トレジャーダンジョン
『もうすぐ着く。念のため衝撃に備えてくれ』
(衝撃に備えろと言ってますピ。もう着くようですピ)
「オ、オッケイ」
ウエストバッグの中にいるPちゃんが通訳をしてくれてホント助かる。
眼下には長い橋が見え、遠くにマンハッタンのような綺麗な夜景が見えた。昨日初めて飛行機に乗り、そして今俺は、初めてヘリに乗っている……。
あの電話のあと、ホテルの屋上に行けと千駄木オヤジに言われ屋上に出ると、パラパラとどこからともなく白いヘリが飛んできた。ヘリは俺の前に着陸し、プロペラを回転させたままドアが開いて、中から筋肉でピチピチのワイシャツを着た男が降りてきた。男は丁寧に俺を誘導すると、あれよあれよと言う間にヘッドホンみたいな物をつけ、安全ベルトを装着させ飛び立ったのだ。
(千駄木オヤジ絡みだろうなぁ……)
ここまで2時間半のフライト、目の前に座った男が茶色い目で俺を見ては、開きかけた口を閉じる。まあ知らない人に話しかけることもないので、俺も黙っていたけど。
『遊覧飛行ってことになってるから、基地内に入ると撃ち落とされちまう。悪いがここから徒歩で西に1マイル行ってくれ!』
特に衝撃もなく着陸すると、俺の安全ベルトとヘッドホンを外しながら、ワイシャツの男がヘリの出す音に負けないよう声を張る。そして首をひねり、遠くの灯りが規則的に並ぶ方向を指さした。
(ここから西に1.6キロの場所に行けと言ってますピ)
ワイシャツの襟首から六芒星がちらりと見える。
『何も聞くなと言われているし、どこの誰かも分からないお前を信用していいかも分からねえ。でも俺たちは潜れない。イーサンとアレンを見つけてくれ……まだ生きてるんだ、頼む』
(ピ、何も聞いてはいけないとー)
(うん、訳してくれなくても、なんとなく分かるよ)
きっとイーサンやアレンの仲間だ。
Lv13 バリー エイデン 26歳
種族:人間
職業:陸軍特殊歩兵第1部隊1等兵(中)、拳闘師(中)
所属:星
ランク/ランキング:F2346/10967
生命力:440/440
魔力:45/45
体力:85
筋力:90
防御力:85
素早さ:80
幸運:62
スキル:身体操作1 連撃1
パーティー:星F/1209/10967 イーサン ヘイズ Lv16
星F/1387/10967 アレン ホフマン Lv15
星F/2549/10967 トム グリント Lv12
『二人には借りもあるし、やれるだけやってみます』
中から降りると、風と音を巻き上げヘリが再浮上する。操縦席の男が敬礼をしているのが見え、その姿はすぐ上空へ消えていった。
「さてと……今何時? Pちゃん」
「カリフォルニア時間で22時58分30秒ですピ」
「母さんたちが起きるのが7時として、タイムリミットは8時間ってとこだなぁ。じゃあ移動するから、顔出しちゃ駄目だぞ? ふたりとも」
「ピ!」
「キュイ!」
ふたりがパタリと窓を閉めたのを合図に、俺は1.6キロ先の光を目指し瞬間移動した。
(監視塔とフェンス……ダンジョンはあの建物の中か)
気配探知と空間把握を打ち、隠密を全開にする。建物の中に人影はなかった。鉄条網含め3メートルほどのフェンスを飛び越え、建物の鉄扉をそっと外して中に入る。気づかれないようまた鉄扉を元の位置にはめ込み振り返ると、日本のダンジョンと同じような、閉ざされたシェルター扉がそこにあった。
(お、作りはほぼ同じだなぁ。あとは日本のダンジョンと魔物の種類も同じか、違うのか)
シェルターのハンドルを回し、中に入る。日本より小さめの鋼鉄の部屋に、静寂に包まれダンジョンがそこにあった。階段の広さも大きさも、なんの変哲もないダンジョンだ。でもなぜか、違和感があった。
(……あれ? なんか静かすぎない?)
(航平! ここは魔力が拡散していませんピ!)
(そうだよ! 換気の音がしないんだっ)
日本はゴーッと地響きのような音が常にしていたが、ここのダンジョンの部屋は無音。
(おそらく2週間前の死者が出た時から、閉鎖状態だったと思われますピ。これではいつここまで魔物が上がってきてもおかしくないですピ)
「まったく……敵国の人間が入らないようにして、逆に魔物が出てくるようにしてどうするんだよ……。ちゃんと千駄木オヤジたちの言うことを聞けよなー」
とりあえず換気しとこ……。
シェルターを囲っている建物にも窓はなく、空調もついていないため、上の方の対角線の上の壁に土魔法で穴を開ける。一部分が砂になるだけだから、破壊音もせず静かに空気穴ができた。
(あとはシェルター内の魔力を風魔法で外に出してっと)
(航平、まだ1階は魔力濃度が濃そうですが、シェルター内はクリーンになりましたピ)
(よし、じゃあ行こう)
シェルターの扉は開けたままに、ダンジョンの階段を降りていく。
(石の回廊か。今は探索よりイーサンとアレンの捜索が先だな)
空間把握、気配探知、捜索を放つ。1階に反応なし。駿足で2階に降りる。
「2階は岩場、岩盤階層か……。魔鉄とかあったり?」
「まず浅い階層にはありませんピ」
「そっか。ここで採れたら定爺やゆんの仕事がちょっと楽になると思ったんだけど」
Pちゃんの言葉にちょっとがっかりしつつ、1階と同じように捜索する。
「……ん?」
「いましたピ?」
「キュイ?」
「いや、空間把握でこの階の表層に、ちょっと見づらいところが……あ、分かった!」
「ピ!『ダンジョンの穴』ですピ!」
「『落とし穴』だ!」
「キュキュイ!」
いっせいに声を上げ、俺たちはその落とし穴に向けて駆け出した。
「深いな……」
足元に小型のトルネードを操作しながら、大きな地割れのような穴の中へ降りていく。遥か下にはいくつもの渦を巻く水面が見えた。
「地底湖か、海か……。あそこに落ちたら、かなり高レベルの呼吸法スキルを持ってないと、死ぬな」
でもあのヘリの仲間を鑑定した時、確かに二人は生きていた。空間把握と気配探知、捜索をもう一度放つ。赤い気配が崖のように切り立った岩肌にひとつあり、そのずっと下に金色の気配を2つ見つけた。
(いた!)
崖の途中の出っ張りに、倒れているアレンを背にして、イーサンが剣鉈を手に、辺りをうかがっているのが見えた。
「イ……」
声を掛けようとし、慌てて口を閉じた。
(……Pちゃん、空中に浮かんだまま声かけたら、俺どう思われると思う?)
(人間とは思われないですピ。よくて人間の姿をした魔物ですピ)
(ですよねぇ……。とりあえず二人の上から降りよう)
二人の上、30メートルほどの崖にしがみつき、スルスルと下に降りていく。
『イーサン! アレン! 無事ですか!?』
二人の頭上から声をかける。
『救助隊か!? アレンが体を強く打って意識がない! 頼む早く!』
イーサンの焦った声が壁に反響する。その声に刺激されたのか、赤い気配がすすっと動いた。
(マズい!)
『ヘッドライトが壊れて何も見えない! 明かりをくれ!』
二人のいる出っ張りに少し空間を見つけ、そこに飛び降りる。
『な……誰だ!?』
『しっ! 魔物が近づいてる!』
『……その声、聞き覚えが』
イーサンがジッと俺の顔を見ようとした瞬間、魔物がイーサンの首めがけ、刃のような手を伸ばしてきた。
読んでくれてありがとうm(_ _)m 感謝!




