失われた世界のアイテム
ダンジョンが部屋に出現して2日目の朝、6時にスッキリと目覚めた。
昨日はかなり疲れたはずなのに、体の調子はすこぶる良い。
枕元ではPちゃんが仰向けに寝ている。
ぽってり腹をワシワシしたい衝動を抑え、起き上がる。
ベッド横のガラステーブルに手を伸ばしかけ、止めた。
そうだった、もう眼鏡は無いし、必要も無くなったんだった。
「…ステータスオープン」
Lv11 田所航平(タドコロコウヘイ) 23才
種族:人間
職業:サラリーマン(低)
生命力: 820/820
魔力: 360/360
体力: 50
筋力: 47
防御力: 52
素早さ: 71
幸運: 200
魔法(全適性):風魔法2
スキル:駿足1 気配探知2 空間把握2 絶対防御2 隠密5 罠解除6
鑑定10 異常耐性10 魔法耐性10 眼調整10 空間庫10
生命力回復10 魔力回復10
ユニークスキル:賢者の家2 (3m×3m×3m)
魂の絆:***に創られし叡智 P
称号:「始まりを知る者」「立ち向かいし者」「幸運の尻尾を掴む者」
夢じゃないなぁ。…夢じゃないっ
俺はガバッと起き上がると、ヤカンに水を入れ、火にかけた。
お湯を沸かしている間、顔を洗い、ジーンズと左胸に白いロゴで「chanpon」と入った黒いトレーナーを着る。
前に美波から「ちゃんぽん」って、と大笑いされたが、安いし汚れも目立たないし問題ない。
空間庫から昨日買った卵を3つ取り出すと、かき混ぜ、塩コショウと牛乳を入れる。
フライパンを温めバターを入れてから、卵をジュワッと入れ、手早く混ぜながら、まだ緩い状態で火を止めた。余熱で卵を固める。スクランブルエッグの完成だ。
焼き上がったトーストにバター&イチゴジャムを塗り、ポタージュスープの粉をお湯で溶かす。
レタス、キュウリ、トマトも空間庫から出し、適当な大きさに切ってから、オリーブオイル、酢、塩を混ぜたドレッシングをかけて完成。
ドレッシングはまとめて作れない。賞味期限が短いからだが、今後はまとめて作れる。
だって俺には空間庫があるから!
「ああ、素晴らしい」
出来上がったものをテーブルに並べていると、Pちゃんが起きてきた。
「おはようPちゃん」
「おはようございますピ。美味しそうですピ」
「だろ? じゃあ食べたらダンジョンに潜ろう。明日からまた仕事だし、今日は7、8階までは行きたい」
俺が手を合わせ頂きますをすると、Pちゃんも羽を合わせる。
はあ、可愛すぎる。チョコが絡むと面倒くさくなるけど。
こうして朝飯を食べ終わった俺たちはダンジョンに入った。
「やっぱり出てこないな」
ダンジョン地下3階、昨日階下に空いていた穴は塞がっていた。まだ回っていなかった3階をまずは回っていたが、魔物には遭わない。気配探知と空間把握をしても、俺たちが動くと反対側に回ってしまう。
「しょうがないですピ。自分より強い魔物には近付かない、ダンジョンで生きるうえでの本能みたいなものですピ」
バッグの口からPちゃんが顔を出す。
「自分より強い魔物って、俺人間ですけど…」
「どっちも同じですピ。食べるため、殺されないため、生存するための戦いですピ」
Pちゃんがバッグから出て、左肩に止まる。
まあ確かに魔物からしたら、俺も魔物か。
「航平、どうしましたピ?」
考える俺の頬をPちゃんが突く。
「そうだなっ。もしかして隠し扉にお宝が…ってことがあるかもだし」
気を取り直して、通路を右へ曲がった時、それはあった。
「…Pちゃん、この先の突き当りに何か見えるか?」
「いえ、何もないですピ。ただの突き当りの石壁、次は左へ道は続いてますピ」
「俺の眼調整10、凄いな」
まっすぐ進み突き当たると、その壁の一部分、両手を軽く広げたくらいの幅と、俺の背丈程の高さで、壁の色が周りの壁より1段階濃い色をしていた。
触ってみてもただの石の感触だけ。
足元の右隅の壁が気になり、しゃがみ込み確認する。そこにサイコロのような魔石が埋まっていた。
「壁が開くみたいだ」
気配探知と空間把握の波紋を放つ。
壁の向こうには何も気配は無く、空間把握でもただの壁と同じ反応だった。
「部屋なのか通路なのか分からないな…よし、入るぞ。Pちゃんはバッグに」
「はいピ」
念のため、Pちゃんをバッグに戻してから、右隅の魔石を指で強く押した。
魔石が壁の中に引っ込む。色の違った壁がフッと消え、そこに入り口が現れた。
キラーアントの牙を握り直し、息を殺して中に入る。
そこは奥行き幅共に10メートルぐらいの正方形の部屋だった。
そして中央には、取っ手のない手持ち金庫のような黒い箱が置かれている。
「…なんだあれ? 宝箱かな?」
おっと、危ない危ない。不用意に近づくところだった。
ここは冷静に鑑定だ。
Lvタグの箱:魔力内包タグ生成(無制限)
***世界の最下層120階で伐採された魔樹木から製作
製作者:賢者Lv130**** 錬金術者Lv105*****
「Pちゃん…俺には鑑定内容が全く分からないんだけど…」
早速冷静さを失った俺は、Pちゃん頼みに切り替える。
日本語だよね?
「これは消滅した世界で使われていた物ですピ」
「ハイ?」
Pちゃんが肩に乗ってくる。
「これはレベルタグ、個人の魔力識別、記憶、共通認識のタグが箱の中に錬金されていくんですピ」
Pちゃんの言葉も俺は認識できませんけど?
「たまにあるんですピ。強い魔法や魔力を内包しているアイテムは、長い年月をかけて復元されることが。形状記憶魔力という感じですピ」
「いや、どの感じか全くわからないけど」
「このレベルタグは、探索者、いわゆる冒険者に配られていた物ですピ。個人の魔力を認識して、タグが記録、レベルや経験値が上がれば上書きされ、同じ箱から製作されたタグを持っていれば、そのタグに記録されているレベル、経験値で共通順位、ランキングが出ますピ。冒険者登録所も管理しやすいですピ」
「ふーん、分かるような分かんないような…。にしても賢者130とか錬金者105とかレベルがヤバいな」
それくらいの高レベルの人間?たちが作った物だ。多分凄い物なのだろう。
俺には必要ないが一応空間庫に収納する。貰えるものは貰っておく主義だ。
「航平もすぐ到達しますピ」
「…どんだけ戦わなきゃいけないんだ。俺はある程度賢者の家のスペースが確保できたら引き込もる」
隠し部屋を出ようとした時、思い出した。
「Pちゃん、俺今、賢者の家2だ。ここでちょっと確認していく」
一辺3メートル、27立方メートルになっているはずだ。
レベルタグの箱があった中央に向け、右手を突き出す。
「賢者の家っ」
ファンッ
半透明の楕円の膜が現れた。
読んでくれてありがとうm(_ _)m感謝の踊りは次の段階に入ってます