので」


「あー、紅音さん! 抜けがけは駄目だよ? 長、私もちょっと行ってきまーす」


 美津さんも席を立つと、二葉さんとひとみさんも同時にそれに続く。


「ちょ、ちょっと」


 俺が慌てて止めようとすると、


「品川は航が倒してくれたから、私は攻略中の68階をまず踏破するわね。今後やってくる探索者さんたちにもっと情報を集めないと」

「あ、お母さん。私も行く」


と、母さんと美波まで立ち上がった。


「私も明日から、もう少しこの子のレベルを上げたいと思います」


 寝入っているエミーナを優しく抱きかかえると、すくっと立ち上がる。


「……俺、収納バッグの改良しなきゃだし、忙しいから帰る」


「各ギルドの医務室に配置する治療者の育成が最終段階なんだよね。ちょっと急ぐかな」


 冬馬、櫻井先生まで椅子から立ち上がった。


「父さん、各国にタイムリミットは知らせますか?」


「いや、まだ伏せておく。徹、明日総理と会う。手配してくれ」


「分かりました」


 ……総理って、あの総理? 手配って……急に会えるもんなの?


(航平はどうしますピ?)


 Pチャンネルを通して声がする。そうだ、耳を疑っている場合じゃない。俺もできる事をしよう。


「ちょっと待って。俺も行く」


「総理に会うか?」


 千駄木オヤジと徹さんが頷きあう。いやいや違うよ? そんな人に会うなんて、吐いちゃうどころの騒ぎじゃなくなる自信がある。


「いえ、そうじゃなくて、各ダンジョン主討伐を俺も手伝います」


「え? 同時に?」


 ひとみさんが驚いたように言うと、立ち上がったみんなが同じように俺を見た。


「いや、同時はさすがに無理なんで、一週間で回ります。明日月曜日は北海道、火曜は八王子、水曜大阪、木曜高知、金曜福岡という感じで」


 土日はお休みでお願いします。


「一日でダンジョン主を倒せると?」


 遠野さんが聞き返してくるのに頷き返した。


「ええ、ただPブートキャンプ並に過酷になると思うので、ギルドマスターの面々には覚悟してもらいますけど……」


 ああ、言っちゃった。……もうやるしかないな。


「分かりました。明日の北海道ダンジョン、よろしくお願い致します」


 紅音さんが深々と頭を下げた。


「死ぬ気でついていきますので、よろしくお願いします。航平さん」

「大阪を一緒に攻略ね。新しいポーション原料が出るかも……ありがとう、航平くん」

「高知の41階に相性の悪い魔物がいるんだよー。ちょっと苦戦してたんだよね。よろしくお願いしますっ」

「福岡に一緒に来ていただけるだけでも心強いです。ありがとう、田所さん。どうぞよろしくお願いします」


 それぞれがスクリーンの向こうで頭を下げてきた。


「すまない航平くん、長としてギルドからも特別手当てを出させてくれ。皆をよろしく頼む」


 千駄木オヤジも深々と頭を下げるなか、美波がにっこり笑って俺を見た。


「こう兄、ちょっとカッコいい」


 ……ちょっとか。


 こうして明日からの、俺の短期バイトが決まった。








読んでくれてありがとうm(_ _)m くうっ、遅くなったぁ



誤字脱字報告ありがとうございます!(`・ω・´)ゞ

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