時差16時間
「品川での事は無かったことにして欲しいと、自衛隊側から申し入れがあった」
千駄木オヤジがフンと鼻を鳴らす。
「なんだよそれ、勝手に14人も入れといて。ギルマスとガイド、美波がいなかったらみんな死んでるとこだろ?」
翌日の夕方、会議室に珍しくやって来た冬馬が、千駄木オヤジの言葉に憮然として言い返した。会議室に揃った面々を見て、妙に気落ちしているように見えたが気のせいだったか。
「有を無とするために必要なことは提示したから問題はない。ところで航平くん、今回のことは、偶然か? それとも必然の出来事か?」
千駄木オヤジがじっと俺を見つめる。
「偶然です。強制的に転移させる魔物がいるんで、多分あいつはその子に転移させられたんだと思いますよ。俺の部屋のダンジョンにもいます。ちなみのマシロはその子たちの亜種です」
「キュ?」
テーブルの上でPちゃんと一緒に、チョコチップクッキーを食べていたマシロが顔を上げる。
「品川にもいるとなると、他のダンジョンにもいる可能性が出てきたね」
徹さんがマシロの頭を優しくなでた。なでられて嬉しいのか、三好さん手作りクッキーが美味いのか、マシロが目を細めながら、もぐもぐと口を動かす。うん、両方だな。
「聞こえたか?」
スクリーンに映った各ギルドマスターたちが頷いた。
「もし今回のように突然高レベルの魔物が転移してくれば、探索者たちが危険だ。ここは全ダンジョンを一時閉鎖して、確認してみるか……」
「ピ、品川と航平のダンジョンだけですピ」
「ん? P様、今なんと?」
思わず聞き返した先輩に、
「テレポは珍しい魔物ですから、10のダンジョンの内ひとつにいるかどうかですピ。こんなに狭い範囲で2ヶ所もいる方が驚きですピ」
ボリボリとクッキーを食べながら言った。
「Pちゃん……もっと早く言ってくれよ」
「ピ?」
Pちゃんが体を傾ける。
「……はいはい、いつもの事でした」
「……うむ、それならそれでいい。では問題は品川か」
「そうですね」
しかもガランカと同じ階層、高レベルの魔物が飛ばされてくる可能性が高い。
「いつどこで遭遇するかわからないのが厄介ですね。気配探知のスキルを持っていれば回避するなり、逃げるなりできるけど、探索者全員が持ってるわけじゃないからね」
徹さんがため息混じりに言った時、冬馬が声を上げた。
「ああ、事典の第2章に載ってんなあ、それ」
「ん? 冬馬、今なんと?」
先輩が聞き直すと、
「だから魔法陣図解使用法事典に『気配探知図』の作成に必要な魔法陣が載ってるんだよ」
「……冬馬お前、そういう事をなんで言わない」
「今言っただろ?」
Pちゃんと同類か!?
10月14日17時
米カルフォルニア州、サンフランシスコ市トレジャーアイランド
『よう! どうだ? 良い物はドロップしたか?』
『いや、いつもと同じさ。10体に1体、"毒消し"か"角"が出れば良いほうだ。なかなかお宝には出会えない』
『全くだ。"トレジャーアイランド"の名が泣くよ』
俺とパーティーを組む二人も肩をすくめる。他パーティーとは、すれ違いざまに挨拶を交わすのが俺たちE-1の流儀だ。いや、ダンジョンに潜って給与等級だけはE-3に上がったから、E-3の流儀だな。
とは言っても、首に入ったタグタトゥーを触ると出てくるランクには関係ないが。
starG8048/9235 Clyde Acker Lv9
starG8245/9235 Alf Cnnor Lv5
starG8321/9235 Ben Mogan Lv4
『おいクライド、今日は2階中心か?』
ベンの額についたライトが、そわそわと地下1階の回廊の石壁を動き回る。
『ああ、そろそろ俺たちパーティーも、ドロップ品をたんまり売りたいだろ?』
『まあね、危険な探索者に志願したのは、給料アップ、プラスアルファのためだからな』
金髪のアルフが緊張した面持ちで頷いた。
報告書によればトレジャーアイランド、『宝島』と呼ばれる場所に、突如ダンジョンが出現したのは7月27日朝9時。旧海軍基地に出現したダンジョンは、1ヶ月放置されていたらしい。ダンジョンが出現する以前からフェンスが張られて、誰も入れない場所だったから、当たり前といえば当たり前か。
『ベン、そんなにそわそわするなよ。今日から武器をこのソードに変えたんだ。大丈夫さ』
腰に差した剣を引き抜く。
『まあちょっと短いが、甲殻で覆われた魔物も斬れるらしい』
グリップは牛か何かの黒革。鋼の中心部から刃先にかけ、黒い鉄に色が変わる。ぶっちゃけクールだ。
『軍も出し惜しみしないで、初めから支給しろってんだよ。何本ナイフや牛刀駄目にしたと思ってんだ。銃器は使用禁止だしな』
『ああ、俺は銃の方が得意だから参ったよ。……まああの甲殻の化け物には、銃は効かないらしいから意味ないけど』
アルフがははっと乾いた笑いを上げた。
『その代わりアルフは弓支給されたじゃないか。今日からお試しだろ?』
『飛び道具で一緒だとか言うなよ? でもこの矢じり、剣と同じで黒いけど、素材なんだろうな?』
ヘッドライトで矢の先を照らしながら、アルフが呟く。
『さあね。多分軍部が開発したんじゃないか? 対魔物用で』
『おい二人とも、あまり大声で話すなよ。魔物が寄って来たらどうする』
ベンが焦ったように人差し指を口に当てた。
『そうだった……。よし、行くか』
俺たちは頷き合い、トレジャーダンジョン地下2階を目指し歩き出した。
読んでくれてありがとうm(_ _)m 感謝に時差はないぜい! え? 意味不明?
誤字報告ありがとう!




