テレポ対策
「……めっちゃカワイイな」
500メートルほど離れた岩陰から、地下へと続く階段の前でミーアキャットのように後ろ足で立ち上がり、両手の鉤爪をお辞儀前のように揃えている黒テレポを見つめる。気配探知で階段横の巣穴の中にあと8匹、まとまっているのが分かっていた。
「キュイ?」
肩に乗ったマシロがグリグリと頭を頬に押し付けてくる。
「うん、マシロもカワイイぞぉ」
首の下を人差し指でなでると、マシロが気持ち良さそうに目を閉じた。
「ピ、航平──」
「うんうん、Pちゃんもだよ」
反対側の肩に止まっているPちゃんに、うりうりと頬をすり寄せると、高速で突かれた。
「ピ、違います、航平のダンジョンにいるテレポと同じように、お菓子を持って近づくのかと聞こうとしたんですピ」
と、ぷりぷりしながら両羽を組んだ。
「ああ、そのつもりだったんだけど、なんだかうちのテレポたちより、警戒心が強そうなんだよね」
突かれた頬をさすりながら小さく返事をする。
「なぜ階段横に巣を作ったのかは分かりませんが、場所が影響しているのかもしれませんピ」
油断なく辺りを見渡している黒いふわふわのテレポ。たぶんあの子は見張り役なんだろう。
「下に飛ばされてもそのままで探索を続ければいいことですピ」
「確かにそうなんだけどさ、今後探索者たちがここを通るだろ? その度に上に戻されても探索がすすまないし、更に下の階に飛ばされたら危険だし……。43階の他に、テレポっているのかな?」
「他の階層にはいないようですピ。前に1階に現れたレベル87のガランカもこの階から飛ばされましたピ」
確かに黄色い毛に覆われたバス並にデカい毛虫を、ここに来るまでに数匹倒していた。
「あのテレポたちをなんとかしないとな……」
「やっぱり倒しますピ?」
「いや。倒せないからちょっと小技を使うよ。ふたりとも念のためにバッグに戻ってて」
「ピ、小技?」
「キュイ?」
両肩のPちゃんとマシロが不思議そうにしながらも、上部を開けたウエストバッグの中に入っていく。俺は隠密を全開にして、そっと黒テレポたちへ近づいていった。
400メートル、300メートル……まだ気配探知の反応には、気づかれた様子はない。200メートル手前で足を止める。これ以上進めばマシロの強さに反応してしまうかもしれない。
空間庫から蓋つきの小瓶を取り出す。中身のダークグリーンの粉が、日の光を受けキラキラと光っていた。
ポンッ……
蓋を外し、瓶を傾けてトントンと指で軽く叩くと、サラサラと中の粉末が落ちる。
「そよ風」
風操作で粉を流れに乗せ、テレポの巣へと運んで行く。
(ピ、航平……それは)
(ちゃんと窓を閉めてろよ? Pちゃん)
キラキラとわずかに光る一筋の風が、階段上で辺りを見渡している黒テレポにまとわりつくように到達すると、後ろ足で立ち上がっていたテレポがペタリと座り込み、動かなくなった。
(……航平)
(ん、もうちょい)
そのまま風を操り、テレポの巣の中にも流し込んでいく。
「……よし。完了。1時間ってとこかなあ」
「それは『眠り蝶の鱗粉』ですピ」
Pちゃんがバッグの丸窓を開ける。
「ああ、俺が出会った眠り蝶の中で、一番レベルが高い眠り蝶からドロップしたんだよ。あのテレポたちみたいな高レベルの魔物には、1時間くらいしか効かないけど」
隠密を解除して、ゆっくりと動かなくなった黒テレポに近づいていった。
「……おおう、へそ天だ」
黒いふわふわな毛で覆われた腹を上に向け、両手を胸に置いて寝息を立てているテレポをワシャワシャしたい欲求を抑え込み、そっと抱き上げた。
「あとは……『ブロック』」
土魔法3でテレポの巣ごとごっそりと地面からすくい取る。大きな落とし穴のように土がなくなった場所を、周囲から土を集め元通りに埋め立てた。
「Pちゃんマシロ、移動するよ」
片腕の中で寝ているテレポを起こさないよう巨大な土の塊を土操作でまとめ、もう片方の手で持ち上げたままふたりに声をかける。
「はいピ」
「キュイ」
空間把握と気配探知を放ち、階段から一番離れた場所へ駿足で向かった。
「ああ、なるほどね。二等辺三角形の頂点がこの場所じゃ、巣は作れないな」
森を抜けた先、階段から一番離れている場所は沼のような湿地になっていた。
「ということは……」
空間把握と気配探知、捜索を濃密にもう一度放ってみる。するとこの階層がU字に湿地帯で囲まれているのが分かった。下り階段の周りのみが平地、あとは上り階段がある森林と岩場。とりあえずテレポの巣が入った土のブロックを置くと、どうしたものかと考えた。
「どうしますピ?」
「うーん……ここに巣を置いていっても、またもとの場所に戻りそうだな」
「もとの場所より快適であれば、戻ることはありませんピ」
Pちゃんが丸窓から顔を覗かせる。
「……快適であれば、か」
手の中で寝ている黒テレポを、土のブロックの前にそっと下ろした。
「テレポたちが目覚めるまで約30分。よしっ」
湿地に手を伸ばし、火魔法を唱えた。
「火魔法8『炎天』」
湿地帯の5メートル上空に20メートル四方の炎の天井が広がる。その熱で湿地帯の水分とシダ植物が一瞬で蒸発した。
「土魔法6『鋤き返し』」
炎天の下、乾燥した土にヒビが入り、ボコボコと地面が沸騰するように盛り上がっては、ひっくり返されていく。土の動きが落ち着いた時には、湿地帯の一部が20メートル四方の四角く耕された土地に変貌していた。
「あとは、5メートルの穴を空けてっと……」
平らな地面の真ん中に穴を空け、テレポたちを巣ごとその穴にはめ入れる。
「同時に高レベルの魔法を使うとは……ピ、航平、このままではすぐに湿地の水分がまた戻ってきますピ」
「うん、だから今度は──」
テレポの巣が埋まった5メートル四方から少し離れた隅に、エネルギー内包の多い濃い魔石をひとつずつ埋めていった。
「光魔法9『光のドーム』」
地中と上空に光の壁が現れ、森側に隙間を残し、かまくらのような光のドームができあがった。
「ダンジョンの底まで壁は伸びてるから水は染み込んでこないし、上空から敵も入れない。テレポ以外入れないようにしといた。出入り口は森側に開いているから、ダンジョンミミズを狩りに行くにも困らないだろ? ダンジョンの魔力と魔石のエネルギーを使っているから、半永久的にドームが使えてお得だ」
足元で眠っている黒テレポを再び抱き上げ、ドーム手前に下ろす。
「まあ同じ光魔法9で解除されたら消えちゃうけど」
「……ピ、航平が使った光魔法は、失われた世界でも、極少数の賢者しか使えませんピ」
「そっか、じゃあ当分はテレポたちも安全かな。あとは目が覚めて気に入ってくれるといいんだけど……」
「……賢者など、なりたくてもなれるものではありませんピ」
「分かってるって。改めて無職の俺に言わなくても……あ、起きた」
ドーム入口前で寝ていた黒テレポがひょこっと起き上がると、辺りをキョロキョロ見渡した。
「どう? 気に入った? ほら、これ食べてみる?」
差し出したチョコクッキーの匂いをフンフン嗅ぎ、そろそろと近づいてくる。クッキー、俺の手、クッキーと交互に匂いを嗅いでから、小さな両手でクッキーを掴み、口に咥えると巣穴に戻っていった。
「キッ?」
「キュ?」
「キュキュ……」
見張りのテレポが戻った巣穴から、次々と黒毛のテレポが顔を出した。
「うん、大丈夫そうだね。ほら、みんなも食べるか? 美味しいよ」
9匹のテレポがわらわらと光のドームから出てきて、クッキーや板チョコ、シュークリームを持って帰る。そして30分後、俺の手のひらには9粒の魔力丸が乗せられていた。
品川ダンジョン地下43階最奥に、光の神殿がある。その神殿は神々しく、何人も立ち入ることはできない。ただその神殿にお供えをすると、素晴らしいアイテムが貰えることがあるという……そんな噂が流れるのは、もう少し先の話。
読んでくれてありがとうm(_ _)m 更新ゆっくりでも続けていくさ! 目指せゴール!




