ちゃんぽんじゃダメだ
現れた賢者の家は、昨日より出入り口の膜が大きくなっていた。立ったまま、中に入れるほどに。
シャボン玉のような、膜のような独特の弾力を手に感じながら、中に入る。
呼吸は問題なくできるし、匂いもない。
家の部屋より天井の青空も高く、余裕で立っていられる。
立てるだけでこんなに嬉しいとは。
そしてもうひとつ、変化があった。
目の前には昨日の丸椅子ではなく、芝生の上に二人掛けの木製ベンチが置かれている。
レベルによって中も変化するのか…?
ベンチに鑑定をかける。
賢者の休憩所:破壊、搬出不可
「それだけっ?」
つい鑑定さんに突っ込んでしまった。とりあえずベンチに座ってみる。
空に浮かぶ公園にいるようだ。
うん、普通のベンチだ。座り心地は…まあ普通だ。
「Pちゃん、これはレベルが上がれば賢者の家は大きくなって、中に置かれた物も変化するってこと?」
「詳しく分かりませんが、レベル依存で付属の物も同じようですピ」
うーん、これがだんだんでかくなって、100人掛けのベンチとか? いずれ家を建てるとして…邪魔だな。
「よし、確認終わり! 行こう」
微妙な思いは置いておいて、今はレベル上げと宝探しだ。
賢者の家を出て解除し、俺たちは隠し部屋を出た。
「洞穴だ…」
隠し部屋を出た後は、壁、足元の石畳、天井を注意深く見ながら進んだが、特に気になる所も無く、4階を通り過ぎ、5階へ降りてきていた。
1階から4階までのどこか人工物的な階とは違い、5階は岩が剥き出しで、ゴツゴツした足場の洞窟だった。
どこかで水が滴り、水の跳ねる音が微かに反響している。
少し青味がかった明かりの中で、洞窟内の岩の壁面は濡れ光り、じっとりとしていた。
足場も悪いし…こんな所で魔物と戦えるのか?
Pちゃんをバッグに戻すと、気配探知と空間把握の波紋を放つ。
通路のような道は無く、広い円形状をしているようだった。
奥の左隅に階段があるのが伝わってくる。
ダンジョンの穴に落ち、10階で使った時よりも、空間把握の範囲が広がっているように感じ、階段のイメージもぼんやりから、ハッキリと分かるようになっていた。
「…スキル上げは大事だな」
魔物の気配も、塊に感じていたものが、個別に動いているのが分かる。見える範囲にはいないが、進む先に魔物の反応が3匹。
足元に気をつけながら、慎重に進む。
バサッバサッッ
前方の天井から、気配探知に反応のあったモノが飛んでくる。思わず身を屈めた。
それは頭上を通り過ぎ、行ってしまう。
膜のような両翼…俺の知っているコウモリがスズメサイズだとしたら、今のはハシビロコウサイズだ。
1度通り過ぎたデカいコウモリが戻ってくる。
コウモリと目があった。目は血のように真っ赤だった。
吸血系:ブラッドバット Lv4
ブラッドバット Lv3×2
攻撃パターン:衝撃波、噛みつき、吸血
唾液は出血毒を含み、噛まれると血が止まらなくなる。
高音を発し内臓へのダメージ、融解
弱点:火魔法、雷魔法、風魔法、首、心臓部への物理攻撃
「風刃っ」
3匹に手のひらを向ける。圧縮された風が解き放たれたようにブラッドバットに向かう。
先頭にいたブラッドバットの首が飛んだ。体と頭が別々に落ち、光に包まれる。
残った2匹が左右に分かれ、口を開き甲高い声を上げた。瞬間、身体に衝撃が来る。ジェットコースターの落下時に胃が浮くような感じに似ていた。
気持ちわるっ! でもなんともないっ!
「もういっちょ! 風刃!」
両手を出し、左右のブラッドバットに風刃を放つ。
1匹は胴体、もう1匹は首に風の刃が当たり、分断、光が包み消滅した。
カラッカランッ
魔石が3つ転がっていた。見覚えのある赤い小瓶も1つ。
「…なんとかなるもんだ」
風刃を両手で同時に出せることも分かった。
「航平、風魔法を使いこなしてますピ。強くなりましたピ!」
バッグからPちゃんが顔を出す。
「えー、そうかな? そうだな!」
魔石と増血剤を回収する。
風刃での魔力使用ポイントを確認するためライフを唱える。
Lv11 生命力 762/820 魔力 336/360
風刃を3発出して、魔力は10秒で1ポイント回復する。あれからまだ1分くらいだ。
1分で6ポイント…風刃は1発大体10ポイントだと分かった。
よしよし、最高36発連続で打てる。ん?
「あれ? 生命力が減ってる…。俺、攻撃されてないよな?」
体をぺたぺた触り確認していると、
「ブラッドバットの衝撃波は内臓へのダメージですピ。ちゃんと装備していないと内臓が溶けますピ」
Pちゃんがそう言って片羽を上げる。
「…そうなの? 衝撃波ってこうドーンと来るイメージで…絶対防御があるから大丈夫だと」
「絶対防御2は物理攻撃に対して鉄の鎧くらいですピ。衝撃波のような内臓へ来るものはまだ無理ですピ」
そういえばさっき胃が浮いたみたいで気持ち悪かったな…。
あぶなっ! 食らってる! 確実に食らってる!
そういえば鑑定にあった。内臓ダメージって。…深く考えなかった。
「…俺、衝撃波に備えて装備が欲しい」
「ちゃんぽん」トレーナーじゃ、ムリ。
読んでくれてありがとうm(_ _)m感謝のひとり三三七拍子
誤字脱字人間です。バレないようコソコソ直してます。