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Pちゃんの通訳は素晴らしい


 ガキンッ!


 魔物が伸ばした刃を空間庫から手にした雷光で弾き返す。イーサンの顔の横で小さく火花が散った。


『なっ!?……ん? お前……コウヘイか?』


「イエッスッ」


 頭上反対側から伸びてきた刃を受け止め弾き返しつつ、倒れているアレンに大回復をかける。


『お前がどうして……』


「アー、アイム……ちょっと待って後でっ」



昆虫系:シザーズシケイダ(変異体)Lv52

攻撃パターン:挟み込み(変異体のため無効)回転による多方面攻撃(特殊)

眼はなく、動く音、声の振動によって位置把握、攻撃をする

弱点:火魔法、雷魔法、腕の付け根、腹への物理攻撃



(Pちゃん! 変異体だ!)


 頭上の崖に張り付くそれは、蝉の羽化前に似ていた。ただ眼は白く濁り、体はハイエースのバンほどデカい。背中から生えた節のある腕の先には、刃渡り1メートルはゆうにある刃がついていた。


(しかも4本生えてるしっ!)


 背中から生えた脚か手か分からない牛刀のような刃を動かし、右左上と変則攻撃をしてくる。


『おい! コウヘイ! さっきから火花が……剣を弾く音も! お前何をしている!?』


 俺が剣を受け止めるたび、イーサンが体を動かすたびに、足元の岩場が少し揺れ、カラカラと小石が下へ落ちていく。あまり長くこの岩場は持ちそうにない。


(航平! 足場が崩れます! 早くやっつけるですピ!)


(分かってるけど! イーサンがこう近くにいると……)


(イーサンには何をしてるか見えていませんピ! アレンもまだ気を失ったままですピ!)


 蝉の幼虫が攻撃を一瞬止め、背中の4本の刃をトルネードのように回転させ始めた。このまま這って降りて来られたら、イーサンもアレンも、この崖の出っ張りごと渦巻く水面に落ちる。


「くそっ! イーサン! 動くなよ!」

『え? なんだって?』


 岩場から外側へジャンプし、白いスニーカーの底に小型トルネードを出す。崖から離れてしまえば幼虫の弱点が丸見えだ。回転する4本の腕の付け根……。


 雷光に魔力を込め、雷の長い刃を出す。その切っ先を腕の生えている中心に突き立てた。


 ギギッと幼虫が鳴く。


「壁は崩さないっ」


 岩肌に切っ先が届く前に、串刺し状態の幼虫を持ち上げた。


 ギッギギ……


 椅子の軋みのような声を残し、蝉の幼虫が淡い光とともに消える。


『……今の光は、モンスターか?……うっ』


 イーサンが剣鉈を持ったまま自分の腕を押える。どうやらレベルが上がったらしい。


 あの崩れそうな岩場に降りるのも危険だし、イーサンには見えていないから、とりあえず上の崖に避難していたことにして、降りてきたフリを……。


『うう……いてて……』


『アレン! 気づいたか!』


『……ああ、イーサンか。無事か? 確か、あのモンスターから逃げて……途中で崖から落ちた……』


 頭を振り、ムクリと上半身を起こしたアレンと、なぜか目が合う。


 ……あれ?


『……あれ? コウヘイ? なんでここに?……そこ、空中だぞ?』 


『アレン、確かにコウヘイはなぜかいるが、そっちは崖下……』


と、こっちを向いたイーサンとも目が合った。3人無言で見つめ合う。


 ……あれ?


(航平、アレンはもともと眼調整持ちで、イーサンは今のレベルアップで眼調整を取得したと思われますピ)


 Pちゃんが冷静に分析する。


(マジで!? マズい……ここはひとまず)


「……ハロー?」


 片手をあげて挨拶をした。



 ガリッガガッ……


『……コウヘイ、その首のレベルタグ、それと魔法。お前探索者だったのか。しかも高レベルの』


 崖の岩肌に土魔法で階段を作りながら登っていると、後ろから階段を上がってくるイーサンがボソリと呟いた。Pちゃんに翻訳を頼む。


『はい。今回あなた達の仲間から探してくれと頼まれました。二人とも無事で良かった』


 何でも軍病院で意識を取り戻した探索者から、地下2階に見たこともないモンスターが出現したと聞いて、4人パーティーで閉鎖中だったダンジョンの調査に入ったらしい。


 2階でさっきの蝉の幼虫に出くわし、強すぎたため逃走。イーサンとアレンで殿をつとめていたが、前を行く仲間ふたりとの間に、突然あの『ダンジョンの穴』ができた。引き返してこようとする二人に、応援を呼ぶよう地上へ戻らせた。


 逃げ場をなくしたイーサンとアレンは、崖下を覗いてあの岩場を発見し、眼調整2持ちのアレンが先導して降りたが、途中足を滑らせ落下。あの状況に至ったとのことだった。


『動かなくて逆に良かったです。あいつは動く音と声に反応して攻撃をする魔物だったから。二人の上をウロウロしていたし。ラッキーでしたね』


 俺がそう笑うと、アレンが後ろから、


『そうか……。上層部が言っていたVIPは、コウヘイのことだったんだね』


と、ため息混じりに言った。


『……命の恩人に俺は失礼な事を言ってしまった。すまない』


 イーサンが頭を下げる。


(ん? 失礼な事を言われた? いつ?)


 Pちゃんに聞き返すと、


(お腹が空いて機嫌が悪くなった事を言ってるんですピ)


(なんだ、そんなことか。気にすることはないし、そもそも今日来たのだって、待たせた借りを返すためでもあったし………Pちゃん、訳して)


(ピ……了解ピ)


「えっと『本当だ。そしてあなた達は弱すぎだ。俺がいなかったら死んでいたぞ? そんな俺にお礼がしたいと思うなら、イーサンとアレンがこの国で一番美味いと思うデザートを、プレジデントペントハウスに届けなさい。10個ばかり』……ん?」


(……Pちゃん、今デザートってワードが入ったけど、どういう意味合い?)


(『デザート=砂漠』のことですピ。砂漠が水を吸うように、すべて忘れ、お互いもう謝るのは止めようという意味ですピ)


(ああ、砂漠ね。聞いたことあるな。へえ、Pちゃんたまには良いこと言うね)


『デザート……』


 やや戸惑い気味の二人に、


「イエス! デザート!」


 俺はにっこり笑いかけた。


 



読んでくれてありがとうm(_ _)m 進んでます……


誤字報告本当にありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] まるでエキサイト翻訳だなw
[一言] L52を倒したってことはイーサンとアレンはL20超えたかな 同じPTのバリーがL13って事は結構上がって上位ランクに来てそう
[一言] 航平さすがにデザートのくだりは英語が苦手でもわかるだろw まぁ態度としては航平よりPちゃんの方が正しいと思うから問題無し しかしデザートとは無縁そうな二人の推薦するデザートかぁ…
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