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事後報告会



「二葉さん、番組の方はどう?」


 徹さんの問いかけに、


「薫さんのフォロワーさんが、私の番組もフォローしてくれた感じです。昨日の初放送で視聴者は5600人でした」


と、会議室のスクリーンに映った二葉さんが頷いた。


「先週ボクの視聴者は1200人だったが……フゴッ」


 先輩があからさまにがっくりとうなだれる。


「昨日は日曜日だったから」


 二葉さんが慌ててフォローを入れた。


「ピ、薫は魅了スキルをもう少し上げればいいですピ」


 会議室のテーブルの上で、マシロとオレンジジュースを飲みながら片方の羽を上げた。


「P様……分かりました。航平君、今からダンジョンに行こう」


「嫌です」


 きっぱりお断りをした。


「現在の探索者数8949人、うち日本が2674人。かなり増えましたね」


 徹さんの言葉にスクリーンに映し出されたギルドマスター、つぐみさん、ゆんが頷く。今日はギルド報告会だ。ゆんの後ろで定爺が美味そうに酒を飲んでいたが、気にしないことにする。


「武器、装備はどうだい?」


 徹さんが画面の二人に尋ねる。


「もうずっと大変だったんだから! 追加注文で! なんとかノルマ達成したけどさっ。ちゃんと約束通りボーナスちょうだいね? 鍛冶師のみんなも頑張ったんだから!」


 ゆんが両腕を大げさに上げ、


「装備品の針子たちも頑張ってくれた」


と、つぐみさんも頷く。


「もちろんだよ。明日にでも振り込まれるはずだ。薫、事業の方は?」


「今大型蓄電機の設置中。かなり予算が取られるけど魔石は十分にあるし、完成すれば匿名で電力の月単位先渡し市場取引ができる。公安が情報を抑えてくれてるから、匿名じゃなくても問題ないけど、用心に越したことはないからね。クククッ! フゴッ!」


 先輩がもういつもの調子を取り戻し、鼻を鳴らした。


 10月12日、ギルド始動から約2ヶ月。ギルド運営、電気事業共に順調で、探索者から大きな怪我人も死者も出ないまま、登録者数は増え続けている。


「開発部は、冬馬が魔法陣事典に夢中で今日は欠席だから、代わりに報告するよ。『ペーパートイレ』の売上は好調で、魔法陣の描き順をインプットした機械で大量生産できたから、供給も間に合っている。今新製品の開発中だ。みんなまた驚くと思うよ」


 徹さんが子供のようにふふっと笑うと、スクリーンから千駄木オヤジに視線を移した。


「長、報告は以上です」


「ああ、みんなよく頑張ってくれている。じゃあ俺からもみんなに伝えておこう。うちの『探索者ギルド』が特殊法人になった」


 千駄木オヤジが両手の指を組み、にやりと笑った。


 ん? なんだって?


「社長! いえ、長……いつの間に」


 スクリーンに映る遠野さんが、エミーナを膝に乗せたまま画面に近づいた。エミーナのくりくりと大きな青い目も一緒のアップになる。


「そんなに驚くことはない。エミちゃんがびっくりしてるじゃないか」


 ねえ、エミちゃん、と千駄木オヤジがスクリーンに向かって微笑む。


「今日国会で事業計画書が可決された。魔石利用による安定した電力供給が実現すれば、そのうち産業エネルギー庁所管の独立行政法人に移行するだろうが、今はまだいい」


「オヤジさん、俺にはさっぱり分からないんだけど……どういう事?」


「そうだな、今まで通り、日雇いの一般探索者が武器を持ってダンジョンに潜っても、電気の原料である魔石採取だから文句は言われないし、何かあれば補償も受けられるって事だ」


「……それは凄いですね。父さん」


「父さんが何か動いていたのは分かっていたけど、こんなに早く特殊法人になるなんて……フゴッ。失礼」


 この様子だと、先輩も徹さんもどうやら知らされていなかったらしい。


「まだよく分からないけど、要するにギルドはどうなるの?」


 スクリーンに映るひとみさんが不安げに呟く。


「今のまま、みんな頑張ってくれれば良い。国の利益になると認可された民間企業だ。接収される事はなくなったんだからな」


「長、何をどうしたら、そうなるのでしょう?」


 紅音さんが首を傾ける。


「なに、ちょっと金と根回し、他国の有力者からの後押しがあれば大抵のことは通る。詳しく話すか?」


と、いつもの不敵な笑みを浮かべる。


「……いえ、結構です」


 紅音さんが無表情で断った。俺だって詳しく聞きたくもない。知れば命が狙われそうだ。


「ただこちらもそれ相応のペイをしたが」


「ペイとは? 父さん?」


「海外ギルドに魔鉄武器及び装備品の提供、魔石利用による国際特許ロイヤリティは年間利益5%固定、まあ独占分野だから大体半額だな。そのロイヤリティ料の2/3を国庫に寄付する。とまあそんなところだ。だが航平くんの作るポーションと、ひとみが『調合研究』している資料、それから開発部の道具は出さない」


 千駄木オヤジが言葉を切る。


「なんせポーションや調合、魔道具は日本ギルドの専売特許、命運を握るキーアイテムだからな」


「ピ、いよいよ『探索者登録所』らしくなってきましたピ!」


 Pちゃんの嬉しそうな声が、静かな会議室に響いた。


 失われた世界の探索者ギルド、どんな所だったんだよ……。








読んでくれてありがとうm(_ _)m 千駄木オヤジ……


誤字報告ありがとう!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公はどんなに忙しくてもボーナスどころか給料も出ないけどね。
[一言] 失われた世界の探索ギルド、かなり広い数階建ての建物の中にアイテム屋さんとか、買い取りをする場所、開発と実験する部署、複数の綺麗な受付さん、そして最上階にギルドマスターの部屋があるってイメージ…
[一言] とうとう笑わずに鼻だけ鳴らすようになってしまった先輩・・・
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